バーンアウト症候群(燃え尽き症候群)と対人サービス・感情労働のストレス

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このウェブページでは、『バーンアウト症候群(燃え尽き症候群)とサービス業・感情労働のストレス』の用語解説をしています。

ハーバート・フロイデンバーガーが提起したバーンアウト症候群とヒューマン・サービスの仕事のストレス

燃え尽き症候群の症状と原因:人間関係の負担感と感情労働の情緒的リソースの枯渇


ハーバート・フロイデンバーガーが提起したバーンアウト症候群とヒューマン・サービスの仕事のストレス

バーンアウト症候群(burnout syndrome)『燃え尽き症候群』とも訳されるが、1970年代半ばのアメリカでヒューマン・サービス(対人的なサービス)に従事する対人援助職の人たちのメンタルヘルスの問題として注目されるようになった症候群の概念である。

医師・看護師・介護士・教師・ソーシャルワーカー・カウンセラーなどのヒューマン・サービス(対人援助)を伴う職業では、顧客(患者・要介護者・生徒など)の感情・境遇・病状・能力・不安に対して十分な配慮と理解を示さなければならない。更に、特定の他者とある程度継続的な人間関係を構築していかなければならず、そういった持続する対人的ストレス(相手の期待に応える自分の気分・感情の制御)が燃え尽き症候群の一因になると考えられている。

『バーンアウト症候群(燃え尽き症候群)』という名前は、1974年にアメリカの精神科医ハーバート・フロイデンバーガー(Herbert J. Freudenberger,1926-1999)が自身の事例分析(ケースワーク)を通して名付けたものだとされている。バーンアウト症候群の重症度を判定するための心理測定尺度としては、社会心理学者クリスティーナ・マスラーク (Christina Maslach)が開発した『マスラーク・バーンアウト・インベントリー(Maslach Burnout Inventory)』が知られている。

バーンアウト症候群は、現代の精神医学の精神障害の概念に照らし合わせると、『適応障害・心因反応(ストレス反応)・心因性うつ病』などに当てはまるケースが多いのだが、その根本的な原因は人間関係(対人サービス)と過労状態が関わった心身のエネルギーが燃え尽きてしまうほどの疲労感・疲弊感・徒労感である。

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今まで仕事・職業や社会活動などで献身的に没頭して努力していた人が、耐え難い極度の心身の疲労が蓄積していくことによって、突然、まるで燃え尽きたかのようにその活動に対する意欲・興味関心を失って、社会的・職業的に適応できなくなってしまうというのがバーンアウト症候群の典型的な症状の経緯である。仕事・職業・人生などに対して、過労状態でギリギリの限界まで努力したにも関わらず、自分が思っていたほどの結果(成果・報酬・感謝など)が得られない時にもバーンアウト症候群が発症しやすくなってしまう。

相手に過度に気配りして応対しなければならないヒューマン・サービスを伴う仕事では、社会的・職業的に適応困難になることによって離職・転職に追い込まれる。時に、『対人的サービスを要する仕事への恐怖感・拒絶感』が強くなりすぎて、長期間にわたって再就労が出来なくなってしまう。

『バーンアウト(燃え尽き)』の背後にあるのは、ボロボロになるまで献身的に努力し続けたのに期待が満たされないという『フラストレーション(欲求不満)』であり、努力に見合うだけの感謝・評価・報酬が得られずにただ情緒的に利用されているという『徒労感(やり甲斐の感じられない虚しさ)』である。フラストレーション(欲求不満)や対人関係の過剰な気配り・自己抑制をはじめとする慢性的なストレスが発症要因になりやすいという意味では、『ストレス性疾患(心因反応)』としての特徴を持っており、無気力・意欲減退・抑うつ・思考力低下などの症状が悪化していくと『心因性のうつ病』に近い状態になってくる。

バーンアウト症候群が発症すると、それまで献身的かつ精力的にこなしていた仕事(仕事上で対応する顧客の他者)に対して興味関心・やり甲斐を感じづらくなり、仕事をできるだけ感情移入せずに義務的・機械的にこなそうとするようになってくる。バーンアウト(燃え尽き)が始まると、睡眠障害(不眠状態)、免疫力の低下(頻繁な風邪・上気道感染)、自律神経失調症的な状態(動悸・息切れ・胃腸障害)、頭痛・肩こり・腰痛、高血圧、物質依存(アルコール・薬物の依存性)などのさまざまな症状が出現するが、更に症状が悪化していくと『うつ病(気分障害)』のような病態を呈するようになってしまう。

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燃え尽き症候群の症状と原因:人間関係の負担感と感情労働の情緒的リソースの枯渇

