自律神経失調症はなぜ現代医学でも原因がほとんど分からないのか?:要素還元的な西洋医学の盲点
自律神経系のバランスを崩して交感神経を興奮させる現代人に多い生活習慣(ライフスタイル)
自律神経失調症は、交感神経と副交感神経の働きのバランスが崩れることによって、身体・精神に多種多様なつらい不調および症状が現れる病気の総称です。自律神経のバランスが崩れると、心身のホメオスタシス(生体恒常性)が損なわれて、今までの不調・苦痛・つらさがなかった一定の健康な心身状態(安定した心身状態)を維持することができなくなってしまいます。
現代の医療や検査技術では『自律神経系・筋肉系(身体全体のバランス)の異常・歪み・乱れ』を血液検査・MRIの画像診断などで確認することはできないので、つらい身体症状を訴えて病院(クリニック)に行っても『異常なし=不定愁訴・更年期障害・ストレス反応(心因性の不調)』として片付けられやすいのです。
自律神経失調症は『原因が特定できない身体・精神の不調(あちこちに転換しやすいつらい症状)』なのですが、医学的には医学的検査で異常が確認できない『不定愁訴・更年期障害・ホルモンバランスの崩れ』などで簡単に片付けられやすく、色々な診療科で症状を相談する『ドクターショッピング』をしても実際のつらい症状は治らないことが多いのも厳しい現実としてあります。
それでは、『不定愁訴(自律神経失調症)で医学で特定可能な病気ではないから』という理由で半分匙(さじ)を投げざるをえない内科・整形外科・循環器科・呼吸器科の医師がいうように、自律神経失調症は『心の問題・気持ちの持ちよう・ストレスの影響』で理解することができるのかといえばそうでもありません。精神科・心療内科で抗不安薬や睡眠薬を処方してもらえば、実際に感じている身体症状・全般的な不調が治るのかというと、多くの場合は一時的に症状が軽くなってもそれだけでは治らないわけです。
多くの自律神経失調症の原因は『完全な心因性(全てがストレスの影響)』とはいえないからで、『身体の歪みやこり(血流障害)・不摂生な生活習慣の積み重ね』などの要因も総合的に考えながら、薬に頼るだけではなく自助努力も含めた『身体と生活習慣の改善・リラックスとストレッチによる静養・東洋医学でいう養生』なども必要になってくるからです。
西洋医学は人間の身体を内臓器官・脳・血管(血液)・筋肉・神経などバラバラに分解してその特徴・機能・病気(病態)・治療法を調べる『要素還元的(部分的)な方法論』で成り立っているため、身体を分解した場合のそれぞれの器官を詳しく検査してみて『異常』が見つからなければ『正常=病気ではない』と判断します。
現代医療は更に細分化・専門化(専門医認定資格)が進んでいて、『自分の専門の診療科以外の不調・異常についてはよく分からずはっきりした事は言えない』ということで、違う診療科の医師に紹介状を書くということになり、医学的検査で原因が見つからない自律神経失調症のような慢性的不調は、結局、色々な病院・診療科をタライ回しにされやすいのです。全身の各部分の検査をしてみたけれど何の異常も見つからず(医学的検査をしっかりして重大な病気を早期発見して治療できるので現代医療・検査そのものが無意味なわけではありませんが、全身的・慢性的な病気ではないつらさや痛み、不調には効果が薄いのです)、つらい症状は変わらないということが多いのです。
医学的な検査によって病気の原因や悪い部分を特定することができず、身体の色々な部分に症状が現れたり消えたりするのが、不定愁訴と見なされやすい『自律神経失調症』の特徴ですが、自律神経失調症は『医学的な病気・病名』というよりは『自律神経系を中核とした全身(心身)のバランスの崩れとして現れる不調・痛み(つらさ)』なのです。
科学的根拠・客観的態度を極端に絶対視している専門分化した医師の中には、自律神経失調症を『医学上の病気ではない不定愁訴だから大したことがない』ように雑に扱う人がいたり、一般社会でも『病院で検査をして原因がないなら気持ちの問題であり虚弱体質・仮病に近いものに過ぎない』として冷たくあしらう人もいます。しかし、自律神経失調症は『原因・治療法を特定できる医学上の病気ではない』というだけで、主観的な症状(不調)のつらさ・苦痛は『病気と同等以上のもの(重症化すればだるさ・筋肉のこり・抑うつ・パニック・息苦しさなどで容易に起き上がれなくなる恐れもある)』であることが多く、医師にも周囲の人にも理解してもらえないことが余計につらく感じてしまうのです。
自律神経失調症の代表的な身体面の症状には以下のようなものがあり、医学的検査を色々な診療科で詳しく受けて薬物治療をしてもなお、以下のような症状が治らず原因も分からないまま『長期的かつ慢性的』に続いている場合には、自律神経失調症の可能性が高いといえるでしょう。
