E.H.シャインのキャリア理論・キャリア発達モデル

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このウェブページでは、『E.H.シャインのキャリア理論・キャリア発達モデル』の用語解説をしています。

E.H.シャインの円錐形の組織モデルにおける三次元のキャリア発達論

シャインのキャリア発達理論の特徴:放射軸のキャリア移動による部内者化


E.H.シャインの円錐形の組織モデルにおける三次元のキャリア発達論

アメリカの組織心理学者・キャリア心理学者のエドガー・ヘンリー・シャイン(Edgar Henry Schein, 1928-)は、企業の組織運営や個人のキャリア発達、キャリアのコンサルティングの分野で研究した人物である。E.H.シャインは企業・組織の意思決定に影響を与える『3つの人間観(合理的経済性・社会性・自己実現志向)』を提示して、組織に所属する従業員のキャリア発達を『円錐形の組織モデル』を用いて説明した。

シャインは組織従業員の組織内におけるキャリア発達を、『垂直軸・放射軸・円周軸』という円錐形モデルの三次元の方向性(三次元の移動性)によって説明しようと試みたのである。

『垂直軸の次元』というのは『職階(昇進)の次元』である。キャリア発達において垂直軸上の移動は職階・職位の昇進か降格かを意味しており、組織従業員は垂直線軸を上方向に上昇移動することによって『昇進』し、下方向に下降移動することによって『降格』するようになっている。企業・組織の人的資源管理では『昇進・降格(左遷)の人事管理』と深く関係しているが、垂直的キャリアの発達においてどこまで高い職位に昇進するか、早い段階で昇進が止まってしまうかの個人差(地位・報酬の差)は非常に大きくなる。

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『円周軸の次元』というのは『職能・技術の次元』である。キャリア発達において円周軸上の移動は、横方向の水平的なキャリア(職業の役割・部門・能力)の移動を意味している。組織従業員は円周軸上において『研究開発・経営・企画・営業・製造・販売・人事・総務・経理・接客接遇』などの職業上の役割や部門を移動していくことになるが、人によってずっと同じ営業(製造)の部門に従事してそこで垂直軸上の昇進をする人もいれば、経理・販売・営業・製造など複数の部門を行き来して総合的な経験を積んでから経営陣(幹部クラス)へ昇進していくような人もいる。

『円周軸上のキャリア発達』は専門的な知識・技術・経験・部署の移動を意味しているので、『垂直軸上のキャリア発達』と比較するとどちらが上(昇進)でどちらが下(降格)かははっきりしないことがある。特に、医師・法曹・会計士・看護師・エンジニア・科学研究者などの専門職では、職業生活の早い段階から『特定の専門分野の仕事』だけに従事してそこで仕事の内容や技術、経験を深めていくので、職業生活の全体を通して円周軸上のキャリア発達(専門分野の移動)がほとんど見られないという特徴もある。

企業・組織の人的資源管理では、製造から経理・営業への部署の移動といった『人材の配置転換・配置管理(人材の各部署への配置)』と関係しているキャリア発達である。

『放射軸の次元』というのは『メンバーシップ・部内者化(内輪化)の次元』である。キャリア発達において放射軸上の移動は、円の内部に向かうキャリア(メンバーシップの中枢性・中心性・身内性)の移動を意味している。『放射軸上のキャリア発達』は企業・組織における正式なメンバーシップの深まり(部内者化)であり、時に『円周軸上のキャリア発達』である専門的な部署・知識・能力の移動と重複して移動が行われるものである。

日本の雇用慣行に照らし合わせると『正規雇用(内部者化)』『非正規雇用(外部者化)』のメンバーシップの立場(中枢性と中心性・企業の福利厚生)の違いが、放射軸上のキャリア発達の典型的な事例になっている。例えば、市役所・区役所を訪れた市民の目線からは、窓口に立って笑顔で事務対応をしてくれている担当者が、『正規雇用の公務員』なのか『非正規雇用の嘱託(アルバイト)』なのかは簡単には見分けがつかないが、放射軸上のキャリア発達においては両者のキャリア移動は本人にとって非常に大きな意味(身分・待遇の違い)を持っているのである。

