『論語 尭曰篇』の書き下し文と現代語訳

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孔子と孔子の高弟たちの言行・思想を集積して編纂した『論語』の尭曰(ぎょうえつ)篇の漢文(白文)と書き下し文を掲載して、簡単な解説(意訳や時代背景)を付け加えていきます。学校の国語の授業で漢文の勉強をしている人や孔子が創始した儒学(儒教)の思想的エッセンスを学びたいという人は、この『論語』の項目を参考にしながら儒学への理解と興味を深めていって下さい。『論語』の尭曰篇は、このページによって解説されています。

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[白文]1.尭曰、咨爾舜、天之暦数在爾躬、允執其中、四海困窮、天禄永終、舜亦以命禹、曰、予小子履、敢用玄牡、敢昭告于皇皇后帝、有罪不敢赦、帝臣不蔽、簡在帝心、朕躬有罪、無以萬方、萬方有罪、罪在朕躬、周有大賚、善人是富、雖有周親、不如仁人、百姓有過、在予一人、

[書き下し文]尭(ぎょう)曰わく、咨(ああ)、爾(なんじ)舜(しゅん)よ、天の暦数は、爾(なんじ)の躬(み)に在り。允(まこと)にその中(ちゅう)を執れ。四海困窮。天禄(てんろく)永く終わらん。舜も亦以て禹に命ず。(湯(とう))曰わく、予(われ)、小子履(り)、敢えて玄牡(げんぼ)を用て(もって)、敢えて昭か(あきらか)に皇皇后帝(こうこうこうてい)に告ぐ。罪あるは敢えて赦さず(ゆるさず)、帝臣蔽さず(かくさず)、簡ぶ(えらぶ)こと帝の心に在り。朕(わ)が躬(み)罪あらば、万方(ばんぽう)を以てすること無かれ。万方罪あらば、罪は朕が躬に在らん。周に大賚(たいらい)あり、善人是(これ)富む。周親(しん)ありと雖も仁人に如かず。百姓(ひゃくせい)過ち有らば、予(われ)一人に在らん。

[口語訳]尭が言われた。『ああ、なんじ舜よ。天の運行・運命は汝の一身にかかっている。帝位に就くために程よい中くらいを守るようにせよ。四海の人民は困窮している、天の恵みが永遠に続かんことを』。舜帝もその言葉を禹に命じた。商(殷)の湯は言った。『われ、未熟なる履(湯の名)、ここに黒毛の牡牛をお供えし、はっきりと上帝に申し上げる。「罪ある者(夏の桀王)は許さず。上帝の臣下は隠すことなく、上帝の御心のままに選びます。わが身に罪のあるときは万民に罰を与えないように。万民に罪のあるときは、罰をわが身に与えてください」。周には天のたまものあり、それで善人は富み栄えている。(周の武王は言った)。「濃い血縁関係があっても、仁の人には及ばない。人民に過ちがあれば、その責任は我が身一つにあるのだ」。』

[解説]古代中国の伝説の聖王である尭・舜・禹の間の「禅譲」について書いており、殷の湯王と周の武王の「仁徳」に満ちた偉大な業績についても記録されている。

[白文]2.謹権量、審法度、修廃官、四方之政行焉、興滅国、継絶世、挙逸民、天下之民帰心焉、所重民食喪祭、

[書き下し文]権量(けんりょう)を謹み(つつしみ)、法度(しゃくど)を審らか(つまびらか)にし、廃官を修むれば、四方の政行われん。滅国を興し、絶世を継ぎ、逸民を挙ぐれば、天下の民、心を帰せん。重んずる所は、民・食・喪・祭。

[口語訳]慎んで目方と升目の基準を整え、明瞭に法の尺度を定め、廃れた官を復活させれば、四方の政治は上手くいくようになる。滅んだ国を復興させ、絶えた家柄を引き継がせ、隠棲者(世捨て人)を用いれば、天下の民は政治に心を帰属させる。重視すべきことは、人民・食糧・服喪・祭祀である。

[解説]四海を安定統治するための君子の王道について述べた部分であり、滅んだ国の復興や断絶した家の建て直しなど「永続的な政治原則」を解説している。人民の安楽と幸福のための政治を唱えた儒学らしく、重視すべきものに「人民・食糧・服喪・祭祀」を挙げている。

