精神的・経済的な自立を目的とするひきこもりへの対処
青年期のモラトリアムの遷延とアパシーの問題
ひきこもり・対人関係の困難・適応性の低下のリスクを高める性格類型
家族システム論と個人カウンセリングの並行的実施
ひきこもりという概念は、言語的な定義を元にして感覚的に理解することができますが、実際にひきこもりの人に会ってみるとその状態には個別的な多様性があることに気づきます。ひきこもりに対する画一的なイメージや偏った思い込みとは別に、ひきこもりの人が抱える心理的困難は多種多様であり、精神的・経済的自立を阻む要因にも様々なものがあります。
多様性と複雑性を持つひきこもりの実際の心理状態を詳細に説明し、解決のメソッドの全てを提示することは難しいですが、ここでは、『病理性の薄い心因性のひきこもり』について概略を示し、『精神的・経済的自立とその為に必要な社会参加』を最終目標に据えた解決法を模索してみたいと思います。
『病理性の高いひきこもり』の場合には、各種精神疾患に適合した医学的治療や心理学的対処を進めていく必要がありますが、ここでは『統合失調症(精神分裂病)・うつ病・強迫性障害を中核とする不安障害・回避性人格障害・依存性人格障害』などとの重複については触れません。また、病理性が極めて明瞭であるか重篤である場合を除いて、ひきこもりを精神障害の一亜型に分類するような認識を取ることには大きな抵抗を感じています。
『異質性の排除という社会経済的構造(自分はひきこもっていたから、社会や他人に対等な相手として取り扱ってもらえないという異質性の自己認知)』を感じ取る事によって、ひきこもり状態は一般的に悪化する傾向があります。ですから、周囲から心理的援助のアプローチを取る際には『ひきこもりの人に異質性や劣等感を感じさせない対応』が最も必要とされます。つまり、明瞭な病理性のある個人でない限り、ひきこもりの人を病人や無能力者、劣等者(怠け者)として扱うべきではありません。飽くまでも、『自分の行動に対する責任能力と社会参加に要する対人能力が一時的に弱っている個人』として対応し、段階的な自立を促進するアプローチを取っていくことが望まれます。
従来、ひきこもりは、青年期(10代後半~20代)に好発するアイデンティティ拡散と関連する心理的問題と考えられていましたが、現在、ひきこもり状態にある人の中には30代~40代といった壮年期に及ぶ人たちも多くいます。ひきこもりの発生年代が拡大していると同時に、ひきこもっている期間の長期化の傾向が見られますが、これは、産業経済社会が成熟していることと無関係ではありません。ひきこもりが豊かな先進国に多い心理的問題とされるのは、『本人が働かなくても生計を維持できる家庭環境』がなければ長期間の非社会性を継続することが出来ないからであり、そういった家庭環境を整備する基盤としてある程度の経済的発展が必要とされるからです。
産業経済の発展によってひきこもりを養える家庭が増加したという要因の他にも、各種情報を簡単に検索して利用できる情報社会の進展もひきこもりの増加要因と考えられます。パソコンをはじめとするIT機器とインターネットの普及により、私たちは自宅に居ながらにして、世界中の膨大な情報や娯楽に接することが可能になりました。
情報化が進展した社会環境では、内向的な性格で他者との人間関係にあまり興味がない人は、膨大な情報の大海へと没頭してしまって社会参加する為のモチベーション(動機付け)を十分に高められないこともあります。また、完全主義欲求の強い人は、青年期に発生した挫折体験を引き金にしてひきこもってしまうケースが多いのですが、その場合にも、テレビゲームやインターネットにのめり込む事によって『自分のアイデンティティ確立(社会経済的自立)の問題』から目を背けようとする行動が見られます。
