『枕草子』の現代語訳:27

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清少納言(康保3年頃(966年頃)~万寿2年頃(1025年頃))が平安時代中期に書いた『枕草子(まくらのそうし)』の古文と現代語訳(意訳)を掲載していきます。『枕草子』は中宮定子に仕えていた女房・清少納言が書いたとされる日本最古の女流随筆文学(エッセイ文学)で、清少納言の自然や生活、人間関係、文化様式に対する繊細で鋭い観察眼・発想力が反映された作品になっています。

『枕草子』は池田亀鑑(いけだきかん)の書いた『全講枕草子(1957年)』の解説書では、多種多様な物事の定義について記した“ものづくし”の『類聚章段(るいじゅうしょうだん)』、四季の自然や日常生活の事柄を観察して感想を記した『随想章段』、中宮定子と関係する宮廷社会の出来事を思い出して書いた『回想章段(日記章段)』の3つの部分に大きく分けられています。紫式部が『源氏物語』で書いた情緒的な深みのある『もののあはれ』の世界観に対し、清少納言は『枕草子』の中で明るい知性を活かして、『をかし』の美しい世界観を表現したと言われます。

参考文献
石田穣二『枕草子 上・下巻』(角川ソフィア文庫),『枕草子』(角川ソフィア文庫・ビギナーズクラシック),上坂信男,神作光一など『枕草子 上・中・下巻』(講談社学術文庫)

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[古文・原文]

39段

あてなるもの

薄色に白襲(しらがさね)の汗衫(かざみ)。かりのこ。削り氷(けずりひ)のあまづら入れて、新しき鋺(かなまり)に入れたる。水晶の数珠。藤の花。梅の花に雪の降りかかりたる。いみじう美しきちごの、いちごなど食ひたる。

[現代語訳]

39段

上品なもの(品があるもの)

薄紫色の衵(あこめ)に白がさねの汗衫(かざみ)。カルガモの卵。削った氷に甘いあまづらを入れて、新しい金まりに入れたもの。水晶の数珠。藤の花。梅の花に雪が降りかかっている景色。とても可愛らしい幼い子供が、苺などを食べている姿。

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[古文・原文]

40段

虫は鈴虫。ひぐらし。蝶。松虫。蟋蟀(きりぎりす)。はたおり。われから。ひをむし。螢。

蓑虫、いとあはれなり。鬼の生みたりければ、親に似てこれも恐ろしき心あらむとて、親のあやしき衣(きぬ)ひき着せて、「今、秋風吹かむをりぞ、来むとする。侍てよ」と言ひ置きて逃げて去(い)にけるも知らず、風の音を聞き知りて、八月ばかりになれば、「ちちよ、ちちよ」と、はかなげに鳴く、いみじうあはれなり。

額づき虫(ぬかずきむし)、またあはれなり。さる心地に道心おこして、つきありくらむよ。思ひかけず、暗き所などにほとめきありきたるこそ、をかしけれ。

蝿こそ、にくきもののうちに入れつべく、愛敬なきものはあれ。人々しう、かたきなどにすべき物の大きさにはあらねど、秋など、ただ萬(よろづ)の物に居(ゐ)、顔などに濡れ足して居るなどよ。人の名につきたる、いとうとまし。

夏虫、いとをかしう、らうたげなり。火近う取り寄せて物語など見るに、草子の上などに飛びありく、いとをかし。

蟻はいとにくけれど、軽び(かろび)いみじうて、水の上などをただ歩みにありくこそ、をかしけれ。

[現代語訳]

40段

虫は鈴虫。ひぐらし。蝶。松虫。こおろぎ。キリギリス。われから。ひおむし(カゲロウ)。蛍。

蓑虫は、哀れである。鬼の生ませた子なので、親に似てこの子にも(人を襲い食らうような)恐ろしい本性があるだろうと思われて、女親が粗末な着物を引き寄せて、「今に秋風の吹く季節になります。迎えに行くので待っていなさい」と言い残してどこかへ逃げ去っていったのも知らず、秋風の音を聞いてそれと知って、八月の頃になると、「お父さん、お父さん」と儚げな声で鳴いているのが、とても哀れである。

額づき虫、これも哀れな虫である。そのような小さな体で仏教の修行をしたいという気持ちを起こし、頭をいつも地面に付けて歩くという修行(常不軽の礼拝の行)をしているとは。思いがけず、暗い所でホトホトと頭を地面に付けて歩いている姿は面白い。

蝿こそは、憎いものの中に入れるべきもので、こんなに可愛らしさのないものはない。人と同じようにして、目の敵にするほどの大きさはないのだが、秋などは、あらゆるものの上に止まり、人の顔などにも湿った足で止まるのだ。人の名前に蝿と付いているのは、本当に疎ましい。

夏虫は、とても趣きがあって可愛らしい。火を近くに寄せて物語などを読んでいると、本の上などを飛び回っているのがとても趣きがある。

蟻はとても憎らしいものだが、非常に身軽であり水の上でも歩けるというのは、面白いものだ。

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