子どものトラウマと心理療法

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フロイトの精神分析による心的外傷説
虐待体験による子どものトラウマの特徴
子どものトラウマに対する心理療法の構成

フロイトの精神分析による心的外傷説

乳幼児期における子どもの心的外傷(トラウマ)の問題を、精神療法(心理療法)の対象として初めて取り上げたのは、無意識領域の力動を前提とする精神分析学を創設したオーストリアの神経科医シグムンド・フロイト(S.Freud, 1856-1939)でした。フロイトは乳幼児期の心的外傷に関して、精神的問題を抱えている子どもの一部は、実親(養親・関係者)から性的虐待や身体的な暴力といった“現実の虐待”を受けている可能性があると主張して、保守的傾向の強い19世紀ヨーロッパの世論を騒がせました。

紳士的な態度を装ったヴィクトリア朝時代の上流階級や道徳的な建前を崩さない大人たちは、『子どもを愛すべき親(良識ある大人)が、保護を必要とする無力な子どもに対して虐待なんてするわけがない。性的虐待などという罪深い神をも恐れぬ行為をする人間がいるとは思えない。乳幼児の心的外傷説は人間の尊厳と敬虔な信仰を愚弄する暴論である』と口々にフロイトの心的外傷仮説を非難しました。

後期のフロイトは、社会からの手厳しい道徳的批判と幼児期記憶の事後性(再構成)に関する研究から、前期に認めていた『乳幼児期の客観的現実としての性的虐待』に対してやや懐疑的になります。『現実にあった虐待』のトラウマの結果としてヒステリー(神経症)や統合失調症が発症するという心的外傷仮説を一部棄却して、『幼児期体験は書き換えられる』という立場を取るようになっていきます。特に、大人になってから幼児期の正確な記憶(客観的な現実としての過去)を想起することは極めて難しく、大抵の人は、幼児期健忘の影響で3歳以前の実際の記憶を思い出すことが出来ないといいます。

現在の発達心理学では、幼児期健忘は生理学的なメカニズム(脳の記憶機能の未完成)によって起こると考えられていますが、19世紀から20世紀初頭の精神分析では、乳幼児期に抱いていた性的衝動や本能的欲求を抑圧することによって幼児期健忘が起こると考えられていました。フロイトは友人の耳鼻科医であったフリースとの往復書簡を通して、自分自身の内面世界と家族関係を自己分析しました。その自己分析の過程で、人間の精神発達過程において極めて重要な位置づけを持つ“エディプス・コンプレックス(Oedipal Complex)”を発見しました。古代ギリシアの悲劇詩人ソフォクレスの作品『エディプス王』から名づけられた無意識領域にあるエディプス・コンプレックスは、自分の生物学的性差を自覚する男根期(4~6歳)の子どもに胚胎して生涯にわたって影響力を持つコンプレックスです。

エディプス・コンプレックスとは、“異性の親への性的衝動や愛着”と“同性の親への敵対心や憎悪”によって示される葛藤的な感情複合体です。同性の親を殺して取って代わろうとするエディプス的欲求は、異性の親への完全な愛情欲求を満たしたいとする近親姦願望に根ざしており、自分を養育してくれる同性の親がいなくなればいいのにという無意識的願望は、道徳的な罪悪感の起源となります。

同性の親への敵対心(ライバル意識)を持ちやすいエディプス期(男根期)では、その悪意や攻撃性を同性の親に気づかれて罰されるのではないかという去勢不安が芽生えます。フロイトは異性の親への欲求を断念させるこの去勢不安こそが、善悪の判断基準となる超自我(superego)の形成を促進すると考えていました。エディプス・コンプレックスを克服する(断念する)ことで形成される超自我とは、社会的に認められている価値観と社会的に禁じられている欲求とを分別して、善悪の判断を行う精神内部の構造のことです。

後期のフロイトは、不安・恐怖・抑うつ・強迫性・ヒステリー・心気症など神経症(neurosis)の原因となる心的外傷論について、『客観的な事実経験としてのトラウマ体験』もあるが『エディプス的な幻想(ファンタジー)としてのトラウマ体験』もあるという立場を取りました。エディプス的な幻想は、乳幼児期の断片的な記憶を再現しようとする際に起こる『記憶の歪曲や変化』を意味しており、フロイトはこの歪曲・置換・抑圧された幼少期の断片的記憶を『隠蔽記憶』と呼びました。