自律神経失調症は実にさまざまな症状・不調を含んでいて、精神医学の診断基準に照らせば『うつ病(気分障害)・双極性障害・解離性障害・パニック障害・全般性不安障害・心身症の身体疾患(胃潰瘍など)・社会不安障害(対人恐怖症)・身体表現性障害・転換性障害』などの診断を受けることも多くなります。しかし、ある程度の期間にわたって薬物療法・心理療法(カウンセリング)をしてもまったく効果がなかったり、ストレス・心理的原因にまったく心当たりがなくて『身体症状・体のつらさ』のほうが精神症状よりも強く意識される場合には、自律神経失調症の可能性も念頭に置いて、生活習慣を改善しながら全身を調整するアプローチが望ましいこともあると思います。
自律神経失調症を改善していくためには『自律神経系のバランス』や『心身の全体的な状態』を客観的に観察して対処していく必要があるのですが、細分化・専門化が進んだ現代医学では『ホリスティック医学(全体性医学)・東洋医学(中医学・漢方)』にも熱心に取り組んでいるような医師でないと適切な対処をすることが難しいのです。何より忘れてはならないのは、脳・肺・骨・胃腸などの器質的原因が検査でどうやっても見つからない自律神経失調症を最終的に治せるのは、医師や専門家、施術者(整体師・マッサージ師・鍼灸師など)、カウンセラー、薬剤師などではなく『自分自身』であるということでしょう。
自律神経失調症は自分自身でしか最終的に治せないという意味は、生活習慣(食事・運動・睡眠)の改善をしたりストレスの受け止め方(認知)を変えたりできるのは、自分の自助努力だけである(健康的な生活習慣・姿勢・ストレス対処は自分が変わらないとできない)ということなのです。医師をはじめとするいろいろな専門家は、確かに症状のつらさを和らげるための薬を処方してくれたり、こわばった身体やこころをほぐしてくれたり、自律神経系と身体の異常との相関を説明してくれたりと、『自律神経失調症を改善させるためのヒントやきっかけ』はくれますが、最後には自分自身で自分の心身をメンテナンスして健康な状態へと整え直していかないといけません。
自律神経失調症の症状の多くは『交感神経の過剰あるいは長期(慢性)の興奮』と『交感神経興奮による筋肉の異常なこわばり・硬直感』によって引き起こされると推測されています。自律神経失調症の代表的な症状である『めまい・フラフラ感・気分の悪さ・吐き気・胃腸の悪さ(胃痛・便秘)・パニック(息苦しさ)』が起こる前の前兆的な状態として『背中の異常なコリや痛み(肩こり・首こりと連動した背中の固さ)・身体全体の固さと動かしにくさ』が多いのです。そしてこの『背中・首・肩のこわばり(身体全体の固さ・つっぱり感・動かしにくさ)』こそが交感神経が過剰・長期に興奮していることの現れだとも言えます。
予期することなく突然自律神経失調症のようなつらい状態になって途方に暮れている人は、元々は『身体の不調を頻繁に訴える弱気で虚弱なタイプ(抑うつ的なタイプ)』ではなく『元気旺盛で積極的に動くエネルギッシュなタイプ(躁的なタイプ)』が多いとも言われます。
四六時中、自分でも気づかないうちに交感神経をギリギリまで興奮させて、疲労も眠気も痛みも忘れるほど『ハイな気分(交感神経の最大限の興奮状態)』になって、仕事に趣味に遊びにと精力的に飛び回っているような人が、ある日突然『身体全体の固さ・背中のこわばり』を何となく感じ始めて調子がいまいちだなと思ったら、めまいやパニック、吐き気、胃痛、手足のこわばり、下痢・便秘といった自律神経失調症の症状に襲われてダウンしてしまうようなケース(つらい身体症状が長引けば当然気力も落ちてそれまでハイだった人が嘘のように抑うつ的で無口になってしまいがちです)が多いのです。
自分は体力も気力もあって誰にも負けないほど元気なはずなのに何でこんな症状が出るんだと悔しい思いをしている人もいるでしょうし、今まではどんなに疲労やストレスが溜まっても『気力・体力・根性(ガッツ)』で乗り切れたのに何で今回だけはどうやってもこのつらくて苦しい症状が無くならないんだと嘆いている人もいると思います。あるいは、別に自分は交感神経をそこまで酷使して過剰に興奮していたつもりがないのに、何でこんな奇妙な自律神経失調症になってしまったんだと納得いかない人もいるでしょう。
しかし現代人の『平均的なライフスタイル』には、いつ誰が自律神経失調症になってもおかしくない自律神経系と相関する健康状態を悪化させる要素がたくさん潜在しているので、『当たり前に思える普通の生活習慣・普通の働き方・人並みの余暇の過ごし方』をしていても、知らず知らずのうちに交感神経(要所要所の筋肉)が過剰かつ長期に興奮しやすい状態になっているということなのです。普通に生活していれば、抑制的な副交感神経より興奮的な交感神経のほうが働きやすい環境・状況・気分が多くなるようになっているのが現代であり、自律神経失調症は『現代病』としての側面が強いものであると言えるでしょう。
