『論語 衛霊公篇』の書き下し文と現代語訳:2

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孔子と孔子の高弟たちの言行・思想を集積して編纂した『論語』の衛霊公(えいれいこう)篇の漢文(白文)と書き下し文を掲載して、簡単な解説(意訳や時代背景)を付け加えていきます。学校の国語の授業で漢文の勉強をしている人や孔子が創始した儒学(儒教)の思想的エッセンスを学びたいという人は、この『論語』の項目を参考にしながら儒学への理解と興味を深めていって下さい。『論語』の衛霊公篇は、以下の5つのページによって解説されています。

[白文]10.子貢問為仁、子曰、工欲善其事、必先利其器、居是邦也、事其大夫之賢者、友其士之仁者也、

[書き下し文]子貢、仁を為さんことを問う。子曰く、工(こう)、其の(その)事を善くせんと欲すれば、必ず先ず其の器(うつわ)を利く(とく)す。是の(この)邦に居りては、其の大夫(たいふ)の賢者に事え(つかえ)、其の士の仁者を友とせよ。

[口語訳]子貢が仁徳を実現する方法を聞いた。先生はお答えになられた。『職人は良い仕事をしようとすれば、その道具を研ぐ。この国の中では、優れた賢明な大夫に仕え、士の中で仁徳のある人と友人になりなさい。』

[解説]理知・学問に優れた子貢が孔子に『仁徳の実現』について質問した章で、孔子は理性的に論理で物事を理解しようとする子貢に『まずは自分が付き合う相手を見直してみなさい』と実践的な答えを介したのである。儒教では『類は友を呼ぶ・朱に交われば赤くなる』といった格言を真理ととらえる傾向があり、孔子は賢者・君子・仁人・志士など『優れた徳性・意志を持つ人たち』と交友関係を深めるように勧めている。

[白文]11.顔淵問為邦、子曰、行夏之時、乗殷之輅、服周之冕、楽則韶舞、放鄭聲、遠佞人、鄭声淫、佞人殆、

[書き下し文]顔淵(がんえん)、邦を為めん(おさめん)ことを問う。子曰く、夏(か)の時を行い、殷(いん)の輅(ろ)に乗り、周の冕(べん)を服し、楽は則ち韶舞(しょうぶ)し、鄭声(ていせい)を放ちて、佞人(ねいじん)を遠ざく。鄭声は淫に、佞人は殆うし(あやうし)。

[口語訳]顔淵が、国家を統治する方法について質問した。先生がお答えになられた。『暦は夏王朝の暦を採用して、車は殷王朝の輅に乗り、衣服は周王朝の冕の冠をかぶり、音楽は舜帝の韶を舞わせるようにする。鄭の音楽を追放して、お世辞を言って君子を惑わせる佞人を排除する。鄭の音楽は美しすぎて淫靡だし、お世辞を言って取り入ろうとする人間は国にとって危険である。』

[解説]孔子が一番将来を期待していた顔淵が、国家の治め方について質問した章である。伝統主義的な価値観を持つ孔子は、『夏・殷・周の文化・慣習・儀礼』を新たな政治に取り入れることの必要性を説き、国家を混乱させて人心を堕落させる鄭の音楽(享楽主義)や佞臣(汚職・政治腐敗の原因)については排除するようにと教えている。周の礼制に依拠した徳治政治が、孔子の理想とする政治形態であり、ストイック(禁欲的)な孔子は華美な音楽様式や爛熟した享楽の文化などは人心を惑わせるので遠ざけたほうが良いと考えていた。

[白文]12.子曰、人而無遠慮、必有近憂、

[書き下し文]子曰く、人にして遠き慮り(おもんぱかり)無ければ、必ず近き憂い有り。

[口語訳]先生が言われた。『人として、遠い将来のことをある程度憂えないと、必ず近いうちに身近な心配事が起こってくる。』

[解説]近視眼的に『短期的な利益』を考えるばかりでは、近い未来に何らかの具体的な問題や困難が生じてきてしまう。そのため、少しは『遠い将来』のことを意識して、さまざまな備え(計画)や心構えをしておいたほうが良いということである。