隠蔽記憶は、実際の記憶の代理的記憶として置き換えられたものであり、現実的な出来事や親子関係と何らかの連想的なつながりを持っています。故に、過去のトラウマを言語化しようとする精神分析療法では、隠蔽記憶から自由連想や転移分析を進めていくことで、客観的事実を反映した実際の記憶を再構成できるとも考えられていました。転移を取り扱う分析家とクライエントの共同作業によって再構成された記憶には、実際の客観的事実も含まれていれば、空想的欲求(創作された記憶)も含まれているとされています。

つまり、大人になってから過去の幼少期の親子関係を自由連想法で思い出す場合には、事後的に記憶内容が書き換えられる可能性があるという意見を述べて、人間の記憶は“静的な不変の記録”ではなく“動的な変化の過程”であるとしました。精神分析的な心的外傷論は、“事後的な記憶の解釈(再構成)”“幼児性欲の衝動の事後的な抑圧”と深く関わっていますが、このフロイトのトラウマ解釈が『幼少期の虐待の事実認定』に大きな波紋を投げかけました。「虐待などは絶対にしていない」という親と「間違いなく親に虐待された」という子どもの意見の対立について、精神分析では客観的な事実判定が出来ないということが後に問題になったわけです。

精神分析で明らかにされた虐待の事実関係を巡ってアメリカで訴訟になった事例もありますが、現在では精神分析や催眠療法で明らかとなる過去の出来事は『心的現実性』と解釈されることが多くなっています。つまり、精神分析や催眠療法では、クライエントが現実であると確信している『心的現実性(主観的な現実判断)』について言及することは出来るが、客観的な事実認定としての『外的現実性(客観的な現実認識)』を証明することは出来ないということです。自由連想や転移分析によって思い出された過去の記憶には、何らかの幻想的欲求や書き換えの作用が働いている可能性があり、独創的な分析心理学を構想したカール・グスタフ・ユング(C.G.Jung, 1875-1961)はそういった事後的な記憶の再構成を『遡及的幻想』と表現しました。

事後的な記憶の書き換えや変化は、後天的な人生経験や知識獲得の影響を受けるだけでなく、身体の成長過程や第二次性徴期の性的な成熟によっても影響を受けますが、性的な外傷体験の場合には、性的指向(セクシャリティ)や性的な倫理観によってトラウマの性質や強度に変化が生まれてきます。フロイトの精神分析の心的外傷説の枢要となるのは、“トラウマの反復強迫性”“トラウマの身体症状への転換”であり、心的外傷の治療の中心は、肯定的な自己イメージと人生の連続的な物語性を再構築する為の“記憶の統合的な書き換え(再カテゴリー化)”であるといえます。

現在主流となっている認知療法や行動療法、EMDRを応用したトラウマ治療では、クライエントの主訴である虐待や暴力が、心的外傷(客観的な事実)か内的幻想(主観的な空想)かということにはこだわらず、『トラウマの記憶や情動による悪影響(心身症状と反復強迫性)』を緩和することに重点が置かれています。基本的には、両親を含めた家族療法を実施するケースを除いて、クライエントの訴える虐待の過去を実際にあった出来事として受け止めながら心理療法を進めていく流れとなっています。

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虐待体験による子どものトラウマの特徴

両親や大人から児童虐待(child abuse)を受けたり、自分の生死に関わるような重篤な病気(怪我)をしたり、他人の生命を奪うような事件事故に巻き込まれたりした時に、子どもは非日常的で圧倒的な恐怖・苦痛を感じてトラウマ(心的外傷)を負う危険性が高くなります。しかし、子どものトラウマの原因となる出来事で一番多いのが両親や親族による虐待の問題であり、虐待によるトラウマを受けた子ども達は、性格の形成過程で不適応的な歪みが生じたり、うつ病や統合失調症、社会不安障害、人格障害などの精神的な問題を起こしやすくなったりします。