情報技術の発展や携帯電話の普及といったIT社会の到来は、必要とするあらゆる情報に何処からでも簡単にアクセスできるという便利なユビキタス社会の実現を促進し、多くのITベンチャー企業を誕生させて、インターネットを利用した新たな形態のビジネスを次々と生み出しました。その一方で、24時間休むことのない『仮想的な情報娯楽社会』を招来して、『外部社会と接触しなくてもある程度満足できる情報環境』を整備しました。情報化社会が高度に発展した結果として、非社会的問題行動の発生頻度と持続期間を上げてしまったシニカルな一面があるのです。
現在見られるひきこもりのケースでは、外部の他者との連絡を完全に断っているケースは極めて稀です。携帯電話を利用して音声通話だけでなくメールでも簡単に知人とコミュニケーションができますので、ひきこもりでも携帯電話を持っている人は外部の他者と何らかのコミュニケーションを維持しているケースが殆どです。インターネット内部でも、チャットやmixiなどのSNS(ソーシャル・ネットワークサービス)を利用して、知人やネットで知り合った相手と雑談や対話をしていたりします。こういった携帯電話やインターネットを利用した外部世界や他者との関わりは、ひきこもりの人の孤独感を和らげて精神的安定を与える効果があります。
しかし、反対に『自宅内に居ても、完全に孤立せずに他者と快適なコミュニケーションを行えるという満足感』の為に、社会参加するモチベーションが低下して『ひきこもりというモラトリアム(社会的選択の猶予期間)』を遷延させてしまうことがあります。戦後の高度経済成長による国民所得の上昇と1990年代以降の情報化社会の発展による室内娯楽の増加によって、ひきこもりやすい環境が準備されたという事ができるのではないかと思います。勿論、ひきこもって社会参加をせず経済活動を行わない事によるデメリット(社会経済的不利益)や家族に掛ける心配や迷惑には大きなものがありますので、ひきこもりやすい環境が準備されていても全員がひきこもるわけではありません。
ひきこもり状態に陥る心理的原因とひきこもりになりやすい性格行動パターンについても後述しますが、ひきこもりの問題を解決する為には『ひきこもりになった心理的原因(環境要因)を除去する支持的技法』と『ひきこもり状態を発生させて維持する性格行動パターンを適応的なものへと変容させる認知的技法』が重要になってきます。具体的には、ひきこもりに関連する心的外傷や挫折体験、自尊心の傷つきを回復する為の綿密で共感的な支持的療法を行って、過去の自己の苦悩や葛藤を解消していきます。過去の挫折体験や被害経験への執着(過剰なとらわれ)を断ち切って、未来の自己アイデンティティ確立や社会的活動への参加に意識のベクトルを向けていくのです。
過去の心理的問題に対するカウンセリングがある程度進んでくると、将来の社会適応や人生の選択を実現する為の具体的な対応も始めていかなければなりません。『モラトリアムの終焉による社会適応』と聴くと、自尊心や完全主義思考の強いひきこもりの人は、既存の社会体制や企業活動の中に自己が埋没してしまって自分の存在感が希薄になってしまうという不安を抱くかもしれません。ただ、忘れてはならないのは、ひきこもりの問題解決というのは『精神的・社会的・経済的な自立』を達成するということであり、社会適応や経済活動への参加はその為の手段であると考えることも出来るという事です。他人に迷惑を掛けるような非合法活動や犯罪行為を行って自立するのでなければ、自分の能力や希望、状況に合わせて社会的経済的自立を計画することが出来ます。
また、一度、社会参加して働き出すと他の人生の選択肢を失ってしまうという極端な限定的認知をするひきこもりの人もいます。しかし、何らかの仕事をして社会的活動を始めても、状況や能力に合わせて社会的アイデンティティを再構築したり、職業選択を再考してやり直すことも十分に可能ですから、社会参加する事によって自分の可能性が閉ざされてしまうといった不安は杞憂でしょう。一日の大部分が仕事に束縛されるのが嫌というのであれば、まずは一日数時間の短いバイトなどから社会参加を始めてみても良いと思います。とりあえず社会に出て働いてみることで社会的経済的自立のとっかかりを掴めますし、自分が必要な食費・通信費・遊興費などを自分の力で稼ぐというのは、社会生活に関する自信を高める意味でも貴重な経験になるでしょう。
