古典的条件づけとレスコーラ=ワグナー・モデル

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S-R連合説とレスコーラ=ワグナー・モデル

20世紀前半から台頭した行動主義心理学では、J.B.ワトソンのS-R連合説(S-R理論)によって人間の行動のメカニズムを解明しようとしたが、S-R理論はロシアの生理学者I.P.パヴロフ『条件反射(刺激置換説)』に基づいて構築された仮説である。J.B.ワトソン(1878-1958)の創始した行動主義心理学では人間行動を『刺激に対する反応(刺激と反応の機械的連合』として理解するが、パヴロフの刺激置換説というのは、生理的な反射を生起させる『無条件刺激(US)』と反射と無関係な『条件刺激(CS)』を対呈示して無条件刺激と条件刺激を置き換えることが出来るという仮説である。

ワトソンは刺激と反応との間に時間的接近(刺激のすぐ後に反応が起こる)があれば、S-R連合が成立するという『接近説』の立場を取ったが、新行動主義者のC.L.ハルやB.F.スキナーは反応(行動)に対する報酬・罰の強化によってS-R連合が成り立つという『強化説』の立場を採用した。

『接近説』と『強化説』はS-R連合の成立条件について説明した仮説であるが、E.C.トルーマン(E.C.Tolman)は記号(sign)と意味(signification)の相関を類推する『S-S理論』を提起して古典的条件づけの考え方に認知心理学的なスキームを持ち込んだ。S-S理論(S-S連合)はサイン(記号刺激)に対する合理的な期待形成という『認知的な学習過程』を想定したものであるが、R.A.レスコーラA.R.ワグナー『無条件刺激と条件刺激との間の随伴性』に着目して認知心理学的なS-S連合を定式化したのである。

『随伴性(contingency)』というのは、Aの刺激に従ってBの反応が起こるという物理的な性質あるいは合理的な予測のことであり、随伴性の認知的学習によって『時間的な接近』とは無関係にS-Rの連合が成立することになる。随伴性によって成立する代表的な学習として、ガルシア効果とも呼ばれる『味覚嫌悪学習(tasting learning)』がある。味覚嫌悪学習はある食物を食べた時に気分が悪くなったり不快症状が出た場合に、その食物の味をまずく感じるようになる認知的学習であり、その食物の味や食べた回数とは無関係に成立する。

古典的条件づけ(レスポンデント条件づけ)の認知的学習過程を定式化した『レスコーラ=ワグナー・モデル(レスコーラ=ワグナー理論)』は、『慣れていない新規・意外な強化子(刺激)ほどS-R連合を強く強化するという事実』を数式で表現したものである。

レスコーラ=ワグナーモデルは[Δ(デルタ)V=α(λ-V)]の公式で定式化されるが、ΔVは『ある状況で条件刺激が獲得する連合強度の増加分』を示しており、αは『条件刺激の明瞭度によって決まるパラメータ(0~1の値を代入)』、λ(ラムダ)は『無条件刺激の強度によって決まるS-R連合の最大値』、Vは『既に過去の条件づけで獲得している条件刺激のS-R連合の強度』である。このモデルは、今までに経験したことのない新規で意外な刺激ほど古典的条件づけを強化しやすく、複数の刺激が条件づけに関与するケースでは各要素の連合強度が複合することを表している。

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古典的条件づけの“注意”の増減と制止メカニズム

レスコーラ=ワグナー・モデルは『無条件刺激に対する連合強化の最大値』を定式化の基準にしていたが、N.J.マッキントッシュは『強化の随伴性』を期待できる条件刺激に対して注意が高まると考え、J.M.ピアスとG.ホールはマッキントッシュとは反対に『強化の随伴性』を期待できる条件刺激に対して注意が減少するという仮説を立てた。これらの注意にまつわる仮説は、『刺激間の連合強度』によって『注意の量』が変化することを示しており、条件刺激に対する連合強化の仕組みを説明するものである。古典的条件づけにはS-R連合に基づく反応(行動)を抑制するという意味を持つ『制止(inhibition)』という概念があるが、『制止』は条件刺激によって反応(行動)を喚起する『興奮・促進』の反対概念として理解することができる。

I.P.パヴロフは条件反射に関連する『制止』について、生理学的な反応抑制である『外制止』と学習的な反応抑制である『内制止』とに分類して考えたが、外制止の現象はいったん成立した条件反射に対して条件刺激の後に全く無関係な刺激を呈示することによって起こる。『パヴロフの犬の実験』では無条件刺激(餌)の後に条件刺激(ベルの音)を対呈示することによって条件反射を形成したが、この条件刺激(ベルの音)に全く無関係な刺激(眩しいライト・破裂音など)を呈示すると、条件反射の反応が抑制されて(制止が起こって)ベルの音に対して唾液分泌が起こりにくくなるのである。

条件づけされた行動を抑制する制止を引き起こす行為のことを『消去』と呼ぶこともあるが、『内制止』のほうは行動療法などにも応用される『消去』の手続きに近い学習メカニズムを持っている。後天的な学習によって起こる『内制止』には、『実験的制止・延滞制止・分化制止・条件性制止』の4種類があると考えられている。

A.R.ワグナーは、短期記憶と相関するプライミング(先行刺激)が条件づけに応用できると考えて『SOPモデル(standard operating procedure in memory)』『AESOPモデル(affective extension of SOP)』を提案しているが、これらのモデルは刺激表象の活性度と時間変化によって条件づけの『興奮(促進)』『制止(抑制)』が生起されるという認知的なモデルである。SOPモデルやSOPモデルに情動系の条件づけの視点を取り入れたAESOPモデルは、反応(行動)が生起する時の周辺の状況や時間的位置づけとしての『文脈(context)』を重視したモデルであり、P.C.ホランドは連合を形成する刺激や文脈効果を『機会設定子(occasion setter)』として解釈している。

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