子どもの生命・精神・人格・身体に深刻なダメージを与える卑劣な虐待には以下のような分類がありますが、どの虐待にも共通する特徴として『子どもに不可逆的なトラウマを与えること・AC(アダルトチルドレン)としての不利益を生み出すこと・子どもの精神障害や(情緒的)発達障害のリスクを高めること・共感的な人間関係(異性関係)の形成を妨げること』が上げられます。

児童虐待の分類
虐待の種類虐待の内容
身体的虐待殴る・蹴る・叩く・つねる・やけどを負わす
身動きできないように柱などに縛り付ける
押入れや納屋などに閉じ込める
屋外に閉めだす
首を締める
精神的虐待激しく罵倒する・大声で恐怖を感じるほどに怒鳴りつける
無視して口を聞かない・侮辱して馬鹿にする
他の子どもと差別的取扱いをする
子どもの要求の全てを不当に拒否する
放置虐待(ネグレクト)食事を与えない・衣服を着替えさせない
劣悪で不潔な生活環境下におく
入浴させない・学校へ行かせない
病気の子どもを病院に連れて行かない
性的虐待性的な行為を子どもに対して行う
性的な悪戯をしたり、性器に性的な目的をもって触れる
ポルノビデオやポルノ雑誌を子どもに見せる
猥褻な表現(言葉・態度)を子どもに向けてする

AC(Adult Children)とは、アルコール依存症や薬物中毒、ドメスティック・バイオレンス(DV)、共依存、児童虐待(ネグレクト)の問題を抱えた親の元で育てられて大人になった人たちのことであり、『機能不全家族で育った大人(ACOD:Adult Children Of Dysfunctional Families)』の略語でもあります。親としての責任を果たすだけの精神的な成長(親の責任の自覚)と社会的経済的な能力がない人が親になってしまった場合にアダルトチルドレンの問題が発生しやすくなりますが、アダルトチルドレンの最大の問題は、『虐待的環境を準備する機能不全家族』を再生産する原因となることです。

アダルトチルドレンの定義に該当する人が余りに多いことや自分がアダルトチルドレンであることを過剰に強調することの弊害などから、アダルトチルドレンを臨床的概念として採用することに否定的な意見もありますが、幼少期のトラウマを理解する場合には有効な説明概念の一つです。アダルトチルドレンの問題を過剰に誇張し過ぎることで自立自尊の精神が阻害されることは問題ですが、両親からの温かい愛情や献身的な保護を得られずに大人になってしまった人たちの精神的苦悩(共依存的な対人関係の葛藤)を理解する場合にはアダルトチルドレンの概念が役立つことも少なくありません。

AC(Adult Children)であるからといって『児童虐待・DV(Domestic Violence)・嗜癖(依存症)の連鎖』が必ず起こるわけではなく、アダルトチルドレンとしての癒されがたい苦悩や不安を抱えながらも、自分の子どもに愛情を注いで子育てをし社会生活に適応している人は数多くいます。ACとしてのトラウマ体験がある場合には、『家族関係に対する悲観的認知・育児に対するトラウマティックな反応・他者に対する基本的信頼感の欠如・激しい感情や衝動のコントロール困難・極端な生きづらさの自覚』などの問題が起こりやすくなりますが、情動・衝動を制御する為の認知療法や不安・恐怖を低減させる為の支持療法を行いながら家族生活や社会活動への適応性を高めていくことになります。

両親や親代わりとなる養育者(養親・親戚・児童養護施設の職員)から苛酷な虐待を受けた子どもは低くはない確率で深刻なトラウマの悪影響を受けますが、トラウマ体験をした子どもが見せる『情緒的・行動的・認知的・関係的特徴』には以下のようなものがあります。

トラウマを受けた子どもの特徴
影響を受けるカテゴリー子どもの具体的な特徴
情緒的影響気分の変化が激しくなり情緒不安定となる
パニック症状や不安発作に襲われやすくなる
抑うつ気分が生じて塞ぎこむ
行動的影響挑発的行動を取る
暴力的行動を取る
衝動を制御できない
反社会的問題行動や非社会的問題行動
認知的影響自己否定的(自己懲罰的)な認知
他者否定的な認知
将来悲観的な認知
総じてマイナス思考の認知であり、自己評価が低く他者を信頼しない
関係的影響挑発や誘惑による虐待的関係の再現
自滅的で不利益の多い共依存関係の保持

