中国(中華人民共和国)の憲法 第九条~第一二条

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中国憲法の『序言』では、中国が1840年以後の帝国主義列強による半植民地化の屈辱の歴史を、孫文の『辛亥革命(1911年)』と毛沢東・中国共産党の『共産主義革命(1949年)』によって乗り越え、中国人民が国家主権を取り戻したことが宣言されている。1949年の毛沢東の共産主義革命によって、中国人民が国家権力を掌握したとされる『中華人民共和国』が成立することになった。

社会主義によって運営される中華人民共和国では、資本家階級による労働者階級の搾取が消滅したと宣言され、人民を平等にするプロレタリアート独裁(労働者階級の独裁)が確立して生産手段が国有化された。共産主義革命は『帝国主義・封建主義・官僚主義の統治』を転覆させ、中国人民と人民解放軍は『帝国主義と覇権主義の侵略・破壊・挑発』に勝利するところとなった。

中国の全人民は社会主義と人民民主独裁制を堅持し、『マルクス・レーニン主義・毛沢東思想・トウ小平理論』を手引きとして、中国共産党の領導に従うものとする。台湾は中華人民共和国の神聖な領土の一部であり、祖国統一は中国人民の職責である。中国は全国の各民族人民が共同して創建された統一的な多民族国家である。本憲法は国家の根本法であり、最高の法的効力を有している。

ここでは、『中華人民共和国憲法(中国憲法)』の条文と解釈を示していく。

参考文献(ページ末尾のAmazonアソシエイトからご購入頂けます)
初宿正典, 辻村 みよ子『新解説世界憲法集 第2版』(三省堂),高橋和之『世界憲法集』(岩波文庫),阿部照哉, 畑博行『世界の憲法集』(有信堂)

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第九条(自然資源)

1.鉱物、水流、森林、山嶺、草原、荒地、干潟等の自然資源は、すべて国家所有、即ち、全人民所有に属する。法律が集団所有と定める森林及び山嶺、草原、荒地、干潟は除く。

2.国家は、自然資源の合理的利用を保障し、稀少な動物及び植物を保護する。いかなる組織または個人にも、いかなる手段によっても自然資源を侵占または破壊することを禁じる。

[解釈]

中国ではPM2.5などの環境汚染(越境汚染)や野生動物の乱獲などが問題視されることも多いが、憲法では鉱物、水流、森林、山嶺、草原、荒地、干潟等の自然資源・天然資源を『国有』と定めて保護・活用する原則が定められている。

ワシントン条約と同じように、中国憲法もまた稀少な動物と植物を保護する『環境保護の精神』を明確化しているのだが、実際の中国人民の環境保護意識(絶滅危惧種に対する保護の必要性の認識など)が十分に憲法に追いついていない問題がある。

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第一○条(土地)

1.都市の土地は国家所有に属する。

2.農村及び都市郊外の土地は、法律が国家所有に属すると定めている場合を除いては、集団所有に属する。建物に附着する土地及び自留地、自留山もまた集団所有に属する。

3.国家は、公共の利益の必要のために、法律の定めに従って土地に対して収用または徴用を実行し、かつ、補償を与えることができる。

4.いかなる組織または個人も、土地を侵占、売買またはその他の形式を以て違法に譲渡してはならない。土地の使用権は、法律の定めに従って譲渡することができる。

5.土地を使用する一切の組織及び個人は、土地を合理的に利用しなければならない。

[解釈]

中華人民共和国の社会主義経済制度では、法律が定める部分以外では『個人の私的所有権』が建前上は認められておらず、都市の土地は全て国家に帰属する『国有地』である。農村や都市郊外の一時的な私有が認められている土地の場合でも『私有地』ではなく『集団所有地』であると定められている。

中国では実質的に土地を私有しているような組織や個人があるとしても、法律上は『一時的な使用権』を保持しているに過ぎず、完全に個人が中国国内の土地を自分のものとして排他的・独占的に所有することはできないとされる。中国政府の土地に対する強制権力も絶大なものであり、中国政府は法律の定めに従って『公共の利益』のための必要性があれば、個人・集団の土地を収用・徴用して取り上げることが可能である。

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第一一条(非公有制経済)

1.法が定める範囲内の個人経済、私営経済等の非公有制経済は、社会主義市場経済の重要な組成部分である。

2.国家は、個人経済、私営経済等の非公有制経済の合法的権利及び利益を保護する。国家は、非公有制経済の発展を奨励し、支持し、及び導き、かつ非公有制経済に対して法により監督及び管理を実行する。

[解釈]

中国の私的所有権を否定する社会主義経済の例外として承認されているのが『非公有制経済』であり、個人経済・私営経済で個人の私的利益を追求しても良いとする経済は実質的に『資本主義経済・市場経済』とほとんど変わらないものになっている。

資本主義経済を模倣した非公有制経済は、中国共産党の指導や中国国内法の影響を受けるという意味では『政治的リスク』を内包しているともいえるが、トウ小平の改革開放路線における『社会主義市場経済』の実際的な成果として評価することができるだろう。

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第一二条(公共財産)

1.社会主義の公共財産は、神聖にして侵すことのできないものである。

2.国家は、社会主義の公共財産を保護する。いかなる組織または個人にも、いかなる手段によっても国家及び集団の財産を侵占、または破壊することを禁じる。

[解釈]

中国の社会主義の公共財産の『神聖性・不可侵性』が述べられている条文であり、国家・集団が共有している財産を略奪したり破壊したりすることが厳しく禁止されている。この社会主義の公共財産という概念には、『中国共産党の一党独裁体制』という社会主義の集団指導体制の仕組みが織り込まれているといった解釈も成り立つのかもしれない。

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