上述した行動的技法の前段階で、自分のどういった性格特性や認知傾向、行動パターンがひきこもり状態を生み出して持続させているのかを認知療法などを用いて洞察していきます。自分の性格構造や認知傾向の問題点を発見してから、適応的な学習を進める行動療法などを同時並行的に行っていきます。即ち、『“実際に不安を感じる出来事”に接近し、“将来の社会的自立につながる行動”をまずやってみるという行動的技法』を実践していく事になります。
ここでは、病理性の弱いひきこもりの人、生きていく事に何らかの困難を感じている人、職業選択や社会参加に障壁を抱えている為に外部社会に出て行けない人などを対象にして『ひきこもりの問題解決』を考えていきます。まず、どのような性格傾向や行動パターン、認知の枠組みを持っている人がひきこもり状態に陥り易いのかを、簡単な心理アセスメントを用いて説明していきたいと思います。自分のひきこもりの原因をモデル化して特定し認識することによって、効果的で実践的な対処を行っていくことが出来ます。
従来、ひきこもりの多数派を占めていたのは、就職や進学といった進路選択を控えた学生のスチューデント・アパシー(意欲減退症候群)やモラトリアム(進路選択の猶予期間)の遷延を原因とするものでした。現在でも、将来の進路を主体的に選択できない、学生時代の終わりを受け容れて社会参加する意欲が湧かない、自分が自立した社会人としてどのような役割を果たすべきなのかが分からないといったスチューデント・アパシーやモラトリアム遷延を原因とするひきこもりは多く見られます。ここで、青年期の心理発達や病理の内容については詳述しませんが、ひきこもりを誘発する恐れのある青年期の心理的困難として以下のようなアパシー(無気力状態)の特徴を挙げておきます。
青年期に発生しやすい『モラトリアム遷延』の特徴から見えてくるのは、元々、努力や勉強を怠ることなく継続して優秀な成績を修めてきた学生が、急速に人生の進路選択に対する意欲を喪失した姿です。強い自己愛と成功への欲望を持つ青年が、何らかの挫折や敗北を経験したことによって、自尊心や優越感が傷つき、職業選択の意欲や興味を失ってしまった状況だと言えるでしょう。成績優秀者に見られるタイプのスチューデント・アパシーというのは、過去の成功や優越に執着することで要求水準が高くなり、実現可能な社会的アイデンティティ確立に対して積極的になることが出来ない状態なのです。
学生時代の終わりを受容できないモラトリアムと自分の将来の職業(社会的役割)選択に対する意欲減退を引き起こすアパシーの根底にあるのは、『自分の人生を理想自我に従属させようとする強迫的な完全主義傾向』であり『現実原則を無視した自己愛の拡大と傷つき』です。とはいえ、徹底的に努力して理想的な職業に就き、出来るだけ思い通りの人生を歩みたいという欲求や向上心そのものが悪いというのではなく、現実的状況に合わせた臨機応変な判断や環境への適応が出来ないところに問題があります。こういった完全主義欲求の強いアイデンティティ拡散やアパシーの問題に対しては、『完全に壮大な目標を達成できなければ、自分の人生や行為には価値がない』というような極端な二分法思考(全か無かの思考)を抑制して現実適応的な思考(認知)へと変容させていく認知療法的なカウンセリングを行っていきます。
社会的アイデンティティの獲得に迷い苦悩している人は、モラトリアムの長期的な遷延を起こしひきこもり状態に陥りやすくなります。社会的な職業選択(進路選択)という意味でのアイデンティティ拡散を起こしている人の心理的特徴は、『このようであるという現実自我』と『かくありたいという理想自我』が極端に食い違っていて『理想自我に付随する自尊心』が傷つけられているということです。モラトリアムが遷延したひきこもりの場合に行うカウンセリングは、『理想自我と現実自我との極端な格差を埋めていく精神分析的な洞察療法』や『現実自我の機能・知識・スキルを元にして何ができるのかを合理的に認識し、実際の行動に向けて努力する認知行動療法』が中心となります。いじめや虐待などの心的外傷体験が根本原因としてある場合には、その前段階で十分な支持的技法(来談者中心療法)を行い社会的活動に耐えられる心身の状態を準備する必要があります。