一般的に、子どもらしい幼少期を送ることが出来る家庭環境というのは、『保護的である・安全である・安心できる・親を信頼し尊敬できる』といった条件が整っている家庭環境のことを指します。反対に、子どもらしい生活を送ることが出来ない機能不全家族の環境というのは、子どもの感情表現や自然な依存欲求(甘え)、自立的な自己主張を禁止している環境であり、『保護されていない・危険である・安心できない・親を信頼(尊敬)できない』といった悪条件のある家庭環境のことです。

ACの実践的な研究者クラウディア・ブラックは、アダルトチルドレンとして幼少期を送った人たちの家庭での役割を、『責任を背負いこむ者』『過剰適応者』『抑制的な調停者』『行動化する子供』に分けて考えています。また、子どもの幸福や安全を考慮しない機能不全家族では、親からのしつけ(教育)や命令で与えられた『禁止令(~してはいけない)』が大人になっても行動・思想・感情の自由を不当に奪っているケースがあります。

アダルトチルドレンの禁止令というのは、子どもの幸福や喜びを阻害する効果を持つ禁止規則であり、暗黙の了解として成立している家族のルールです。具体的な禁止令としては、『話してはいけない・楽しんではいけない・感じてはいけない・信じてはいけない・愛してはいけない』などがあり、相互信頼的な人間関係を作ることを禁止したり家庭内の異常な問題を外で話すことを禁じたりする働きを持っています。虐待的な家庭環境を維持する不合理な禁止令は、基本的に、子どもを外部世界から切り離して孤立させ、家族以外は誰も信用することが出来ないという間違った信念を植え付けることを目的としています。

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子どものトラウマに対する心理療法の構成

虐待や犯罪、事件などによってトラウマを受けた子どもは、『自分の周囲にある環境』や『自分と関係を持つ他者』を危険で信用できないものと認知する傾向があります。虐待や暴力が日常化した機能不全家族は、いつ生命や自由を奪われるか分からない危険な環境であり、いつ身体や精神を傷つけられるか分からない危機的な状況なので、トラウマで傷ついた子どもは絶えず周囲の危機的状況に耐えるための『認知的構え(自我防衛機制)』を持っているわけです。圧倒的な恐怖や孤独を感じ続けた子どもは、他人を信用しないことによって他人からいつ裏切られても傷つかない防衛体制を取ることができ、周囲の環境の変化に敏感に反応して危険を読み取ることで不意打ちの攻撃から自分を守ることができます。

こういった『認知的構え(自我防衛機制)』は、いつ他人から攻撃や侮辱を受けるか分からない虐待的な環境では有利(適応的)に働きますが、他人と信頼関係を構築して協力して生活しなければならない通常の社会環境では不利(非適応的)に働いてしまいます。率直に問題点を指摘するならば、行き過ぎた自己防衛のための認知的構えや心理機制は、共感的な対人関係パターンを歪ませて感情生活の満足を阻害するだけでなく、自分自身の生きている意味(価値)を喪失させて自己評価を大幅に下落させる働きをします。

両親からの虐待や犯罪による被害を受けた子どもは、他人を信頼できないトラウマの影響によって『虐待的な人間関係』を再現しようとする傾向を見せますが、トラウマを持つ子どもの心理療法では『安心できる生活環境』を整備して『安全性の再学習』を進めていきます。

本来、自分を一番深く愛してくれて保護してくれるはずの親から虐待を受けた子どもは、その悲惨な後天的経験から『誰も信じることは出来ないし、信じても残酷に裏切られるだけだ』という不適応な学習をしています。その為、子どもの安全と安心を保障する環境調整的な心理療法のアプローチを通して、『自分を傷つけない優しく思いやりのある他者(大人)もいる・自分が安心してくつろぐことのできる安全な場所もある』という認知を獲得するための再学習を行っていく必要があります。

子どものトラウマを治癒する為の心理療法の基盤にあるのは『環境調整による安心感・安全感の再構築』であり、トラウマの問題を根本的に解決していく為には『子どもの他者に対する基本的信頼感の再生』が不可欠のものとなります。大人に対して挑発的・攻撃的な態度をとって『大人の耐性(我慢)の限界』を測定しようとするリミット・テスティング(limit testing)を見せる子どももいますが、リミット・テスティングに対して体罰や暴言で感情的に反応すると『虐待的人間関係の再現』にカウンセラー(臨床家)が協力してしまうという危険な状態に陥ります。

