1930年代になると、操作主義を導入して、学習を主要な研究対象とした新行動主義(neobehaviorism)という新世代の行動主義が現れてきました。物理学者のブリッジマンは、長さ、重さ、速さなどの物理的概念は、一連の操作によって定義できると考え、それに影響を受けた新行動主義の心理学者たちは、心理学理論の中の『不安・学習・認知』などといった客観的な測定による実証が難しい概念も、『操作的定義』を行うことで、実証的用語に変えられると主張しました。
新行動主義者は、環境刺激を独立変数とし、環境刺激と幾つかの媒介変数によって出現する人間の行動を従属変数としました。それによって、古典的行動主義では、『S-R理論』だった行動メカニズムが、新行動主義では、『S-O(Organism:生体)-R理論』と表現されるようになりました。心理学の前に工学を修めて、ゲシュタルト心理学のコフカに教えを受けた事のあるトルーマン(Tolman, 1886-1959)は、迷路を用いたラット(ネズミ)の洞察学習の実験で知られています。
迷路のゴールには、報酬(餌)があり、その報酬に行き着くには3つの道があります。最も近い道は、直線の道(Path 1)で、次に左に曲がる迂回路(Path 2)があり、その次に遠回りの道(Path 3)があります。スタート地点からラットを放すと、ほとんどのラットは、近道のPath 1を通って報酬に行き着きますが、Path 1の途中を障害物で遮ると、ラットは迂回路であるPath 2を通って報酬に辿り着きます。次に、報酬に近い場所を障害物で遮って、Path 1とPath 2の両方を報酬から遮って実験すると、ラットはPath 1を進んで障害物に当たった後に、Path 2を通って再び障害物に当たるという愚かな選択はせずに、Path 2ではなく、遠回りではあっても報酬に行き着くことのできるPath 3を選択しました。
この事から、ラットは報酬に行き着くための単純な反応を学習していたのではなく、報酬の置かれている“場所”を学習していたことが分かりました。こういった実験を、動物の洞察学習といいます。トルーマンは、『動物と人間における目的的行動』(1932年)という著作の中で、動物のマクロな目的的行動とミクロな反射的行動を区別することを主張しました。マクロな目的的行動というのは、お腹が空いたから食物を食べるとか、何処かに行きたいから自動車を運転するとか、ラットが迷路を通り抜けるとかいった一般的な行動を指しています。一方、ミクロな反射的行動というのは、運動をする為に何処の筋肉が使われているとか、感覚神経がどのように反応しているかとかいう生理学的な運動のことです。
そういった区別から、トルーマンは、S-Rの結合した生理学的な反射のようなものを『微視的行動(molecular behavior)』と呼び、一般的な目的を持った行動を『巨視的行動(molar behavior)』と呼びました。トルーマンは、体験と行動を媒介する心理的な媒介変数(期待・信念・認知地図など)を考えて導入しようとしました。トルーマンの目的や認知に関する研究は、認知心理学の誕生に大きな影響を与えました。
ニュートンやパヴロフのように機械論的自然観に立って、人間を思考機械と考えたハル(Hull, 1884-1952)は、行動主義に公準と法則からなる数学体系を導入しようとしました。ハルの研究方法の特徴は、仮説演繹型であることで、まず理論仮説を立ててから、それを実験や観察で検証しようとしました。
ハルは、古典的行動主義のS-R理論を批判して、刺激と反応の間の媒介変数として『習慣強度、反応ポテンシャル、動因』などを考え、強化の動因低減説を主張しました。ハルの数理的心理学の名声を高めた代表的著作として、『行動の原理』(1943)があります。1950年代以降は、ハルの弟子であるスペンスがハルの数理的心理学を継承して、ハル―スペンスの理論と称されるようになりました。ガスリーという人は、簡単明快な新行動主義を目指して、学習行動は1試行で成立するという『近接性(contiguity)の法則』を提唱しました。また、ガスリーの研究を数学的に発展させた人に、エスティズという人がいます。
スキナー(Skiner, 1904-1990)は、学習における強化随伴性(reinforcement contingency)に着目し、行動が起こる条件と行動、行動の結果を実証的に解明しようとしました。スキナーは、『刺激に対する受動的な反応』である『古典的条件づけ(レスポンデント条件づけ)』に対して、『生活体が環境に働きかける自発的な反応』である『オペラント条件づけ(道具的条件づけ)』を考えました。
スキナーはソーンダイクをモデルとして、1938年に『生体の行動』を著し、その中で条件反射を含む『レスポンデント条件づけ』と報酬と罰による強化子で自発的行動を引き出す『オペラント条件づけ』を区別することを述べています。スキナーが目的としたのは、行動が生起する環境事象と行動事象との関数的関係を明らかにする事であり、何故そのような行動が生じるのかという行動の原因の説明ではなく、どのように行動が生じるのかという行動過程の記述と統制を目指しました。
スキナーはワトソンやパヴロフと同様に環境主義者でしたが、ワトソンが行動を生起させる原因として環境を重視したのに対して、スキナーは自発的な反応を選択して引き出すという意味で環境を重視しました。スキナーのオペラント条件づけ研究は、学習分野におけるティーチングマシン、心理療法分野における行動療法につながっていきました。スキナーは、外部から客観的に観察することが不可能な要素を全て排除したので、スキナーの新行動主義的な心理学を『徹底的行動主義(radical behaviorism)』といいます。