認知理論では、偏向や歪曲のある悲観的な認知が、抑うつ・不安・緊張・恐怖・強迫観念といった不快な感情・気分を生み出し、非適応的で問題のある行動につながっていくと考えます。その為、社会環境への適応的な行動を生み出す為に、外部の情報をどのように受け取り意味づけするのかという認知傾向を変容させることに力を入れます。一方、ひきこもり状態にある人は、精神交互作用によって、頭痛や腹痛、めまいといった身体症状を頻繁に訴えたり、不安や恐怖、抑うつといった精神症状が強く出たりすることがあります。
精神交互作用とは、森田正馬(もりたまさたけ)が確立した森田療法で良く用いられる説明概念で、『不快な精神状態や苦痛な身体部位に注意・関心を向け続けることで、不快な感覚が鋭敏化し心身の症状が増悪する悪循環の作用』のことです。精神交互作用の悪循環を抜け出す為には、不快な精神状態や苦痛な身体部位に集中している意識や注意を弱めて、『過剰な不快感や苦痛感へのとらわれ』を無くしていかなければなりません。不快な感覚や嫌な悩み事に意識を集中し過ぎると、その感覚が鋭敏化し問題の深刻さが増したように感じてしまい、更に、意識が悪い部分に集中して悪循環を起こしてしまいます。精神交互作用が極度に亢進して、医学的検査に異常がないのに『自分は死んでしまうような重症の病気に違いない』と妄想的に確信する神経症を“心気症(ヒポコンドリー)”といいます。
ひきこもりに限らず、神経症水準の症状や心身症の身体症状の場合にも、精神交互作用による悪循環は頻繁に見られますので、『自分で自分の症状を形成し悪化させる悪循環に気づき、不快な感覚を無理になくそうとせずに自然に受け容れること』が大切です。ひきこもりの場合にも、仕事や学校に行けない現状や社会的行為を行えない苦悩に意識を集中させ過ぎることなく、『今現在の状態から何ができるだろうか?』という前向きで生産的な思考内容・計画立案に意識を向けていったほうがより良い結果につながります。
仏教思想とも密接な関連のある森田療法の技法論は、現代的な心理臨床の場面で必ずしも有効とは言えませんが、ひきこもりにせよ神経症にせよ、森田療法が説く『あるがままの自然な自分の感情や気分を受け容れよ』という我執から遠ざかる考え方によって気分や非社会的な状態が改善してくることはよくあります。
具体的には、『不快で抵抗を感じる感情・気分・思考に執着し過ぎないこと』『自己嫌悪・自己否定・他者への憎悪や嫉妬・将来不安・悲観的な考えといった不快感を感じる認知は、程度の差はあれ誰でも持っているものであることを理解すること』『自分の弱点や欠点、醜い部分を強引にポジティブ・シンキングや狂気的な努力で克服しないようにすること』『自然な生体機序や心因反応に対して無理に抵抗せず、自然と人為の領域を区別すること』などを重んじて精神状態をリラックスさせ、やるべき事やりたい事だけを淡々とこなしていこうとするのが森田療法の基本的な考え方です。
また、森田正馬は、神経症患者の不安や抑うつ、強迫観念、強迫行為の原因は、物事を全て自分の思い通りに操作しコントロールしようとする『生の欲望の過剰と死の恐怖の生起』にあると言いました。また、かつて、対人恐怖症と呼ばれた現在の社会不安障害も多くの場合、『他者に肯定的に認識して貰いたいという承認欲求の過剰』や『自分の容貌や言動で他者が不快になるのではないかという過大な自意識』がその基盤にあります。
森田療法でも認知療法でも、目前の自分が実現可能な目標や課題からまず取り組み、段階的に高い要求水準に応えていくという系統性を重視していきますが、『かくありたいという理想自我』そのものを完全に諦める必要性はありません。最初の段階では、『このようである現実自我』をまず的確に把握して、自分の能力・技術・知識・希望などに応じた現実的な目標を立て、それを達成できるように様々な認知的・行動的・洞察的な技法を駆使して『自分の行動力や達成力による成功の自信』を強めていきます。
