S.コーエンとT.A.ウィルズのソーシャルサポート研究

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このウェブページでは、『S.コーエンとT.A.ウィルズのソーシャルサポート研究』の用語解説をしています。

ソーシャルサポート研究の概略とストレスフル・イベント

S.コーエンとT.A.ウィルズのストレス緩衝効果にまつわる研究


ソーシャルサポート研究の概略とストレスフル・イベント

メンタルヘルス(心の健康)と身体の健康は、『良好な対人関係・対人コミュニケーション』と密接な関わりがあり、対人関係が悪化したり対人コミュニケーションが対立・途絶したりすると、心身の健康も悪化する傾向が顕著である。対人関係(コミュニケーション)と心身の健康の相関関係を調べたり、対人関係(コミュニケーション)を社会的支援体制の資源と見なしたりする研究分野を『ソーシャルサポート研究』と呼んでいる。

ソーシャルサポート研究では、ソーシャルサポート(社会的支援)となる人間関係を、主に以下の2つの指標によって測定している。

1.個人にとっての対人関係の全体的特徴である『社会的統合(対人的な社会適応)』のレベルの指標。

2.個人が周囲の家族・知人から受け取ることができると知覚している『知覚されたソーシャルサポート』のレベルの指標。

社会的統合のレベルは『客観的・全体的なソーシャルサポート』を測定するものであり、知覚されたソーシャルサポートのレベルは『主観的・実際的なソーシャルサポート』を測定するものである。社会的統合のレベルが高くて、全体的な人間関係が良好に保たれていたりバランスが取れていれば、その人は心身の健康状態も良好なことが多いことが複数の研究から分かっている。周囲の人間関係に対して知覚することができるソーシャルサポートというのは、『ソーシャルサポートの実際的な利用・実感の可能性』として解釈することができるだろう。

知覚されたソーシャルサポートは、ストレスを感じる出来事(=ストレスフル・イベント)のストレスを緩和する『ストレス緩衝効果』を持っている。厳密に定義すると、知覚されたソーシャルサポートのストレス緩衝効果というのは、ストレスフル・イベントのストレスの強さのレベルによって、『ソーシャルサポートの利用可能性・必要性』『心身の健康のレベル』が変わってくるという効果のことである。

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S.コーエンとT.A.ウィルズのストレス緩衝効果にまつわる研究

ストレスフル・イベントには『死別・離別・リストラ・仕事の悩み・恋愛の問題・金銭の悩み・交友関係のトラブル・心身の疾患の発症・小さなミス』など様々な種類があるが、ストレスフル・イベントによってもたらされるストレスが弱い時には、ソーシャルサポートの利用可能性が低くても心身の健康を崩すことはない。しかし、ストレスフル・イベントがもたらすストレスが強いものになればなるほど、ソーシャルサポートの利用可能性が低いと、心身の健康を大きく壊しやすくなってしまう。

アメリカの心理学者であるS.コーエンT.A.ウィルズは、R.S.ラザラスとF.フォルクマンの『ストレスの認知的評価・対処モデル』を参照しながら、知覚されたソーシャルサポートによるストレス緩衝効果のメカニズムを研究した。ラザラスとフォルクマンは、精神的ストレスをどのように解釈してどのくらいのインパクト(悪影響)があると推測するかの『認知過程』によって、『ストレスの強度レベル+自分がそのストレスに対処できるという確信レベル』が変わってくるというストレス評価の認知的モデルを提唱している。

S.コーエンとT.A.ウィルズは、周囲の人々からのソーシャルサポートの利用可能性を期待できるという認知が、一連のストレス過程における『二つの時点』でストレスを緩和してくれるという仮説を唱えた。つまり、ソーシャルサポートはストレス認知過程における『二つの時点』で、ストレスフル・イベントの悪影響を緩和してくれるのである。

実際に嫌な出来事が起こる前の『潜在的なストレスフル・イベントの評価段階』で、ソーシャルサポートの利用可能性とその認知が心身の健康に影響している。これが、ストレス緩衝効果が発揮される『第一の時点』である。他者からのサポートを期待できると認知している人は、潜在的なストレスフル・イベントの悪影響のレベルを低く予測したり、自分のストレスフル・イベントに対する対処能力(問題解決能力)を実際よりも高く見積もったりすることができるので、結果としてストレスフル・イベントが心身の健康を悪化させるインパクトは弱くなりやすいのである。

ストレス緩衝効果が発揮される『第二の時点』は、実際にストレスフル・イベントが起こった後の対処段階である。この時点では、他者からのソーシャルサポート(労力・知識・制度などの協力行動)の提供を利用して問題を解決したり、自分以外にも他者が手伝ってくれるという安心感や心強さがネガティブな認知に陥ることを防いでくれたり、他者と一緒に健康的で前向きな活動に意識を向け変えやすくなったりすることで、『ストレスの悪影響のインパクト』がソーシャルサポートがない人よりも小さくなっているのである。

これらのソーシャルサポートと心身の健康の相関関係についての研究結果から、『メンタルヘルスの改善・精神疾患の発症や再発の予防』のためには、周囲にいる人たちとの人間関係を良好なものにしていくこと(無縁社会における孤立無縁な状況の発生をできるだけ予防すること)、気持ちが安らぐコミュニケーション環境を発展させていくことが重要だと分かるだろう。

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