死の女神モリガン、半神半人の英雄クーフリン

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死の女神モリガン

ケルト神話で死の女神とされるモリガン『戦闘の女神』でもあります。モリガンはカラスの姿に変身して戦場に姿を現すことで知られますが、戦場では常に『モリガン・バズヴァ・ヴァハ(あるいはネヴィン)』の三人一組になって血と死を求めて辺りを飛び回るのです。

生と死が入り乱れる戦場を好む不気味な死の女神モリガンは、北欧神話で有名な戦争の女神ヴァルキューレ(ワルキューレ)にも例えられることがありますが、モリガン自身は戦闘に参加することはないとされています。モリガンは仲間の神であるバズヴァやヴァハ(あるいはネヴィン)と共に、カラスやワタリガラスに姿を変えて、敵を挑発したり威嚇したりしながら戦況を見守っているのです。

戦場を飛び回るモリガンは戦闘で多くの血が流れることを好み、人々の死が増えることを願う邪悪な女神としての顔を持っていますが、カラスの姿をしている時のモリガンは『(戦争で死んだ者たちの)死肉』を漁って食らうとも言われています。

モリガンは邪悪さだけではなく魅力的な要素も併せ持っており、『死の女神・戦争の女神』であるだけではなく『誘惑的な性の女神』としての側面もあります。古代に勃発したダーナ神族とフィル・ボルグ族との戦争では、モリガンはヌアザという英雄的な男性神の元を訪れ誘惑して一夜を共にしましたが、性の女神モリガンと関係を持った者は超人的な力を得ると伝えられています。

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性の女神モリガンに愛されたダーナ神族のヌアザは、モリガンの神秘的な力の加護を受けて、見事にフィル・ボルグ族との戦争で勝利したのです。ヌアザの名前には、『幸運を呼ぶ者』という意味があります。ヌアザは古代ギリシア神話のゼウス(ユピテル)に相当する強力な英雄神として位置づけられているのですが、ダーナ神族を率いる指揮官としてフォル・ボルグ族と勇敢に戦ったヌアザは、戦闘で負傷して片手を失ってしまいました。

片手を失って王座まで譲ったヌアザですが、治癒の神であるディアン・ケヒトから銀の義手を作ってもらいます。それ以降、ヌアザは『銀の手を持つ神』という異名を持つことになったのですが、ディアン・ケヒトの息子のミァハが血と肉から制作した本物と変わらない義手を作ってくれたため、ヌアザは再びダーナ神族の王座に返り咲くことができたのです。

性の女神であるモリガンは、ヌアザ以外にもダーナ神族の長老格の偉大な英雄ダグザを誘惑して関係を持ったことでも知られます。ダグザは巨大な棍棒を武器として持ち歩く父神であり、この棍棒にはあらゆる敵を一撃で粉々に打ち砕いて倒してしまう『死の力』と死んだ者を完全に蘇生させることができる『生の力』の両極が備わっていたとされます。モリガンと関係を持ったダグザは、モリガンから戦闘を有利に展開するための預言を授かって、見事にフォモール族との戦争に打ち勝ったのでした。

時代がだいぶ下ったアルスター神話の時代にも、モリガンはいくつかのエピソードを残しており、特に半神半人の英雄クーフリンを誘惑して拒絶されたエピソードが有名です。戦場で戦っているクーフリンの元に、美しい乙女の姿になって現れたモリガンは、『財産と牛を提供するから私と一緒に愛し合いましょうよ』とクーフリンを情熱的に誘うのですが、英雄クーフリンはそんなふしだらな関係には興味がないとばかりに拒絶したのでした。

死と性の女神であるモリガンは、自分を拒絶したクーフリンを恨んで呪いを掛けます。さらに、鰻やメスの狼、雌牛などさまざまな動物に姿を変えて、クーフリンに付きまとい、彼の戦争での戦闘・活躍をしつこく邪魔し続けたのでした。しかし、勇敢に戦っているクーフリンは勢い余って、動物に変身していたモリガンに深手を負わせて傷つけてしまいます。

戦闘が終わって、喉の渇きに苦しんでいた英雄クーフリンは、偶然通りかかった牛の乳搾りを生業とする老女と出会い、一杯のミルクを飲ませて欲しいとお願いします。老女は『私に祝福を与えて下さるのであれば、このミルクを差し上げましょう』と返事をし、クーフリンは老女に祝福を与える約束をします。