ひきこもり状態に、長期間はまり込んでいるケースの場合には『対人スキルの低下による対人恐怖・社会的行動場面の回避行動・過去の自分の選択に対する後悔・将来の自分の人生に対する強い不安・ひきこもりに関する家族への責任転嫁』などが多く見られるようになってきます。反対に、こういった生活環境や職業活動、将来の進路選択に関する不適応が強まってくるとひきこもりの問題が起こりやすくなります。非社会的問題行動が生起しやすい性格類型の特徴としては、以下のようなものがあり、その特徴をまとめると『完全主義欲求の過剰・誇大な自己愛とその傷つき・外部環境や人間関係に対する過敏性・ストレス状況に対する脆弱性・些細なことに長くとらわれる神経質傾向・実践的行動の軽視と観念的思考の重視』ということができます。
非社会的な問題行動に関する性格特性評価尺度
以下の質問に対して、『はい・いいえ』で回答して下さい。
この心理テストは、あなたの非社会性の程度、環境変化への適応性、対人関係の特徴に対して大まかな性格傾向を判断するもので、『はい』の項目が多いほど、非社会的行動や対人関係の困難、環境への不適応感が高まりやすくなります。しかし、飽くまで相対評価ですので、自分自身が現在の生活状況・対人関係・職業選択に強い違和感や不快感を抱えておらず、日常生活に支障がないのであれば問題ありません。
1.私は、社会(学校・職場・社交場面)に出ると、つらい思いや惨めな気持ちになる事が多いと感じています。
2.私の現在の問題は、私の性格的な特徴が原因になっているのだと思います。
3.私の現在の問題は、とても深刻で私の力では解決できないと感じます。
4.私は今、悩んでいることがあるので、それ以外のことは何も考えられません。
5.私の現在の悩みは、他の人が経験したことがないような特別に深刻なものです。
6.私は、社会(学校・職場・社交場面)に、今後も適応することは出来ないと思います。
7.私が何か社会的な行動を起こす為には、現在の悩みがすっかり解決しなければなりません。
8.私は現在の悩みさえすっかり解決すれば、自分で物事をやり遂げていくことができます。
9.私は自分のことを何の役にも立たない無価値な人間だと感じることがあります。
10.私は自分の悩みを解決し、弱点を克服する為、必死に努力しなければならないと思います。
11.自分の悩みや不快に注意を集中すると、よほど悩みや不快が強くなっていきます。
12.私は内向的で、些細な批判や間違いの指摘でもひどく落ち込んでしまいます。
13.私は、自分の身体感覚や体調が他の人よりとても気になります。
14.私は、物事をきちんと丁寧にしないと気がすみません。
15.私は、このようにありたいという自分の理想に対する欲望との間で葛藤します。
16.私は、自分が人より劣っていることが許せない負けず嫌いなほうです。
17.私は、引っ込み思案で環境の変化や新しい課題に対応するのが苦手です。
18.私は、一つの物事にこだわってしまい、なかなかそこから意識を離すことができません。
19.私は、自尊心やプライドが高く、他人からどう評価されているかがいつも気になります。
20.私は、他の人の自分に対する言動に敏感で傷つきやすいほうです。
21.私は、まったく不安や心配のない生活状況を望んでいます。
22.私は、全ての物事を白か黒かで考え、一定以上の評価を得られないならば何もしないほうがマシと考えたりします。
23.私は、自分の感情を適切にコントロールし、他人の行動もある程度思い通りにしたいと考えています。
24.私は、実際に行動するよりも、まず頭で物事をじっくりと考えるほうが好きで、経験よりも理屈(論理)を重視します。
25.私は、内弁慶で、家の外部ではあまり自己主張や他人への要求をすることがありません。
上記の質問項目によって判断できる内容と簡単な対処をまとめると下のようになります。
