DSM-5における神経発達障害(DSM-Ⅳの分類からの変更点)

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DSM-5における神経発達障害(Neurodevelopmental Disorders)の分類


DSM-5のコミュニケーション障害・学習障害・運動障害


DSM-5における神経発達障害(Neurodevelopmental Disorders)の分類

DSM-5では、DSM-Ⅳで『通常、幼児期・小児期または青年期に初めて診断される障害(Disorders Usually First Diagnosed in Infancy, Childhood or Adolescence)』の大カテゴリーにまとめられていた各種の精神障害・発達障害が、『神経発達障害(Neurodevelopmental Disorders)』という大カテゴリーに分類され直している。

神経発達障害は『広義の発達障害』と考えることができるが、その大カテゴリーに含まれる各種の精神障害・発達障害は以下のようなものになっている。

□知的障害(Intellectual Disabilities)
○知的障害(Intellectual Disability)
○全般性発達遅延(Global Developmental Delay)
○特定できない知的障害(Unspecified Intellectual Disability)

□コミュニケーション障害(Communication Disabilities)
○言語障害(Language Disorder)
○会話音声障害(Speech Sound Disorder)
○吃音,小児期発症の流暢性障害(Stuttering,Child-Onset Fluency Disorder)
○社会性(語用論的)コミュニケーション障害(Social(Pragmatic) Communication Disorder)
○特定できないコミュニケーション障害(Unspecified Communication Disorder)

□自閉症スペクトラム(Autism Spectrum Disorder)
○自閉症スペクトラム(Autism Spectrum Disorder)

□注意欠如・多動性障害(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)
○注意欠如・多動性障害(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)
●混合発現型
●不注意優勢型
●多動性・衝動性優勢型
○他で特定される注意欠如・多動性障害(Other Specified Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)
○特定できない注意欠如・多動性障害(Unspecified Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)

□特異的学習障害(Specific Learning Disorder)
○特異的学習障害(Specific Learning Disorder)
●読みの障害(With impairment in reading)
●書き表現の障害(With impairment in written expression)
●算数の障害(With impairment in mathmatics)

□運動障害(Motor Disorders)
○発達性協調運動障害(Developmental Coordination Disorder)
○常同運動障害(Stereotypic Movement Disorder)
○チック障害(Tic Disorders)
●トゥレット障害(Tourette's Disorder)
●持続性(慢性)運動または音声チック障害(Persistent(Chronic) Motor or Vocal Tic Disorder)
●一時的チック障害(Provisional Tic Disorder)
●他で特定されるチック障害(Other Specified Tic Disorders)
●特定できないチック障害(Unspecified Tic Disorders)

□他の神経発達障害(Other Neurodevelopmental Disorder)
○他で特定される神経発達障害(Other Specified Neurodevelopmental Disorder)
○特定できない神経発達障害(Unspecified Neurodevelopmental Disorder)

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大脳の成熟困難や器質的障害を原因とする先天性の『知的障害(Intellectual Disabilities)』も、神経発達障害のカテゴリーに含まれているが、古典的な名称である『精神遅滞(Mental Retardation)』は差別的な意味合いが強いとして近年は用いられなくなっている。

DSM-5に記述されている知的障害の罹病率は約1.0%とされていたが、現在の日本では『幼児教育の普及の広がり・子供を持つ親の教育(知育)に対する関心の強まり』などによって、IQ70~75未満といった必要条件を満たして他の生活・対人領域でも不適応が見られる知的障害(旧発達遅滞)の子供の比率は漸減してきているという。

精神遅滞は知能指数が低いという意味での『知的障害』と一般的な社会環境や職業生活に適応することが困難であるか不可能であるという意味での『適応障害』の両面を持っていたが、DSM-5では『知能指数の数字上の低さ』に余りこだわらない基準に変更されている。重度の知的障害と対人的な適応障害の両面が存在しているケースでは、『自閉症スペクトラム』とのオーバーラップ(重複)が疑われることになる。

DSM-Ⅳまでの知的障害の重症度の判定は、ビネー式知能検査ウェクスラー式知能検査で得られた『知能指数(IQ:Intelligent Quotient)の数字』によって操作的・機械的に定義されていた。概ね“IQ70~75以下の児童”が知的障害という診断を受けるシステムになっていて、『軽度:52~75,中等度:36~51,重度:20~35,最重度:20未満』といった数字上の大まかな重症度の診断基準が設定されていた。

DSM-5ではこういった操作的・機械的な『知能指数の数字』のみによる知的障害の診断基準を大幅に見直しており、『相対的な知的能力の高低』よりも『実際的な生活適応能力の高低』が重視されるようになっている。DSM-5による知的障害の診断基準は『学力領域(Conceptual Domain)・社会性領域(Social Domain)・生活自立領域(Practical Domain)』において、実際にどれくらいのレベルで適応できているのか、具体的な学習課題・生活状況・人間関係に対してどのように対処しているのかを判定するようになっている。

5歳以下の年齢で各領域において全般的な発達の遅れが見られ、年齢の低さのために知的発達評価がしづらい場合には『全般性発達遅延(Global Developmental Delay)』という診断を下すようになっている。身体的な異常や挑発的・反社会的な問題行動などによって、知的発達評価のためのテストが実施できない場合には、年齢が5歳以上であっても『特定不能の知的障害(Unspecified Intellectual Disabilities)』という診断が下される。