この老女の正体が死の女神モリガンなのですが、クーフリンが与えてくれた祝福によって深い体の傷を回復させることができ、そのまま不気味な微笑だけを残してどこかに飛び去っていったのです。しかしモリガンはクーフリンのことが本当に好きだったのか、その後、クーフリンが戦場で無念にも戦死してしまった際には、彼の肩にカラスになって止まり続けていたといいます。

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半神半人の英雄クーフリン(ク・ホリン)

超人的な戦闘力を誇った英雄クーフリン(ク・ホリン)は、魔法の槍ブリューナグで圧倒的な強さを誇った太陽神ルーフの息子です。勇者クーフリンは太陽神ルーフと人間の母との間に生まれた『半神半人の超人・英雄』として知られ、アイルランドに伝承されているアルスター神話のエピソードに登場します。

アイルランドのアルスター王コンホヴォル・マックネッサの時代に、クーフリンは王を護衛する赤枝戦士団の一員として活躍したとも伝えられています。生まれたばかりのクーフリンは、ドルイド僧から『偉大な戦士として成長するが、若くして死ぬ運命にある』という不吉な予言を受けますが、最強の女戦士スカサハから武術・戦術を教え込まれて逞しく成長を遂げていきました。

女戦士スカサハから徹底的に戦いを仕込まれたというクーフリンは、少年時代にすでに最強の戦士としての名声を高めていたといいます。少年の勇士クーフリンは、たった一人で戦士隊150人を打ち負かすほどの圧倒的な武力を保有しており、凶暴な大型の猟犬を素手で打ち倒すほどの勇敢さと腕力も兼ね備えていました。

王から強い信頼を受けていたクーフリンは、特別な武器を与えられてどんな敵にも怯むことなく戦い、大鎌をつけて疾走する魔法の戦車に乗り込んで戦場を縦横無尽に走り回りました。美男子かつ偉丈夫でもあった英雄クーフリンは、魅力的な女性を虜にするプレイボーイ的な側面も持っており、クーフリンには常に複数の彼女・愛人がいたとも言われています。

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クーフリンの悲劇的なエピソードとして知られているのは、武術・戦闘の師であるスカサハの娘(妹)オイフェとの間にできた自分の息子コンラを戦いで殺してしまうというものです。クーフリンはオイフェと愛し合って息子のコンラをもうけるのですが、父親としてコンラを育て上げることはせずに、金の指環だけを与えて自分はすぐに再び戦場へと戻って行きました。

父親と会うこともなく大きくなっていったコンラですが、コンラは父親譲りの圧倒的な戦闘力と戦争のセンスを兼ね備えた勇者として見事に成長します。コンラはアルスター王国で開催されていた最強の戦士を決めるための武闘大会に参加するのですが、その大会でどんどん勝ち進んだコンラは遂に、父親であるとは知らずにクーフリンとの決戦に臨むことになるのです。その決戦において、我が子であるとは知らずに本気で立ち向かったクーフリンは、自らの槍でコンラを貫いて殺してしまうのです。

コンラを倒した後に遺体の指にはまっていた『金の指環』に気づいたクーフリンは、自分の手で我が子を殺してしまった残酷な事実を知って、深い罪悪感に苦しむことになりました。

英雄クーフリンは、隣国コノートで好戦的な戦士団を従えていた女王メイヴと一人で大いに戦った武勇伝でも知られています。クーフリンは純粋な人間ではなく、太陽神ルーフを父親に持つ『半神半人の怪物の姿』も持っています。大勢の強力な敵を相手にして孤軍奮闘する時には、クーフリンは巨大な片目と火花の髪をランランと輝かせる怪物の姿になって、頭部から戦士の光線を発しながら無数の敵を薙ぎ倒していました。

無敵の戦士、超人的な英雄、怪物の姿を持つ狂戦士として繰り返し讃えられてきたクーフリンですが、彼も『不死身の神』ではありませんでした。宿敵である女王メイヴの策略にかかって、あっけなく最期の時を迎えてしまうのですが、その最期は生まれたばかりの時にドルイド僧から宣告された『英雄にはなるが若くして死ぬという予言』が成就した瞬間でもありました。無敵の戦士と称された半神半人の英雄クーフリンが死ぬと、その肩にはカラスに姿を変えた死の女神モリガンが止まり続けていたといいます。

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