1:予期不安……予期不安が杞憂に過ぎないという経験の積み重ね
2:性格への原因帰属……性格以外の外部要因の分析・性格分析による性格変容の可能性の理解
3:適応不安・適応への諦め……具体的な適応困難の問題点を克服する試行
4:自我防衛機制の過剰……防衛を弱めて悩み以外の事柄へ意識転換
5:自己の苦悩の特別視……人生の過程で起きる適応困難・モラトリアム・アイデンティティの問題は一般的な問題であるという理解
6:適応への諦め
7:問題解決・症状克服への執着……執着を弱めて、完全に全ての問題や症状を克服するのではなく、解決を模索する時間をもちながら、実際の社会活動も行うようにする
8:問題解決・症状克服への完全主義欲求……完全に物事をやり遂げようとする事の不可能を認識し、強迫的な観念や行動を弱める適切な対処を取る
9:自己評価の極端な低下……無価値な自分を反駁する自己肯定的な認知の獲得。論理情動療法などによる否定的な自己認識の訂正
10:問題解決・症状克服への完全主義欲求……自分の限界を超えた努力精進ではなく、適切な強度と時間での努力を行い、出来る範囲で有効な行動を始める
11:精神交互作用……不快な感情気分や違和感のある身体の部位に意識を集中し過ぎないようにして、自然な心身の反応を受け容れる
12:他者の批判的言動に対する脆弱性……自分の価値は自分で決める事を原則とし、他者の批判は自分に必要な部分だけを聴くようにする。落ち込む時間や程度を段階的に弱めていき、相手の不当な批判や反論に適切に自己主張できるようにする。
13:心気症(ヒポコンドリー)気質……身体の不調や違和感への意識集中を弱めて、些細な変化にこだわり過ぎないある種の鈍感さを持つ
14:完全主義欲求……物事を丁寧にミスなくやることは素晴らしいことだが、極端な完全主義を回避する
15:理想自我と現実自我の葛藤……理想自我と現実自我を調和させて、適応行動が可能な水準に要求を下げる
16:誇大自己と完全主義欲求……あらゆる分野の技能や業績において誰にも負けないというのは不可能であることを認識し、現実的な勝利や生活へのこだわりの認知へと調整する
17:環境変化への適応不安:具体的な適応困難の問題点を克服する試行
18:完全主義欲求……一つの物事を徹底的にやり遂げるのは良いことだが、それだけに時間を費やせない状況では複数の物事を適度なこだわりをもってこなすようにする
19:自尊心の過剰……自尊心が高いことは良いことだが、いつも他人から高い評価や承認は得られないことを認識し、対人関係場面では適切な自尊心のレベルへと調整する
20:他者の批判的言動に対する脆弱性……自分の価値は自分で決める事を原則とし、他者の批判は自分に必要な部分だけを聴くようにする。落ち込む時間や程度を段階的に弱めていき、相手の不当な批判や反論に適切に自己主張できるようにする
21:問題解決・症状克服への執着……執着を弱めて、完全に全ての問題や症状を克服するのではなく、解決を模索する時間をもちながら、実際の社会活動も行うようにする
22.全か無か思考……世界にある事象や出来事は、白か黒かで割り切って評価できるものではなく、段階的な意義や価値があることを理解する
23.自己と他者への操作欲求……自分の心身や他人の言動を全て思い通りにコントロールしようとするのは幼児的な全能感であり不可能である。他人を動かす為にはまず自分が動かなければならないという認識をもつ
24.観念主義の過剰……内省的に物事を突き詰めて考えられる能力は必要だが、同時に、外的な環境に働きかける実践や行動も重要である
25.内向性の過剰……外向的な性格行動パターンが必要とされる場面では、自己主張や要求ができるようにする
以上の質問項目から導かれる非社会的問題を発生しやすい性格特性は、『強迫的な完全主義という能動性』と『防衛的な悲観主義という内向性』が内在するアンビバレント(両価的)な性格傾向であるといえるのではないだろうか。
上記の性格類型の特徴は、かつて、森田療法が神経症の発症を準備し、その固着的で強迫的な精神症状を持続するとした森田神経質と酷似した性格だと見ることもできます。
