H.タジフェルとJ.C.ターナーの社会的アイデンティティ理論

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このウェブページでは、『H.タジフェルとJ.C.ターナーの社会的アイデンティティ理論』の用語解説をしています。

集団社会・組織に所属することを自己認識する社会的アイデンティティ


J.C.ターナーの自己カテゴリー化理論


集団社会・組織に所属することを自己認識する社会的アイデンティティ

自分が何者であるのかということを自己認識(自己定義)する“自己アイデンティティ(ego identity)”は、日本語では『自己同一性・自我同一性』と翻訳される。自己アイデンティティとは『社会・集団・思想・信念において自分がどのような存在であるかの自己認識(自己定義)』であり、発達心理学では20代前半頃の青年期の課題とされている。現代の自己アイデンティティは流動的・可変的で『モラトリアム遷延(社会的選択の延期)』を起こしやすい特徴もある。

自己概念である自己アイデンティティには、自分は自分以外の何者でもない代替不可能(唯一)な存在であることを自覚して、自分に思想的あるいは観念的な意味を付与していく『実存的アイデンティティ』がある。実存的アイデンティティは、社会的アイデンティティとは違って『自分がどの集団に所属しているか・他人からどのような人間として評価されているか』はあまり関係せず、『自分が自分をどのような個性や信念、価値観を持つ存在であると思っているのか』という自己完結的な自己定義に依拠している部分が大きい。

社会心理学者であるH.タジフェルJ.C.ターナーが考案した『社会的アイデンティティ(social identity)』とは、『自分がどのような社会集団に所属しているか・自分がどういった社会的カテゴリーに該当しているか』という自覚(自己定義)にまつわる自己同一性のことである。

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自分は日本に所属しているから『日本人』である、自分は三菱商事に勤務しているから『三菱商事の社員』である、自分は九州大学卒業だから『九州大学のOG』である、自分は富裕層(中流階層)のカテゴリーに当てはまるから『富裕層(中流階層)の一員』である、自分は環境保護団体に所属しているから『環境保護について意識の高いエコロジスト』であるなど、自分がどのような社会集団や社会的カテゴリーに当てはまっているのかによって規定される自己アイデンティティが社会的アイデンティティと呼ばれるものである。

社会的アイデンティティは、『所属集団・所属カテゴリーの相対的な優劣』が自分自身の優越感(優越コンプレックス)や劣等感(劣等コンプレックス)につながりやすいという特徴を持っている。H.タジフェルとJ.C.ターナーは社会的アイデンティティが形成される心理的要因として、『カテゴリー化・自己高揚の動機づけ・社会的比較過程』の3つを上げている。

カテゴリー化というのは『一流国立大学・一流私立大学・一般的な国公立大学・一般的な私立大学・偏差値の低い大学(入試の学力スクリーニングの弱い大学)』、『一流の大企業・普通の大企業・中小企業・零細企業・個人事業』、『富裕層(資産家層)・高所得層・中所得層・低所得層』、『国内・国外・自国に友好的な国・自国に敵対的な国』というように、社会集団・組織をそれぞれの規模や評価、特徴によって分類することである。

このカテゴリー化の分類には、刺激空間の複雑かつ意味論的な分節の効果だけではなくて、必然的に『大小・優劣・貧富』といった相対的な価値判断が伴うことになるので、そこに優越コンプレックスや劣等コンプレックスが生じやすくなるのである。

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人間の知覚の基本要件は『刺激の分節化+非連続的な階層化』であり、自己や他者などの社会的対象に対する認識・理解も、『内集団か外集団か(自分と同じ集団に所属しているか、自分とは異なる集団に所属しているか)』のカテゴリー化(分節化の区分)に基礎を置いていると考えられている。

社会的アイデンティティは、社会集団・組織のカテゴリー化が行われた後に、『自己高揚の動機づけ(自己評価の上昇の動機づけ)』によって積極的に確立されていくが、人間は自己高揚感を得るために『外集団』よりも『内集団』を贔屓(ひいき)して高く評価する傾向がある。

自己評価(自尊心)と関係する自己高揚の動機づけは、一般的には『個人間の相対比較』によって満たされることが多いのだが、カテゴリー化が行われている社会的状況の文脈(コンテクスト)では、『集団間の社会的比較過程』によって自分が所属している内集団の価値が高いと思うことによって、自分自身の自己高揚感や自尊心も同時に満たされやすくなるのである。

所属集団の評価が自己評価(自己高揚感)と直結する時には、『内集団びいき(in-group favoritism)』が起こるのだが、そのひいきは認知・感情の心理的プロセスにおけるひいきだけではなくて、社会生活における実際的な報酬・資源の配分においても『内集団やその構成員』を依怙贔屓(えこひいき)しやすくなるのである。

相対的に低く評価されている構成員(個人)は、自分の所属する集団を肯定しづらくはなるが、それでも所属集団を簡単に移動することができないケースが多いので、『内集団での地位向上・自分よりも地位の低い他者のバッシング』などを行って何とか自己評価(自己高揚感)を保とうとする。