何故、カウンセラー(臨床家)が一生懸命に安心できる人間関係を提供し、虐待の危険のない安全な生活環境を整備しているのに、トラウマを受けた子どもは、挑発的な態度でリミット・テスティングを仕掛けて、暴力的な行動で心理療法の枠組みを破壊しようとするのでしょうか。その答えは極めて簡潔なものであり、『一旦心を許して信じてしまった相手に、突然裏切られる危険を回避したい・安心して無防備になったところで、不意打ちの攻撃を受ける恐れがある・表面的に甘く優しい言葉を言っているが、大人はいつその態度を豹変させるか分からない』という過度の不信と慎重な態度に根ざした防衛機制であり、危険な環境変化に対応するための警戒心の現れであると言えます。

カウンセラーは、トラウマを受けた子どもが『虐待的な人間関係』を再現しようとする挑戦的行動パターンを変容させる為に、子どもの他者に対する基本的信頼感と環境に対する基本的安心感を成長させていかなければなりません。子どもの恐怖感や不安感を緩和する支持的療法を粘り強く実施して、子どもの攻撃性や挑発的行動を抑制する安全な環境の調整を進めていくと、子どもに『安心感・安全感の再構築』という変化が起こってきます。そういった非虐待的な支持的アプローチを継続する中で、『私は信頼できる大人や友人に守られているから、もっとリラックスして自然に生活を楽しんでもいいんだ』という認知的な構え(認知的スキーマ)が段階的に強化されてくるのです。

『自分は信頼できる他者から保護されている・自分には守ってくれる味方がいる・自分は一人ぽっちで孤立しているわけではない・自分の気持ちを理解してくれる相手がいる』という信頼関係を肯定する認知的スキーマは、自己肯定感(自己評価)を高めてくれるだけでなく、外部の不快で苦痛な出来事に対するストレス耐性(フラストレーション耐性)を高める働きがあります。安心感と安全感の再構築に成功して、他者に対する基本的信頼感の成長が起こってくると、欲求不満に対して怒りや攻撃で反応しなくて済むだけのストレス耐性(フラストレーション耐性)が付いてくるのです。

環境調整的な心理療法によって、『安全感と安心感の再構築』『ストレス耐性(フラストレーション耐性)の向上』が達成されてくれば、後は具体的な対人関係パターンの改善を行ったり、情動(感情)を適切にコントロールする認知療法的なアプローチを行っていきます。小学校に入学する以前の幼児では、自分の感情や考えを言葉にして表現する能力が未だ低く、自分の置かれている客観的な生活状況や親子関係を正確に説明する言語機能も十分に発達していないので、玩具(人形・箱庭)やゲームを使ったプレイセラピー(遊戯療法)を実施することが多くなります。

非言語的なコミュニケーションを中心としたプレイセラピー(遊戯療法)やアートセラピー(芸術療法)では、人形遊び・粘土細工・絵画・ゲームを用いた創作行為(表現活動)によってカタルシス(感情浄化)の効果を引き出し、虐待状況を遊びの中で再現することによって自己洞察(アウェアネス)を深めていきます。トラウマの問題を解決する為に実施される遊戯療法(プレイセラピー)を、「トラウマを受けた後に適用する遊戯療法」という意味でポストトラウマティック・プレイセラピーと呼ぶこともあります。その場合には、室内の安全性と玩具の選択が十分に配慮されたプレイルームで遊戯療法を実施し、子どもの内面的な感情や虐待的な家族関係を『遊びの内容』で象徴的に表現させるように工夫します。

ポストトラウマティック・プレイセラピーの治療機序は、カウンセラーとラポールを形成して楽しく遊ぶことによる『除反応(abreaction)』と遊びの内容の中に虐待状況(虐待関係)を象徴的に再現していくことによる『再体験と再統合(自己洞察とトラウマの消化)』にあります。虐待・事件・事故・犯罪などによって起こる子どものトラウマの問題に対処する心理療法の構成をまとめると以下のようになります。

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