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DSM-5のコミュニケーション障害・学習障害・運動障害

神経発達障害(Neurodevelopmental Disorders)の下位分類として『コミュニケーション障害(Communication Disorders)』があるが、典型的なコミュニケーション障害の一種とされるのが『言語障害(Language Disorder)』である。言語障害における言語には『話し言葉・書き言葉・サイン言語(手話など)』が包摂されており、聴覚障害者の言語障害までカバーする基準になっている。

DSM-Ⅳからの変更点としては、言語障害の『表出型(言語の理解はできるが表現が上手くできない)』『表出受容型(言語の理解も表現もどちらも上手くできない)』の区別が廃止されている。それは、『表出型』は児童期以降に自然に言語を獲得して話せるようになるケースが多いため、言語障害のカテゴリーから外されてしまったからである。

『会話音声障害(Speech Sound Disorder)』というのは、音声言語を上手く発音・発声できないために会話が障害されるという内容であり、DSM-Ⅳにおける『音韻障害』とほぼ同じ発達早期に発症する構音障害として理解されているものである。発達早期に発症する『流暢性障害(Childhood-onset Fluency Disorder)』とは、話し言葉を流暢に話すことができずに言葉がつっかえたりどもったりするという障害であり、DSM-Ⅳ以前の一般的に『吃音(きつおん,Stuttering)・どもり』と言われていた症状である。

DSM-5で新設されたコミュニケーション障害として『社会的(語用論的)コミュニケーション障害(Social(Pragmatic) Communication Disorder)』があるが、このコミュニケーション障害は『自閉症スペクトラム』の診断とある程度重複するものと考えられている。社会的コミュニケーション障害というのは『社会性・対人関係の障害』を意味している。

一方、語用論的コミュニケーション障害というやや耳慣れない障害の名称は、『言語の未獲得の障害』ではなく『言語の使い方の障害(言語は獲得して覚えているがそれを適応的に使いこなすことができない障害)』ということを示唆している。

DSM-Ⅳで『非定型自閉症・特定不能の広汎性発達障害』と分類されていた発達障害は『社会性の障害・コミュニケーションの障害』が顕著だが、『こだわり行動(常同行動)・知覚過敏(感覚異常)』があまり見られないという特徴があった。そのため、『非定型自閉症・特定不能の広汎性発達障害』の一部が、社会的(語用論的)コミュニケーション障害に該当するということになる。

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神経発達障害の下位分類である『特異的学習障害(Specific Learning Disorder)』の特徴は、『読みの障害・書き表現の障害・算数障害』の各分野において、年齢・発達段階を考慮した適切な症状(問題状況)の評価ができるようになった事である。発達段階・学習レベルに合わせて学習障害の症状を評価する項目も詳細になっている。その結果、『読み・書き・算数の分野』において何が上手く学習できないのかどのくらいの重症度なのかを客観的に判定しやすくなった。

読みの障害(With Impairment in reading)……単語の読み、読む速度、発音と理解の流暢さ、文章の理解度(短文・長文)など。

書き表現の障害(With Impairment in written expression)……スペル、文法、句読点、文章の意味の明確さ、文章の構成の正しさなど。

算数障害(With Impairment in mathmatics)……数の感覚と理解、計算の正確さと速さ、空間把握能力、数学的思考力など。

DSM-5では各発達年齢(小学校の各学年)において、どのような学習障害の症状が発現しやすいのかの具体的な事例を列挙するようになっている。特異的学習障害の重症度の判定は、指導的(技術的)な援助や学習上(授業上)の配慮の必要性のレベルに応じて『軽度(mild)・中等度(moderate)・重度(severe)』に分けられている。

神経発達障害には、自分の意思・意図で身体の運動や発声を制御できないという不随意性の『運動障害(Motor Disorders)』も含まれている。『発達性協調運動障害(Developmental Coordination Disorder)』は発達早期に発症する自分の意思で身体の動きをコントロールできない運動障害であり、複数の動作を目的的にまとめる協調運動を実行することができないという問題が出てくる。

ボール投げやドリブル、ラジオ体操、縄跳びといった『全身運動(粗大運動)』が障害されることもあれば、箸を使ったり靴を履いたり、ボタンをつけたりといった『微細運動(手先の操作)』が不器用になって障害されることもある。発達性協調運動障害がある児童は、学校の教科では『体育・図工・音楽』などの実際に身体を使って行う実技科目が苦手な傾向が顕著になる。発達性協調運動障害は、身体疾患や神経疾患(脳性麻痺・筋ジストロフィーなど)、自閉症スペクトラム(旧広汎性発達障害)とは同時的に診断されないようになっている。

自分の意思・意図とは無関係に、顔の筋肉が緊張してまばたきをしたり顔をしかめたり、手足が振るえたり思わず声(奇声)を上げてしまったりするのが不随意性の運動障害である『チック障害(Tic Disorders)』である。DSM-5ではチック障害は更に、『トゥレット障害(Tourette's Disorder)・持続性(慢性)運動障害(Persistent Motor Tic Disorder)・持続性(慢性)発声障害(Persistent Vocal Tic Disorder)・一時的チック障害(Provisional Tic Disorder)』へと細かく分類されている。

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