こういった『内集団びいき』の一般的傾向によって、集団・組織間の競争や差別、内集団を守るための法律違反(倫理無視)、抑制が効かない群衆行動などを説明することができる。

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J.C.ターナーの自己カテゴリー化理論

社会心理学者のJ.C.ターナーは、社会的アイデンティティ理論に基づく集団間行動を、個人が個人としての自覚を持って自律的に行動しているのか、自分の考えを抑えて集団の一員として従属的に行動しているのかの変数の違いについて研究し、『自己カテゴリー化理論(self-categorization theory)』を呈示した。

J.C.ターナーの自己カテゴリー化理論は、E.ロッシュプロトタイプ理論を参照して、『自己概念の階層構造』を仮定している。自己カテゴリーには社会的属性・社会的役割・社会的地位を伴わない包括性の低い低位の『個人的アイデンティティの階層(レベル)』もあれば、社会的な属性・役割・地位を意識した包括性の高い上位の『社会的アイデンティティの階層(レベル)』もあるというのが、ターナーのカテゴリー化理論の特徴である。

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常に会社や学校、組織の一員としてだけ振る舞う人がほとんどいないように、常に社会的集団や組織から切り離された“個人の私”としてだけ振る舞える人もほとんどいないのである。

個人的アイデンティティの階層(レベル)が意識されている時には、“私と他者との関係性(対立構造)”が問題になりやすく、自分の行動は個人的な対人行動としての意味を持つことになる。社会的アイデンティティの階層(レベル)が意識されている時には、“我々(私たち)と奴ら(彼ら)との関係性(対立構造)”が問題になりやすく、自分の行動は上位レベルのカテゴリー化の影響を受けて、自分個人の意思や判断(好き嫌い)から離れた『集団間行動』としての意味を持つことになる。

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ターナーの自己カテゴリー化理論における『自己概念の階層構造』というのは、自己カテゴリーには『人類・世界の一員』といった極めて上位(高次)の包括性の高いカテゴリーもあれば、『親子・地域の一員・私個人』といった極めて下位(低次)の包括性の低いカテゴリーもあるということを指している。

この場合の『包括性の高さ(上位か下位か)』というのは、『誰もが当てはまる割合の高さ』といった意味合いであり、上位・高次だから価値が高いといった価値判断の意味は含まれていないことに注意が必要である。

ある状況や関係性において、どのレベルの包括性における自己カテゴリー化が採用されるのかということが、『自己の基本カテゴリー(basic category)』を決定することになる。

自己の基本カテゴリーがどのレベルの包括性(高次性・低次性)に帰属するのかは、その相手とどんな立場で向き合っているのか、どのような話題で意見を交わしているのか、どのような場面・状況で遭遇しているのかといった『文脈(コンテクスト)』に依存していると言えるだろう。

例えば、学校のPTAで他の生徒の母親と子供のことについて話している時には、その人がいくら大企業の役員や医師・法曹であっても、『子供の父親(母親)としての自己カテゴリー化』が採用されるのが普通である。自己カテゴリーは自分のどういった属性や役割に注目するか、相手が自分のどういった反応や回答を期待しているかによって、その包括性レベル(高次・低次のレベル)が半ば反射的に自動調整されている。

例えば、同じ仕事や職業について話す場合でも文脈によって、『社会人→会社員→業界・業種→勤務地→役職づきか平社員か(専門職か総合職か・正規雇用か非正規雇用か)→給与水準』など、様々な階層のレベルが使い分けられているのである。

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ターナーは以下に示す『メタコントラスト比』によって、どの包括性レベル(高次・低次のレベル)で自己カテゴリー化が進むのかが規定されると主張した。

メタコントラスト比=(同一抽象レベルでの他のカテゴリーとの差異性)÷(当該カテゴリー内のメンバー間の差異性)

自己カテゴリー化の心理的プロセスを示すメタコントラスト比というのは、『同じ包括性レベルでの他の属性を持つ人たちとの差異(例えば公務員と民間会社員との差異など)』が大きいほど、自分の自己カテゴリー(自己概念)が強力に顕在化することを意味している。

あるいは『同じカテゴリーに当てはまる他者との類似性・同質性(例えば医師同士で自分たちが似たような仕事をしていると感じる同質性など)』が高いほど、自分もそのカテゴリーに属する一員であるという自己カテゴリー(自己概念)が強力に顕在化することになる。

自分が会社員であるとか医師であるとかいった自己カテゴリーが強く顕在化した時には、自分個人の意志や欲求、独自性が抑圧されやすくなって、『脱個人化(depersonalization)』の自分と集団とを合一化(一体化)させるような心理プロセスが促進されやすくなる。あるいは、内集団の構成員のステレオタイプ(典型例)のイメージを自分自身にも当てはめて考える『自己ステレオタイプ化(self-stereotyping)』も進行しやすくなってくる。

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