ヘイムダル:アースガルドの見張り番

アースガルドの見張り番である光の神ヘイムダル

ヘイムダル(Heimdall)は、北欧神話の『光の神』である。アースガルドの入り口を守る門番のような役割を果たしており、『白いアース神』と呼ばれることもある。神の王国アースガルドと人間の王国ミッドガルドの間に架かっている『ビヴロストの橋(虹の橋)』を守っており、ビヴロストの橋の近くにヒミンビョルグという館を建設している。

ヘイムダルの歯はすべて純金(黄金)であり、『黄金の歯を持つもの(Gullintanni)』と呼ばれたが『曲がった枝』という渾名も持っていた。ヘイムダルは鋭い角を生やして歯が黄色い牡羊の化身と考えられていたこともあり、古代の北欧世界では鋭い剣を『ヘイムダルの頭』と呼んだりもした。黄金の前髪を持つグルトップという名馬を飼っており、貴公子バルドルがロキに殺された時には、このグルトップに乗ってその葬儀に出向いたという。

ヘイムダルはビヴロストの橋(虹の橋)の近くで、アースガルドへ外敵が侵入してこないように常に監視しており、神々と人間の間で行われるやり取りを仲介したりもしている。ヘイムダルはオーディンの息子とされるが、母親は九人姉妹の一人だったと言われる。ヘイムダルの母を含む九人姉妹は、『波の乙女』と呼ばれた海神エーギルの娘たちであった。

『ヘイムダルの謎(ヘイムダルガルド)』では、『9人の母の子・9人姉妹の息子』と謳われており、ここでいう9人姉妹というのは『海の波のメタファー』ともされる。ヘイムダルは波の間から昇る『曙光(太陽の光)』の象徴であるとも言われ、元々は万物生成の神としての属性を持っていた可能性が指摘される。古エッダ『リーグの歌』に登場する人間の始祖であるリーグとヘイムダルは同一視されることもある。

人間の祖であるリーグ(あるいは旅人に変装したヘイムダル)は、年齢の異なる3組の夫婦の元を訪れて、各夫婦の家で3晩泊まって妻と交わったという。3人の妻(女性)が産んだ子供は、それぞれ『王族(貴族)・自由農民・奴隷(労働者)』という3つの身分階級の祖先・起源になった。

ヘイムダルは『地獄耳』『千里眼』の特殊能力を持っていて、ずっと眠らずに見張り番として活動し続けている。『地獄耳』はどんなに小さな音でも聞き分けることができる聴覚の超能力であり、草が伸びている時や葉が落ちた時の僅かな音さえも聞き取ることが可能であった。『千里眼』は100マイル以上先までしっかりと見ることができる視覚の超能力であり、夜でも昼と同じように100マイル先まで見ることができた。

『古エッダ』の『スリュムの歌』第15節において、ヘイムダルは神々の中で最も容姿が美しい光の神だとされており、ヴァン神族の末裔として未来予知の特殊能力を持つ神とされている。ロキは『ロキの口論』第48節でヘイムダルについて、昔は背中を濡らしながら常に目を覚ましていて、見張り番をしなければならない卑しい存在だったと揶揄しているが、ロキとヘイムダルは因縁の深い関係だった。ヘイムダルは北欧神話において『ロキの宿敵』という位置づけになっている。

愛の女神フレイヤの持っていたブリーシンガ・メンの首飾りをロキが盗む所を、ヘイムダルは目撃して首飾りを奪還するために追いかけた。ロキは海中に首飾りを沈めて隠したが、ヘイムダルは諦めずにロキを追跡して激しい戦いを演じて、無事にフレイヤの首飾りを取り戻すことができた。ヘイムダルとロキはヴァーガ岩礁とシンガ岩で『決闘』を行ったが、この時にヘイムダルはアザラシ(海豹)に姿を変えていたという。

ヘイムダルは角笛ギャッラルホルンを持っており、最終戦争のラグナロクが始まった時に、この角笛を吹いてアースガルドの神々に『世界の終末』を知らせるという大事な役目を負っていた。角笛ギャッラルホルンは、普段は世界樹ユグドラシルの根元にあるミーミルの泉に隠してあるが、巨人の軍勢がビヴロストの橋(虹の橋)を渡って攻めてくるのを発見すると、この角笛を激しく吹き鳴らすのである。ラグナロクの最終戦争についての予言では、巨人側に寝返ったロキと戦うヘイムダルは『相討ち』になると予言されていた。実際のラグナロクにおいても、ヘイムダルはこの予言通りに裏切ったロキと戦うことになり、相討ちの結果に終わった。

勇猛な戦いの神テュール

オーディンと妻フリッグの間に生まれた戦いの神(軍神)がテュールである。テュールはオーディンとトールに並び立つ武勇・胆力で知られた戦いの神であり、ロキの息子で狼の異形をした凶暴なフェンリルを抑え込む役割を果たした。獰猛で野心的なフェンリルに危険性を感じたオーディンは、フェンリルを地下の牢獄に連れて行って鎖で拘束しようとしたが、普通の鎖では咬み切られてしまうので、小人に命じて特別な魔法の鎖グレイプニルを作らせた。

グレイプニルの鎖が普通の鎖ではないと直観した疑り深いフェンリルは、『この鎖に何の問題もないのであれば、俺の口の中に腕を突っ込んで証明してみろ』と神々を挑発して嘲笑したが、神々は恐れて誰も腕を入れようとしなかった。その時に、戦いの神(軍神)であるテュールが、この挑戦を受けて右腕を突っ込み、その間にグレイプニルの絶対に切れない鎖でフェンリルを縛り上げたのである。しかし、フェンリルの鋭い牙によって、口の中に突っ込んだテュールの右腕は食いちぎられてしまったのである。

軍神テュールは最終戦争のラグナロクでは、解放された獰猛な地獄の番犬ガルムと戦って相討ちになっている。

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