バーンアウト症候群(燃え尽き症候群)は、主に対人援助(感情労働)の仕事による持続的・慢性的なストレスが原因となった心身の疲弊・衰弱の状態である。燃え尽き症候群の典型的な症状としては、『仕事に対する意欲喪失・情緒荒廃・免疫力の低下・対人関係の親密さの減少・人との関わりの回避・人生に対する悲観と不満・仕事の能率や成果の低下・職務怠慢』などがあるが、以下のようなバーンアウトの兆候が見られた時には注意・休養・治療が必要になることがある。

1.これ以上はもう頑張れないという消耗感があり、疲労感・徒労感・意欲減退に覆われている。

2.周囲にいる他人を思いやる気持ちの余裕がなくなり、自分のことだけでいっぱいいっぱいになってしまう。

3.人間関係全般に対して苦痛・煩わしさばかり感じるようになり、人との関わりを避けるようになる。

4.人間(他者)や物事に対して無関心になり感受性が低下する。結果、対人サービスが主な仕事なのに、人のことを考えずにできる単純作業(事務仕事)に過度に没頭するようになる。

5.自己肯定感・自信がなくなる。一方で、反対意見に対しては過敏に反抗して自己正当化をする。

6.情緒不安定になり、他者とのコミュニケーションや通常業務の遂行が難しく感じられるようになる。

7.仕事のやり甲斐や達成感が感じられなくなり、献身的に頑張る理由・動機づけ(モチベーション)を失ってしまう。

8.頭痛・肩こり・消化器疾患・睡眠障害といったストレス反応性の心身症状が出現する。

バーンアウト症候群(燃え尽き症候群)の発症プロセスは以下のような感じになるが、必ずしもこの順番で規則正しく症状が推移するわけではなく、入れ替わったり混合したりするケースもある。

1.態度の変化(不機嫌化・無気力化)……不機嫌・短気で怒りっぽくなり、仕事・他人への不平不満が増える。他人に対して猜疑心や対抗心が強まったり、自分の仕事の責任をできるだけ避けようとしたり、それまでの仕事への熱意・やる気が急に見られなくなったりする。

2.逃避の行動(関係回避の権威主義)……顧客(仕事上で接する他者)との対等な人間関係を避けられるように、権威的・指示的にそっけなく接して相手の気持ちにできるだけ触れないようにする。ストレスが身体症状となって現れやすくなり、できるだけ仕事をしなくて良いように忙しそうに見せたり、目に付かない場所に移動したりするようになる。仕事も休みがちになってきて、そのまま逃げるように退職・転職してしまう人も出てくる。

3.燃え尽きの否認(自己価値の強迫的な証明)……仕事の意欲や効率が落ちていても、自分の価値や能力を証明し続けなくてはならないという焦燥感を伴う強迫観念を持つことがある。本当は疲れきっているのに、スケジュールを過密にして働き続けたり、より対応が難しいクライアントのケースを担当したりして、更に心身の疲労感や仕事の無意味感が強くなってしまう。燃え尽きていることを必死に否認しようとして限界を超えた努力をしようとするのだが、結果として燃え尽きるまでの時間を早めてへとへとに心身が疲れきって動けなくなってしまう。

4.ストレス性の身体症状……慢性的なストレスによって自律神経系の機能が乱れやすくなり、『睡眠障害・頭痛・肩こり・腰痛・めまい・吐き気・胃痛・胃潰瘍(十二指腸潰瘍)・息苦しさ・動悸』などのストレス性の身体症状が出現するようになる。

5.崩壊……『態度の変化・逃避の行動・燃え尽きの否認・身体症状』が相互に悪循環を起こして、不安感・恐怖感・疲弊感・怒り・自己否定などが強まっていき、次第に今までの生活状況や仕事環境、対人関係に適応できなくなる。そこで適切な治療機会やサポートが得られなければ、重症うつ病のような状態になったり、他者と対立する攻撃性・逃避欲求(ひきこもり傾向)が高まったりして、正常な人格構造・人間関係・生活状況が崩壊するリスクが出てくる。

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バーンアウト症候群の中核症状は、感情労働や対人サービス(対人援助)を前提とする『情緒的な消耗感・疲弊感』であり、他者(顧客)の感情に配慮してその心理的ニーズを満たして上げようとする職業的な努力・感情的な献身を、無理をして続けることで『情緒的リソース(情緒的資源)の枯渇』を引き起こしてしまうのである。他人にどこまで情緒的に尽くして思いやりを持てるか、相手を喜ばせる献身的な対話・行動が続けられるかという限界が『情緒的リソースの量』に規定されているのである。各個人に割り当てられた『情緒的リソース』は有限であり、そのリソースの容量には個人差がある。