神経症的な性格パターンである森田神経質の診断基準
Ⅰ.臨床的な精神症状に基づく特徴で、以下のA,B,Cの特徴のうち、A,Bに該当し、Cの2つ以上に該当する。
A.自我異質性……現実自我を素直に受け容れることができず、現在の自分の生活状況や心理状態に苦痛や苦悩を伴う違和感を感じている。心気症(ヒポコンドリー)のように、自分の身体感覚の些細な異常に敏感になり、過剰に病気ではないかと心配したりすることもある。
B.環境適応への不安……現在の性格・症状・苦悩などによって、社会環境や人間関係に適応できないだろうという強い不安や自信の喪失が見られる。
C.心理的・性格的特性(2項目以上該当)
1.予期不安……実際の行動を起こす前から、また不快症状が起きたり、失敗の経験をするのではないかという強い予期的な不安があること。
2.自己の特別視……自分の抱えている問題や症状は他人とは異なる非常に特別なものであると認識していること。
3.単一の問題への執着……単一の問題や悩みに必要以上にこだわって、そこから抜け出すことが出来ないこと。
4.了解可能性……精神病のような共通理解が不能な不合理な悩みではなく、悩みを聞けばその理由を了解できること。
5.症状消去の努力……症状や悩みを完全に消去しなければ何もできないと思い込み、必死にその努力をし続けていること。
Ⅱ.森田神経質特有の症状構成
A.精神交互作用……身体の違和感や不快な精神状態に注意を向けることによってその不快な感覚(違和感)が強まり、更に症状が悪化していくという悪循環である精神交互作用が見られること。症状や苦悩への過度のこだわり、注意と感覚の相互増強作用が悪循環を形成する。
B.思想の矛盾
『現実自我と理想自我のギャップ』を懸命に努力して埋めようと常軌を逸した努力をすること。不快な症状や困難な問題を完全に克服しようとして必要以上の挑戦的努力をし続けること。実現不可能な高い理想に向けられた完全主義欲求の弊害。
Ⅲ.性格特性
A.内向性・脆弱性
自分の意識や思考を自分の内面世界に向けて、自己批判を行い劣等感や挫折感を持ってしまう「内向性」
他者の評価や批判を過剰に意識して、些細な非難や否定によってひどく傷ついて落ち込む「否定的評価への脆弱性」
何事にも消極的で、与えられた課題を受身でこなし、集団生活への適応が悪い「受動的消極性」
不快な出来事や問題の細部に過度にこだわって、その思考から抜け出すことができない「過度の心配性」
自分の健康状態や身体感覚に対して神経質になりすぎる「心気性」
B.強迫性・固執性
全ての物事を自分の思い通りにコントロールしようとする「完全主義」
他人に対して劣っていることや負けることが絶対に許せない「強い優越欲求」
いつも心身ともに健康な状態を維持していなければ行動できないとする「強い健康志向」
周囲の人物や物事に対して支配的な考え方を持ち挫折に弱い「強い支配欲求」
幼児的な全能感に基づく高い自尊心を持ち、他人から評価されていないと落ち着かない「強い承認欲求と自尊心」
ただ、こういった性格類型をもっている人の全てが対人関係に困難や不安を感じるわけではなく、非社会的なひきこもり状態に陥るわけではありません。強い内向性の性格特徴を持っていても、社会環境に上手く適応してバリバリ働いている人は幾らでもいますし、上記の心理テストで該当する項目が多くても自分の性格や能力、行動に自信を持って対人不安を余り感じていない人もいます。即ち、『生得的に規定される内向性・消極性・非社交性といった性格特性』がある人であっても、その性格特性をよく自己認識して、自分の知識・能力・特徴を生かした社会参加をして経済的・精神的に自立している人が数多くいるという事です。
友人恋人との対人関係や社会的活動に対して積極的ではない人でも、自分が従事する職業活動を遂行して社会的に自立した生活を営むだけの意志や能力、収入があれば、どんなに非社交的であってもそれは個人の性格として尊重されなければなりません。カウンセリングや心理療法などの外部からの専門的介入や相談的アプローチが必要となるのは、以下の場合に限定されなければならないでしょう。
