「経済とは何か?経済活動の主体は誰か?」でも書いたように、経済主体である「個人・企業・政府」は相互的作用を及ぼし合います。その為、『好景気・不景気』といった景気の波は、「個人・企業・政府」を別々に襲うことはなく、それら3つの経済主体に同時に影響を与えることになります。
そもそも、景気とはどういった事象を指している言葉なのでしょうか?『景気が良い・景気が悪い』という言葉は、どういった経済情勢の変化を意味しているのでしょうか?
学問としての経済学には、景気を客観的に数値化して示す『景気指標(economic indicators)』というものがありますが、それについては後で触れるとして、まず簡単な日常用語で景気を考えてみましょう。そうすると、私達が生活感覚で感じる景気の変動とは、『モノやサービスが売れる(売れない)・給与や賞与といった収入が増える(減る)・政府の財政赤字が減る(増える)』という意味での変化といえます。簡単な言葉で景気変動を考えるならば、『経済活動の勢いや活発さの変化』だと言えるでしょう。
英語では景気(市況)のことを特別な単語を当てずに、“business,an economic recovery(景気回復)”といった形で表現します。景気が良い(悪い)ということは、簡単に仕事や経済がうまく回っているかどうかという事を言っているわけです。景気とは、ビジネスや仕事の調子のことなのです。
つまり、お金が勢いよくぐるぐると循環していて、『商品とサービスの生産・消費・流通・販売』がうまくいっていれば、社会の経済活動は順調に行われていると判断できます。個人・企業・政府といった経済主体が、それぞれの活動(生産・消費・公共事業・行政サービス)を滞りなく行う為に必要なお金が、十分に流れていれば経済状況(景気)は良いといえます。
反対に、個人が必要なモノ・買いたいサービスを手に入れられなかったり、企業がその事業を継続して行う利益を上げられなかったり、税収が減って政府が財政赤字を積み上げていっている場合には、『景気が悪い経済状況』にあるといえます。
好景気が与える影響
個人……所得上昇,需要と消費の増加,雇用安定
企業……黒字増加,利益率上昇,供給と生産の増加,雇用数の増加と安定雇用
政府……財政回復,税収増加,公共事業・公共投資の増加,社会保障政策の安定,行政サービスの充実
金融機関……融資額増加,金利上昇,金融投資増加,マネー経済の活性化
不景気が与える影響
個人……所得減少,需要と消費の減少,雇用不安定,失業者の増加,新規採用枠の減少
企業……赤字増加,利益率低下,供給と生産の減少,雇用数の減少,リストラ(業務効率化や経営合理化),社員の解雇や早期退職の勧奨,倒産
政府……財政悪化,国債増発,公共事業・公共投資の減少(ケインズ政策では増加の場合もあるが、現在の日本では政府主導の景気回復論は強くない),社会保障政策の不安定,行政サービスの削減
金融機関……融資額減少,金利低下(日銀の公定歩合引き下げによる景気対策),金融投資減少,マネー経済の停滞(好景気に沸いたバブル経済の破綻で不景気になる場合もある)
資本主義経済では、景気変動によって起きる経済主体への影響を免れることは出来ません。株式市場における株価は常に変動し続け、為替市場における相場は一瞬一瞬変化し続けています。人々が欲しいと思う商品や受けてみたいサービスはいつも変わり続けているので、快適な生活水準を実現する『普遍的な需要と供給のシステム』を自動化させる計画経済も不可能であるとされています。かつて、共産主義圏の宗主国ソ連では、実験的な計画経済が国家の英才を集めた共産党幹部(官僚機構)によって指導されましたが、結果は惨憺たるものでした。需給のバランスを欠いた計画的な生産をたびたび行って、物不足の事態を引き起こしたりしました。
ソ連で実験的に行われたような計画経済には、自由市場における競争原理が機能せず、競合する他社が存在しません。その結果、画一的な個性のない商品や技術的進歩の乏しい製品の供給が多くなってしまうという弊害もあります。全ての人が貧困から自由になる結果平等の理念は素晴らしい部分もありますが、どれだけ才能豊かな人でもどれだけ努力する人でも、他の人と全く同じ経済的分配しか受けられない社会では創造的なアイディアや革新的な技術開発などが起こりにくくなってしまう欠点が表れてきます。
実際、旧共産圏では労働意欲の停滞や手抜き作業の問題が深刻となり、精密機械部品の欠陥や高度な技術を要する商品の品質劣化が問題となったりもしました。共産主義(社会主義)の政治的イデオロギーを抜きにした、『景気変動の影響を受けない、恐慌が絶対に起きない、需給バランスを事前に計算できる計画経済のシステム』は、現段階の人類には非常に運用の難しい経済システムだといえます。
消費者の個別的なニーズや要求を経済活動に取り込みにくいという問題や金融市場からの資金調達が出来ないという企業活動振興の困難といった問題もあり、総合的な経済的豊かさや個人の経済的満足度という意味では、資本主義経済のほうが優れている部分が多いといえるでしょう。
しかし、現在の日本でも所得・資本の経済格差の拡大が懸念されているように、資本主義社会で自由主義経済に全ての分配を委ねると、経済格差に歯止めがかからなくなるといった問題も持ち上がってきています。その為、『経済格差を緩和する政治的な再分配(累進課税・社会福祉・社会保障・所得や資産の大小による負担の割合)』をどのように行うべきなのかが絶えず経済政策上の議論になっています。
関連リンク
経済統計によって算出される景気指標
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