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シャインのキャリア発達理論の特徴:放射軸のキャリア移動による部内者化

放射軸上のキャリア移動では、組織従業員はメンバーシップの次元で所属組織の『中枢(内部)』『外縁(周辺)』の間を職位・立場・評価・雇用形態などに応じて行き来しているが、一般的には外縁から中枢へとキャリア移動することによって、雇用待遇の給与・保障が手厚くなったり組織内部での地位・権限・影響力が強まったりすることになる。

外縁から中枢への移動は『部内者化(組織内での重要度の上昇)』を意味しており、そのキャリア発達のための一般的手段としては『職務経験を積むこと・職場の人間関係を深めること・実績を上げて評価を高めること・周囲からの信頼を集めて大きな仕事上の責任を引き受けること』などを考えることができる。

放射軸上のキャリア移動によって、企業・組織の中枢(中心)へと近づき人材としての重要度・責任を高めていくことによって、『組織内での恩恵・特典・待遇改善』を受けやすくなる。更に、内部者化と職位の昇進、信頼・責任の増加によって、『組織内部の重要な秘密・経営に関わる機密情報』にもアクセスできるようになり、『組織中枢における重要な意思決定』に一定の権限を持って参加できるようにもなる。

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労働者(被雇用者)である組織従業員のキャリア発達上の転機(transition)は、上記した『垂直軸(昇進)・円周軸(専門分野)・放射軸(中枢性)の三次元のキャリア移動』と関係しており、それぞれの軸におけるキャリア発達は他の軸のキャリア発達とも相互に影響を与え合っているのである。例えば、一般的に『垂直軸上の職位の昇進』は『放射軸上の中枢化・部内者化(重要人物化)』と強く相互に相関し合っている。

一方で、『垂直軸上の昇進の停滞(職位で出世しない状況)』があったとしても、組織内での人間関係における信頼・評価が高かったり(特定の専門分野の経験に秀でていたり)して、『放射軸上の部内者化・キーパーソン化』が同時に起こっているような二つの軸の相関関係があまり成り立っていないケースもある。

E.H.シャインの円錐形の組織モデルを前提にした『キャリア発達理論』が、国際的に評価されてきた理由としては以下のような点を考えることができるだろう。

1.職位による上下関係のある企業組織を、『ピラミッド型の円錐形モデル(頂点に向かうほど職位・立場が高くなる見た目)』で表現したという視覚的な分かりやすさ。

2.多種多様な職業・職種に応用することが可能な柔軟性があるだけでなく、さまざまな職業・職種に共通している『キャリアの共通特徴・共通要素』を適切に捉えてモデル化しているということ。

3.従来のキャリア発達理論は『昇進・降格の垂直軸の移動』だけに焦点を当てたものが多かったが、そこに『専門分野・役割の円周軸の移動』と『中枢・部内者化の放射軸の移動』を付け加えたことで、より実際の組織運営や従業員のキャリア発達を正確に把握しやすくなったということ。

シャインのキャリア発達理論の今後の課題として『放射軸のキャリア移動(中心と外縁・部内者化)の客観的な測定評価法の確立』が言われることが多い。更に日本では1990年代以降に『終身雇用・年功賃金の雇用慣行』が崩れてリストラ・転職者が増えているので、『企業内キャリアだけに留まらない組織間キャリア・個人キャリアの発達と可能性の視点』の導入が求められている。

一つの組織・企業の内部だけで通用する経験・知識・技能・影響力だと、その組織・企業を何らかの理由で離れなければならなくなった失業者・転職者は、それまで積み上げたキャリアが途絶えてしまいやすくなる。そのため、現代では『ポータブルスキルの獲得・転職市場における人材需要・専門知の応用範囲の拡大』などを踏まえた複数の組織間で通用して継続するキャリアのあり方が模索されているのである。

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