ひきこもりから離脱するカウンセリングは、『家族の病理としてのひきこもりの問題解決』と『個人のアイデンティティ拡散や性格傾向の問題解決』という二つの側面から行っていきます。家族の病理の問題解決というのは、両親の育て方や対応が悪いなどといった過「去を悲観的に振り返る責任追及の観点」から行うものではなく、家族相互の人間関係の性質やコミュニケーションのパターンを観察して、ひきこもりの本人と家族構成員がどのような影響をお互いに与え合っているのかを洞察していくものです。
ひきこもりの子どもが親に不快で苦痛な心理的影響を与えているように、同時に、親や家族成員もひきこもりの子どもにひきこもり状態を維持したり、抑うつ感や反抗的態度を強めるような影響を与えているケースが多くあります。そういった相互的な家族関係を前提とするシステム論的な家族療法によって、ひきこもりの人の考え方や行動を変容させていくことを目指すのですが、その為には、家族の協力や理解がとても重要なものとなります。ひきこもりの人の適応的な思考と行動の変容を引き出す為には、同時に、家族の認知やコミュニケーションを今までとは違うものに変えていかなければならないのです。具体的には、『家庭内でひきこもりを維持する機能を果たしている悪循環の構造と要素』を明らかにし、グルグルと同じ心理状態や非社会的行動を繰り返してしまう『悪循環する行動・思考・感情のパターン』を改善していくための取り組みをしていきます。
まず、重要なのは、家族全員がひきこもりの問題と正面から向き合い、どのようにすればひきこもり状態から離脱できるのかを真剣に考え、『見守るべき時期と干渉すべき時期の区別』をきっちりとつけることです。この区別は、心理学の専門家であっても非常に難しいもので、単一の絶対的な正解というものはありません。ひきこもりの回復を促進する家族システムの正常化を目的とする家族療法と並行して、ひきこもりの人の社会的アイデンティティ獲得を目的とする個人カウンセリングを行っていきます。その個人カウンセリングにおいて、『悪循環を繰り返している現在の状態ではダメだから、外部社会や対人関係へ向けた取り組みを何でもいいからしてみよう』というモチベーションを本人が高めるところからひきこもりの問題解決が始まります。
自尊心の傷つきや完全主義的な高い理想、過去のトラウマ体験などに対する適切な心理的ケアを行いながら、アイデンティティを確立する為の社会参加(職業活動の実行)に向けたカウンセリングを進めていきます。社会的な自立という観点からのひきこもりの問題解決は、『社会的アイデンティティの確立・精神的経済的な自立・家族システムの正常化』によって達成されることになりますが、そこに辿りつくまでには様々な困難や葛藤があり、問題の解決には一定以上の期間が必要とされると思います。
ただ、社会的アイデンティティにせよ個人的アイデンティティにせよ、一度、職業活動に就いて確立すればそれで終わりという性質の自己認識ではなく、何度も環境や認識。ひきこもりとは無縁な一般的な社会人であっても、失業・離婚・退職や家族間の対立、親密な知人との死別といった深刻なライフイベントによってアイデンティティが揺らぐことがあり、そこから立ち直るための新たなアイデンティティを模索していくことになります。
人はその生涯を通じて絶えることなく『私とは何者であるのか?』という自己同一性の問いかけを社会的な活動や個人的な思考の葛藤の中で行い続けなければならず、永遠に安定し続けるアイデンティティといったものは存在しないのです。流動的に変化し続ける生活状況や社会環境の中で、自分はどのような経済活動をして生計を支え、どのような人たちと親密な人間関係を結び、何を喜びや楽しみとして生きていけばよいのかといった事柄を意欲的に考えて行動できるようになれば、社会の中で生きる事が随分と楽になってくるのではないかと思います。
トップページ> ソリューション>
ひきこもり> 現在位置
プライバシーポリシー