行動主義と新行動主義

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このウェブページでは、「行動主義と新行動主義」の用語解説をしています。


J.B.ワトソンの古典的行動主義

19世紀以前の心理学研究は自分の内面心理を自分で内省する『内観法(introspective method)』が主流であり、1879年にライプチヒ大学で世界初の心理学実験室を開設したW.ヴント(1832-1920)も内観法に基づく要素主義の心理学を構想していた。ジークムント・フロイトの精神分析研究では心理臨床の実践・観察に基づく『臨床法(clinical method)』によって各種の精神分析理論が構築されたが、内観法も臨床法も客観的な結果の測定ができず『主観的・抽象的な研究方法』に留まるという一定の限界を持っていた。

そこで登場してきたのが、心理学の第二勢力とも呼ばれたJ.B.ワトソンやソーンダイクに代表される行動主義心理学(行動科学)である。行動主義(behaviorism)では客観的・実証的な研究方法として、環境条件を統制して実験を行う『実験法(experimental method)』と客観的な行動記録を行う『観察法(observational method)』が採用された。

J.B.ワトソン(1878-1958)に代表される古典的行動主義では、科学的心理学を確立するために『抽象的な内面』ではなく『客観的な行動』を研究対象として、行動の生成・変化・消去のメカニズムを解明する行動実験が実施された。

ワトソンは人間の行動を『刺激(S:Stimulus)』に対する『反応(R:Response)』として理解するS-R理論(S-R連合)を提唱したが、ワトソンは『先天的な遺伝・資質』よりも『後天的な環境・経験』が人間の行動形成や目標達成を規定すると考えていた。ワトソンがこのような環境決定論に近い考えを持っていた一つの例証として、『私に健康で発育の良い1ダースの子どもと彼らを養育するために私が自由に設定できる環境とを与えてほしい。そうすれば、その子ども達に適切な環境と経験を与えて、医師や弁護士、芸術家、経営者、ホームレス、泥棒などにすることができるだろう』と豪語したという伝説的なエピソードが残されている。

ワトソンは『アルバート坊やの実験』で、大きな音の刺激と白いねずみのおもちゃを用いた恐怖反応の条件づけに成功しているが、実際には個人の人生全般をコントロールできるような条件づけを行うことは出来ない。ワトソンの古典的行動主義は、I.P.パヴロフ(1849-1936)『パヴロフの犬の実験(ベルの音に対する唾液分泌)』で証明された『条件反射の理論(conditioned response)』の影響を受けていて、S-R理論は古典的条件づけ(レスポンデント条件づけ)の応用的な理論と見ることもできる。

古典的条件づけ(レスポンデント条件づけ)というのは『無条件刺激(梅干)に対する無条件反応(唾液分泌)』『条件刺激(梅干と関連づけた刺激)に対する条件反射(唾液分泌)』に置き換えていく条件づけのことである。J.B.ワトソンは『特定の刺激』に対して『特定の反応(行動)』が結びつくというS-R理論によって『人間行動の一般法則・因果関係』を明らかにしようとしたが、同一の刺激に対して異なる反応(行動)が起こるという反証によって、古典的行動主義による行動原理の一般法則化(行動生起の環境決定論)は否定された。

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C.L.ハルやB.F.スキナーの新行動主義(neo-behaviorism)

新行動主義(neo-behaviourism)に分類されるクラーク・L・ハル(1884-1952)E.C.トルーマン(1886-1959)は、方法論的行動主義の研究方法と『媒介変数』の導入によって、J.B.ワトソンの古典的行動主義(S-R図式)の限界を克服しようとした。ハルやトルーマンは人間の行動をシンプルな刺激(S)に対する反応(R)と見なすのではなく、刺激に対する反応(行動)を規定する『媒介変数』を設定することで人間の複雑な行動を理解することができると考えた。C.L.ハル(C.L.Hull, 1884-1952)は、1943年の『行動の原理』の中でS-R理論を改良したS-O-R理論(Stimulus-Organism-Response Theory)を提示しているが、この理論における『O(Organism, 有機体)』が刺激・反応に影響を与える媒介変数になっている。

『O(Organism, 有機体)』というのは有機体である生物・人間の内的要因(認知的情報処理)のことであり、同一刺激を受けても有機体の内的な情報処理によって出力される反応(行動)が変化してくるのである。同じ学習時間(学習内容)を経験しても、個体によってその学習効果は大きく異なってくることがあるが、それも『有機体の内的要因=organism』の差異によって合理的に理解することができる。ハルの提示したS-O-R理論(Stimulus-Organism-Response Theory)は、人間の行動の生成変化を統合的・論理的に説明できる理論であり、人間行動の一般法則化に成功しているのだが、媒介変数のO(有機体)が抽象的なブラックボックスになっているという問題が残されている。

E.C.トルーマン(E.C.Tolman)の考案した『サイン・ゲシュタルト説』は、記号(sign)と意味(signification)の相関を類推することで学習が成立するという『S-S理論』の一種である。トルーマンのサイン・ゲシュタルト説では、外部世界にある部分的なサイン(記号)を見出すことで、問題解決のヒントとなる『認知地図』を作成するというアフォーダンスの前提があり、部分性(サイン)から全体性(ゲシュタルト)が予測されることで行動が形成・変化すると考えられている。

急進的行動主義(徹底的行動主義, radical behaviourism)に分類されるB.F.スキナー(1904-1990)はC.L.ハルの仮説演繹的な理論に批判的であり、実証主義・操作主義を前提とする自然科学としての行動主義(行動科学)を確立しようとした。B.F.スキナーはE.L.ソーンダイクの試行錯誤行動を参照して、『スキナー箱』を用いたオペラント条件付け(道具的条件付け)の実験を行い、人間が自発的な行動(オペラント行動)を形成するための条件を研究したのである。

スキナー箱というのは、ネズミが餌を取る為の仕掛け(レバー式の餌入れ)を施した箱のことであるが、ネズミはいったん仕掛けを操作する餌の取り方を試行錯誤して学習すれば、レバーを押して自分から自発的に行動して餌を取ることができるようになる。スキナーは自発的行動の発生頻度を増加させることを『強化』と呼んだが、ネズミは餌という『正の強化子』によって自発的な行動を形成するようになるのである。

オペラント条件付け(道具的条件付け)とは、報酬(快の刺激)を得られる『正の強化子』と罰(不快な刺激)を与える『負の強化子』を用いることで行動の発現・形成を条件付けするものである。報酬を用いた正の強化によって『目的とする行動』の生起頻度は増えるが、反対に罰則を用いた負の強化によって行動の生起頻度は減ることになる。オペラント条件づけとは『飴と鞭の論理』であり、人間行動の形成と消去を合理的に説明するだけでなく、正・負の強化子を用いることで実際に人間の行動発現をある程度コントロールすることができる。スキナーは研究者自身の行動も研究対象にすべきであるという徹底的行動主義を主張したが、ハルの方法論的行動主義にも異議を唱えて『意識』も『行動』の一部として行動主義の研究対象に取り込もうと計画した。

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