対人援助職やヒューマンサービスの現場では、自分(職業人)と顧客(クライアント)との間で、上下関係とまではいかなくても『サービスの提供者』『サービスの享受者』という非対称的な役割関係が生まれやすい。その結果、『相手の感情を推測して思いやりを持つ・相手のニーズや気持ちを先取りして満たして上げる・相手のわがままやクレームをある程度受け容れる・相手のプライベートな悩みや問題まで対応する』といった情緒的リソースを多く消費する思いやりや配慮・献身が対人援助職には求められるのである。

自分の感情・表情を適切に朗らかに制御して、相手(顧客)を常に気持ちよくもてなすような接客対応やサービス提供、個人的な対話・相談などを行っていくのが『感情労働』であり、感情労働の多くは親しみのある人間関係(お互いの名前を知っていて呼ぶような実名的な関係)をベースにしているので、コンビニのレジや病院の窓口のような『一時的かつ匿名的な人間関係』だけで簡単に済ませるということが難しくなりやすい。

レジでちょっと客から文句を言われるといった程度なら、一時的かつ匿名的な人間関係だからそれほどの心理的ストレスにはならない。だが、定期的に顔を合わせなければならないお互いの名前と顔を認識し合っている『患者・営業先・常連客・上得意』などが相手だと、『そのクライアントの感情・気分を害すること』が、また次の機会に接遇しなければならない自分にとってもかなりのストレス(心理的負担)になってくるのだ。

精神的負荷が大きく情緒的リソースの消費が多い仕事は、一般にバーンアウト症候群を引き起こしやすいのだが、その典型的な仕事の例として『感情労働・ヒューマンサービスを伴う対人援助職』がある。人が人を丁寧に優しく扱って、その気持ちを思いやりながら常に朗らかな対応をしてもてなす(そういった献身的な人間関係を長く続けていく)というのは相当に大変なことなのである。

対人援助や感情労働のストレスによって情緒的リソースが枯渇してくると、『クライアントの人間性・感情・要求』をできるだけ考えないようにして事務的・機械的に淡々と対応しようとする『脱人格化』の自我防衛機制が発動されやすくなる。クライアントに対して無愛想・無感情な事務的対応をしやすくなり、クライアントに疾患名・会員番号・記号・渾名(あだな)などの『没個性的なラベル』を貼って、あまり親身になって話を聞くこともなくなる。脱人格化の自我防衛機制では、クライアントとの間に心理的距離を置いて事務的・形式的な対応に徹することで、『自分の有限の情緒的リソース』を節約して守っている(相手にこれ以上の気遣いや献身をすることがもうできなくなった)という見方をすることができる。

そういった脱人格化の自我防衛機制は、相手を自分と対等な感情を持つ人間として扱わないことによって、できるだけ心理的負荷(過剰な気遣いの負担)を小さくしようとしているのである。バーンアウト症候群の原因の一つは、自分の本当の感情を押し殺した感情労働やヒューマン・サービスによる疲弊感・限界感にあるから、バーンアウト(燃え尽き)を起こす人は、それまで親身になって相談に乗ってくれて丁寧に対応してくれた担当者でも、急にそれまで大切にしていたはずの顧客に挨拶もせず仕事を辞めてしまうことも多い。『脱人格化』で無愛想・事務的な対応をすることが心苦しくて申し訳なくて耐えられないという人は、顔も見せず挨拶もせずに、それまで丁寧に接していたはずの大切な顧客の前から完全に姿を消してしまう『逃避』の自我防衛機制を発動してしまうことがある。

バーンアウト症候群を発症しやすい人の性格的な特徴としては、『完全主義者・生真面目で几帳面・頑固で責任感が強い・他人の気持ちに敏感・人から嫌われたくない』などがある。そういった思いやりがあって他人の気持ちを読みすぎてしまう他者配慮的な性格から、クライアント(他者)に献身的な配慮・援助をつい限界を超えてやり過ぎてしまうのである。そして、いったん心身のエネルギーが燃え尽きてしまうと、なかなか以前と同じような仕事の成果を上げることが出来なくなる、それまで丁寧にサービスを提供していたクライアントとも顔が合わせられなくなって、辞職・転職することになってしまう。

バーンアウト症候群(燃え尽き症候群)を引き起こす『情緒的リソースの枯渇』によって今までの思いやりや優しさ、丁寧さが嘘であるかのように『対人援助サービスの質と意欲(モチベーション)』が下落してしまうと、本人の自尊心・自己肯定感も大きく低下してしまう。その結果、ますます『情緒的消耗・無気力化(無意味化)の悪循環』が深まっていき、仕事上の人間関係にもほとんど適応できなくなって(人に合わせて働くこと自体が困難になり)、辞職・転職を余儀なくされたり長期間の不適応・ひきこもりの状態に陥ってしまうのである。

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