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[白文]13.子曰、已矣乎、吾未見好徳如好色者也、

[書き下し文]子曰く、已んぬるかな、吾未だ徳を好むこと色を好むが如くする者を見ざるなり。

[口語訳]先生が言われた。『どうしようもないな。私はまだ、美人を愛するほどに徳を愛するという人を見たことがない。』

[解説]孔子が、現実世界において仁徳や礼節を愛する人間が少ないことを慨嘆した言葉である。人間にとって性的欲望はおよそ根源的なものなので、誘惑的な魅力をたたえた『美人』であれば誰もが愛するが、禁欲的な道義や仁愛を必要とする『徳』を愛せる人はやはり少ないのである。

[白文]14.子曰、臧文仲其窃位者与、知柳下恵之賢、而不与立也、

[書き下し文]子曰く、臧文仲(ぞうぶんちゅう)はそれ位を窃める(ぬすめる)者か。柳下恵(りゅうかけい)の賢を知りて而も(しかも)与(とも)に立たざるなり。

[口語訳]先生が言われた。『臧文仲は官位(俸禄)を盗んだ者ではないだろうか。柳下恵が賢明な優れた人材であることを知りながら、それを推挙して同じ官位に就けなかったのだから。』

[解説]孔子が臧文仲の人柄について批判的に述べた章であるが、臧文仲は自身の身分や俸禄を守るために、同等以上の能力と適性を持つ柳下恵を政府(朝廷)に推挙しなかったということらしい。

[白文]15.子曰、躬自厚、而薄責於人、則遠怨矣、

[書き下し文]子曰く、躬(み)自ら厚くして、薄く人を責むれば、則ち怨みに遠ざかる。

[口語訳]先生が言われた。『自分自身について厳しく責任を問い、他人に責任をあまり問わなければ、他人の恨みは自然に遠ざかっていく。』

[解説]孔子が、『自己に厳しく・他人に優しく』といった常識的な処世術について述べた部分であり、他人から無用な恨みや怒りを買わないためには、『責任追及の強さ』を適度に調整する必要があるということである。

[白文]16.子曰、不曰如之何如之何者、吾末如之何也已矣、

[書き下し文]子曰く、如之何(いかん)、如之何と曰わざる者は、吾れ如之何ともすること末き(なき)のみ。

[口語訳]先生が言われた。『「どうしようか、どうしようか」と言わない者は、私もどうしようも出来ないのである。』

[解説]天は自ら助く者を助くではないが、『どうしたら良いのでしょうか?どのようにすれば良いのでしょうか?』と自分の疑問や困難について質問しない人は、どうにも助けようがないということである。『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』ということわざがあるように、自分の疑問や不思議については、それについて深く理解している先人や識者に素直に質問したほうが良いということでもある。

[白文]17.子曰、群居終日、言不及義、好行小慧、難矣哉、

[書き下し文]子曰く、群居して終日、言、義に及ばず、好んで小慧(しょうけい)を行う。難いかな。

[口語訳]先生が言われた。『寄り集まって一日中雑談をしながら、一度も言葉が正義について触れることなく、こざかしい智恵を働かせてばかりいる。これでは(天下国家について語るのは)難しい。』

[解説]孔子が『価値のある対話』や『意味のある談義』について語った章であり、賢しらな智恵ばかりを働かせておしゃべりしていても『問題の本質=本当に重要な話』には触れられないということである。

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[白文]18.子曰、君子義以為質、礼以行之、孫以出之、信以成之、君子哉、

[書き下し文]子曰く、君子、義以て質と為し、礼以てこれを行い、孫(そん)以てこれを出だし、信以てこれを成す。君子なるかな。

[口語訳]先生が言われた。『君子は正義をもって本質とし、礼に従って実行し、謙遜な言葉で表現し、信義をもって物事を成し遂げる。これが君子というものだ。』

[解説]孔子が君子の持つ美質や特徴について述べた部分であり、君子の兼ね備えている特質として『正義・礼容・謙譲・信義』の4点を挙げている。

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