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[白文]3.寛則得衆、信則民任焉、敏則有功、公則民説、

[書き下し文]寛なれば則ち衆を得、信なれば則ち民任じ、敏なれば則ち功あり、公なれば則ち説ぶ(よろこぶ)。

[口語訳]寛大であれば大衆の人望が得られ、信(まこと)の情があれば人民から頼りにされ、機敏であれば仕事で功績を上げ、公平であれば人民に喜ばれる。

[解説]上の章と同じように「君子の政治原則」についてまとめた部分であり、「寛容性・誠実性・機敏性・公平性」の4つを人民から敬服される徳治の要素として上げている。

[白文]4.子張問政於孔子、曰、何如斯可以従政矣、子曰、尊五美屏四悪、斯可以従政矣、子張曰、何謂五美、子曰、君子恵而不費、労而不怨、欲而不食、泰而不驕、威而不猛、子張曰、何謂恵而不費、子曰、因民之所利而利之、斯不亦恵而不費乎、択其可労而労之、又誰怨、欲仁而得仁、又焉貧、君子無衆寡、無小大、無敢慢、斯不亦泰而不驕乎、君子正其衣冠、尊其瞻視儼然、人望而畏之、斯不亦威而不猛乎、子張曰、何謂四悪、子曰、不教而殺、謂之虐、不戒視成、謂之暴、慢令致期、謂之賊、猶之与人也、出内之吝、謂之有司、

[書き下し文]子張、政を孔子に問いて曰わく、何如(いか)なればこれ以て政に従うべき。子曰わく、五美を尊び四悪を屏(しりぞ)ければ、これ以て政に従うべし。子張曰わく、何をか五美と謂う。子曰わく、君子、恵(けい)して費やさず、労して怨みず、欲して貪らず(むさぼらず)、泰(ゆたか)にして驕らず(おごらず)、威にして猛からず(たけからず)。子張曰わく、何をか恵して費やさずと謂う。子曰わく、民の利とする所に因りてこれを利す、これ亦恵して費やさざるにあらずや。その労すべきを択んでこれを労す、又誰をか怨みん。仁を欲して仁を得たり、又た焉(なに)をか貪らん。君子は衆寡と無く、小大と無く、敢えて慢る(あなどる)こと無し、これ亦泰にして驕らざるにあらずや。君子はその衣冠を正しくし、その瞻視(せんし)を尊くして儼然(げんぜん)たり、人望みてこれを畏る、これ亦威にして猛からざるにあらずや。子張曰わく、何をか四悪と謂う。子曰わく、教えずして殺す、これを虐(ぎゃく)と謂う。戒めずして成るを視る、これを暴と謂う。令を慢く(ゆるく)して期を致す、これを賊と謂う。猶しく(ひとしく)人に与うるに出内(すいとう)の吝か(やぶさか)なる、これを有司(ゆうし)と謂う。

[口語訳]子張が孔子に政治についてお尋ねした。『どのようにすれば、政治に携われますか?』。先生は言われた。『五つの美徳を尊び、四つの悪徳を退ければ、政治に携わることが出来るだろう』。子張は聞いた。『五つの美徳とは何ですか?』。先生は答えられた。『上に立つ者が、恩恵を与えても費用をかけず、働きながら怨みとせず、欲求を抱いてもガツガツ貪らず、ゆったりしていて傲慢にならず、威厳があっても激烈ではない、これが5つの美徳である』。子張が言った。『恩恵を与えても費用をかけないとはどういうことですか?』。先生は言われた。『人民が利益としていることをそのままにして利益を得させる、これが恵んでも費用をかけないことではないだろうか。自分で苦労して働いているとしても自分で選んで働いているのだから、一体誰を怨むことがあろうか。仁を求めて仁を得るのだから、どうして必要以上に貪ることがあるだろうか。上に立つ者が相手の人数の多さや貴賎にかかわりなく決して侮らない、これがゆったりとしていて高ぶらないということではないだろうか。上に立つ者が衣服や冠を整えて、その目の付け方が重々しく、謹厳実直に振る舞っていると、人民はそれを眺めて畏敬する。これが威厳があっても激烈ではないということではないだろうか』。子張が言った。『四つの悪徳とは何ですか?』。先生がお答えになった。『国民を教化せずに、罰則の処刑を行うのを「虐」という。国民に事前に注意をせずに、急いで何かをやらせようとすることを「暴」という。曖昧な命令を出しておきながら、期限を厳しく設定して徴集する、これを「賊」という。人民に平等に分け与えるのに出納(会計)がケチである、これを「お役所仕事(役人根性)」という』。

[解説]孔子が政治に携わる君子として知っておくべき『5つの美徳・4つの悪徳』について詳細に解説している章である。『虐・暴・賊・お役所仕事』は現在の悪しき政治形態や行政業務にも当てはまるものであり、孔子は人民の生活や安全・正義を守れないようないい加減な政治のやり方を認めることが無かった。

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[白文]5.孔子曰、不知命、無以為君子也、不知礼、無以立也、不知言、無以知人也、

[書き下し文]孔子曰わく、命を知らざれば、以て君子たること無きなり。礼を知らざれば、以て立つこと無きなり。言を知らざれば、以て人を知ること無きなり。

[口語訳]先生が言われた。『天命を知らなければ君子となることは出来ない。礼を知らなければ官位に就くことが出来ない。言葉(議論)の意味を知らなければ、人物を評価することが出来ない』。

[解説]論語の最終章では、『天命』を理解した人物のみが君子になれるというある種の宿命論が説かれており、礼制・知性(言葉)を持つ有徳の士が己の天命を知ることによってのみ『道』を実践できるということが示されている。

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