あつめじる(集汁)は、魚介類やツミレにさまざまな野菜・豆腐・椎茸(しいたけ)・油揚げなどを混ぜて味噌や出汁で煮込んだ味噌汁(すまし汁)のことである。様々な具材・素材を集めて作った汁ということで『あつめじる(集汁)』と呼ばれるようになったと言われるが、味噌汁としてのあつめじるも含めると日本では最もポピュラーな汁物である。
あつめじる(集汁)に入れる代表的な具材は、『大根・ゴボウ・人参・椎茸・豆腐・油揚げ・魚介類(ツミレ)』であるが、好みによってそれ以外の野菜や肉類などを入れても美味しく食べることができる代表的な和食でもある。中世~近世の日本で作られていたあつめじるには、串鮑(くしあわび)や干し魚が具材として入れられることも多かったが、邪気を払う清浄で健康的な食べ物として5月5日の端午の節句に食べる風習もあった。
あつめじる(集汁)の名前の由来としては、古代の王朝時代(平安朝)からある『羹(あつもの)』が訛ったとする説もある。羹というと現代では『羹に懲りて膾を吹く(あつものにこりてなますをふく)』という屈原の『楚辞』を原点とする故事成語(慣用句)が残されているくらいだが、この故事成語の意味は『ある失敗に懲りて、必要以上に用心深くなり無意味な心配をすること』というものである。
『羹(あつもの)』というのは、鳥・魚の肉や野菜を煮込んだ熱い汁物のことである。『膾(なます)』というのは、鳥・魚・獣など生肉を刺身で食べる冷たい料理のことである。膾(なます)のように冷たい料理のことを『うすもの』と呼ぶこともある。羹と膾の違いを理解できると、『羹に懲りて膾を吹く』の意味がより分かりやすくなると思うが、集汁(あつめじる)も熱い汁物である羹(あつもの)の一種と考えることができる。
集汁(あつめじる)に似た汁物として、旧暦の12月8日、2月8日の『事八日(ことようか)』に無病息災を祈って食べる習慣があった野菜たっぷりの味噌汁『お事汁(おことじる)』というものもある。お事汁は別名を『六質汁(むしつじる)』と呼ぶこともある。元々、『芋・大根・人参・ゴボウ・小豆・コンニャク』の6種類の具材を入れていたことから六質汁と呼ばれていたという。無病息災を祈願する味噌汁であり、栄養豊富な根菜が中心になっており、『ビタミン・ミネラル・食物繊維』のバランスが良い味噌汁になっている。
室町期に作られていた初期の集汁は、5月5日の端午の節句に食べる味噌汁だったが、その後にすまし汁の形態も増えてきたのだという。江戸期の薩摩藩(鹿児島県)では、鯛(タイ)と野菜を入れた味噌汁の集汁が、祝いの席などで好んで食べられる習慣が出来ていたという。
集汁(あつめじる)は上杉謙信や伊達政宗といった戦国武将の多くにも愛好される料理だったという。安土桃山時代の天正10年(1582年)には織田信長をもてなす宴席で、『いりこ・串鮑(くしあわび)・麸(ふ)・椎茸・大豆・甘海苔』を具材にした集汁が作られて提供されたという記録がある。