E.ホールのパーソナル・スペースと縄張り意識・空間行動

このウェブページでは、『E.ホールのパーソナル・スペースと縄張り意識・空間行動』の用語解説をしています。

空間行動と人間の縄張り(テリトリー)

エドワード・ホールのパーソナル・スペースと縄張りとの違い

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空間行動と人間の縄張り(テリトリー)

人間をはじめとする動物は自らが生きていくために、一定以上の土地・空間(スペース)を必要とするが、個人及び集団が実力行使を用いてでも独占的に維持する一定の広さ(面積)を持った土地・空間のことを『縄張り(territory)』と呼んでいる。他者とどのくらいの距離を置いてコミュニケーションするのが快適かとか、“電車・バス・映画館・飲食店”などの公共スペースでどの座席に座りたくなるかとかいった空間利用に関する行動のことを『空間行動』というが、縄張りの設定・防衛・排除というのも人間が取る本能的な空間行動の一種である。

縄張り(テリトリー)は、その空間領域を維持・防衛するコストよりも、その縄張りから得られる利益・メリットのほうが上回っている時に成立するようになる。先史時代に、自然界と向き合う狩猟採集生活から、土地が生産力(食料獲得)につながる農耕牧畜生活に移行したことによって『縄張り意識』が強まったのではないかと推測されている。この縄張りの空間(土地)や縄張りを守ろうとする意識によって、同種の個体間の権利や集団内の関係性が調整されているが、どちらも譲歩できない『縄張り争い』が起こると集団間の戦争や個人間の闘争にまで発展してしまう危険性もある。

人間の縄張りはただ直接的に土地を実力で奪い合うだけの動物の縄張りよりも、『複雑性・多様性・可変性・想像性』に富んでおり、更に暴力・戦争ではなく法律・司法権力によって縄張り争いに決着が付けられることのほうが多いという点で異なっている。I.アルトマンは人間の縄張り(テリトリー)を、以下の3つの形式に分類している。

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エドワード・ホールのパーソナル・スペースと縄張りとの違い

“縄張り(territory)”と似た概念として“パーソナル・スペース(personal space)”というものがあるが、パーソナル・スペースはR.ソマーによって定義されエドワード・ホールによって分類された『他者の侵入を不快に感じる個人的空間』のことである。

R.ソマーは『侵入者が入ることを好ましく思わない個人的な領域。個人の身体を取り囲んでいる目に見えない境界線を持った領域』としてパーソナル・スペースを定義しているが、人間はこのパーソナル・スペースを確保しながら他者と向き合うことで安心して気持ちの良いコミュニケーションを行いやすくなる。

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パーソナル・スペースが広ければ広いほど、『他者に対する苦手意識・敵対心(ライバル意識)・警戒感』が強い傾向があるが、一般的に男性のほうが女性よりもパーソナル・スペースが広くて、知らない他者(特に同性の男性)が自分に近づいてくることに敵対心や警戒感を強く感じるという。女性も知らない男性(好感を持てないタイプの男性)に対してはパーソナル・スペースは広い傾向はあるが、同性の女性に対しては男性同士よりもパーソナル・スペースが相当に狭くなって親密なスキンシップなどを取ることも多い。

反対に男性では、思春期の一時期における親友関係などを除いて、スキンシップの身体接触を伴うような近い距離で同性の男性と向き合うこと自体が殆どない。また社交的でオープンなコミュニケーションを好む欧米人のほうが、シャイで人見知りすることの多い平均的な日本人よりもパーソナル・スペースが狭い傾向があり、欧米人は同性同士でも握手や抱擁(ハグ)などのスキンシップを『友情の現れ』として行うことが少なくない。

アメリカの文化人類学者エドワード・ホール(Edward Twitchell Hall, 1914-2009)は、他者との関係性によって人のパーソナル・スペースの広さは変わるとして、パーソナル・スペースを4つの距離に分類している。4つのパーソナル・スペースは更に『近接相・遠方相』の2つに分類されている。

E.ホールのパーソナルスペース
パーソナル・スペースの距離帯距離の意味合い近接相と遠方相
密接距離(intimate distance,0cm~45cm)家族・恋人などのごく親しい人だけが接近を許される近い距離で、相手の身体に容易に触れることができる距離であるため、知らない相手が密接距離に入ってくると恐怖感・不快感を強く感じる。近接相(0~15cm)……相手をすぐに抱きしめられるような最も近い距離。

遠方相(15~45cm)……身体が直接に触れ合うことはないが手で触れようと思えば触れられる相当に近い距離。
個体距離(personal distance,45cm~120cm)親しい友人・恋人・家族などと普通に会話する時に取る距離で、相手の表情が良くわかるような距離である。近接相(45~75cm)……少し場所を動けば相手に簡単に触れられるような相手を信用しきった距離。

遠方相(75~120cm)……お互いが手を伸ばすと、指先が触れあう程度の親密さの感じられる距離。
社会距離(social distance,120cm~350cm)知らない相手や公的な改まった場面(ビジネスの関係など)で相手と会話する距離で、相手の身体に手で触れることができない程度の安心できる距離。近接相(1.2m~2.0m)……知らない人同士で会話をしたり、社会的・ビジネス的な場面で用いられる距離 。

遠方相(2.0m~3.5m)……テーブルを挟むなどして、公式な改まった商談や交渉の場面で用いられる距離。
公共距離(public distance,350cm以上)公衆距離と訳されることもある。講演会や公式なレセプションなど、自分と相手との関係が『個人的な関係』ではない『公的な関係』である時に用いられる距離。近接相(3.5m~7.0m)……二者関係が個人的なものではなくて、講演会における講演者‐聴衆という関係にある場合に取られる形式上の距離。

遠方相(7.0m以上)……一般人が社会的な要職・地位にある人物と正式な会合・イベントで面会するような場合に取られる畏まった距離。
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パーソナル・スペースの分類は一般的な感覚・常識に基づくものであり、『年齢・性別・性格特性・感受性(緊張感)・文化・環境』などの要因によって大きな個人差が生まれるのが普通である。パーソナル・スペースの概念は確かに縄張りに似ているのだが、縄張りとの違いとして以下のような点が指摘される。

縄張りは塀・囲いなどの『目で見える境界線』を持つことが殆どだが、パーソナル・スペースは原則として『目に見えない心理的な境界』であり、それ以上近くまで他人に近寄られると実害がなくても不快感・緊張感・恐怖感を感じるというものである。縄張りというのは物理的な土地・空間と直結した独占的領域であり場所が固定されているが、パーソナル・スペースのほうは場所が固定されておらず『自分の身体』と一緒になって移動する。

縄張りは固定的な土地・空間という性質を持つため、他者に侵害されれば積極的な防衛・反撃(追い出し)の行動を取ることが多い。だが、パーソナル・スペースのほうは、自分の身体を動かせばその独占したいスペースも一緒に動くので、他者と争って守るのではなくて『ただその場所から自分が立ち去る』という消極的な防衛行動を取ることのほうが多い。

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