そんなはずはない、自分は自律神経系のバランスを崩したり交感神経だけを興奮させるようなライフスタイルではないと思う人もいるでしょうが、『現代のライフスタイル』としては一般的な次のポイントがあるかないかをチェックしてみてください。きっと誰もがいくつかは『自律神経失調症の間接的な原因』になることのある生活習慣を自然に続けていることに気づくでしょう。
自律神経失調症の間接的な原因(交感神経を刺激して過剰・長期に興奮させる原因)になりやすい現代のライフスタイルには、以下のようなものがあります。
これらの現代人には珍しくないライフスタイルはすべて交感神経を過剰あるいは長期に興奮させるリスクがあるもので、交感神経が興奮しすぎると筋肉がこわばって固くなってきて、そういった筋肉がこわばる硬直状態が長く続くと『元の柔軟な筋肉の状態』には戻りにくくなってしまいます。筋肉のこわばり・固さは特に『背中』と『首・肩』に出やすいので、筋肉関連の目立つ症状を出す自律神経失調症の一つとして『スマホ症候群・VDT症候群(視覚的なデジタル端末症候群)・頸肩腕症候群・頸性神経筋症候群』などがあるわけです。
交感神経が興奮しすぎると(徹夜などで夜遅くまで起きていることも交感神経を刺激するので)『胃酸』が大量に分泌されるので、『胃炎・胃潰瘍・十二指腸潰瘍』の心身症が発症しやすくなりますが、そこまでいかないケースでは『胃腸の慢性的な不調・痛み・もたれ(消化不良)』といった自律神経失調症的な不定愁訴になってきます。胃から食べ物が運ばれてくる『小腸・大腸』といった器官は副交感神経によって活動性が促進されるので、交感神経が過剰に働きすぎている状態では、小腸・大腸はあまり動かず『栄養が吸収されにくい・排便が起こりにくい便秘』といった症状が出やすくなります。
背中や肩ががちがちに硬くなって痛みや息苦しさ(パニック的な呼吸困難感)が出てきたり、胃腸の調子が完全におかしくなって痛みが出てきたり、頭がぼんやりしたりフラフラしたりして気分が悪くなったりする(頸部分のこわばりで脳への血流量が減少したりする)自律神経失調症では、その前段階として『異常にハイで活動的な時期』があったりもします。
しかし自律神経失調症が発症しやすい状態になっている時の特徴として、気分がハイで身体は元気、食欲も旺盛だけれど『たくさん食べたはずの物が身につかない(食べても筋肉・脂肪・体重にならない)』ということがあります。交感神経ばかり興奮して副交感神経があまり働いていないので、『小腸の栄養吸収機能・大腸の排便機能』が低下してしまっており、運動して鍛えても筋肉がつかなかったり(鍛えても逆に筋肉ががちがちにこわばって痛くなるだけ)、たくさん食べていても体重が増えずに逆に痩せたりするのです。
自律神経失調の原因は『交感神経を過剰・長期に興奮させる生活習慣とストレスの積み重ね』ですが、交感神経が過剰に興奮しているような時は『軽い痛み・疲れ・不調』を気合と勢いで乗り越えられるくらいにハイテンションになっているので、なかなか自律神経系のバランスの崩れの兆候(身体全体のこわばり始め)に気づくことができず、気づいた時には簡単には治せないほどのきつい症状になっていることが多いのです。
交感神経を過剰・長期に興奮させてハイテンションで元気な人が、いったん身体の限界のキャパシティを超えてしまうと、『限界まで緊張を続けていた神経・筋肉』が慢性的な不定愁訴となる身体各部でのつらくて苦しいさまざまな症状(めまい・フラフラ・吐き気・パニック・息苦しさ・胃痛・便秘・背中や肩の痛み・手足の違和感など)を生み出してしまいます。ですから自律神経失調症を確実に治すという方法論でいえば、普段から元気でハイな活動的な人ほど『自分の身体・精神の限界』を知らないうちに超えないようにすること、セルフチェックと生活習慣の見直し・立て直しをして、交感神経の興奮をあまり長期に長引かせないようにして自律神経失調症を予防することなのです。
自律神経失調症の治し方の詳細については論じきれていませんが、自律神経失調症が発症する原因と仕組みは『交感神経(背中の筋肉)を過剰・長期に興奮(硬直)させる現代的な生活習慣とストレスの積み重ね』にありますから、まずは上記した交感神経を興奮させる生活習慣の一つ一つを意識して改善したりやめたりすることから始めてみてほしいと思います。
もちろん、医療やお薬、整形外科のリハビリ、整体、鍼灸、マッサージ、カウンセリングなども自律神経失調症のつらい症状を和らげる一助にはなりますが、最終的かつ本格的に治そうとするのであれば『健康的な生活習慣の再構築』と『精神的ストレス・肉体的疲労の軽減(認知行動療法的な対処も含め)』こそが何より大切になってきますし、それらがなければ一時的に良くなってもまたいつか自律神経失調症の不定愁訴的な症状が再発するリスクが高いのです。
毎日早寝早起きをする快適な睡眠環境を整えるとか、スマホやパソコンを固定された姿勢で長時間使用しない(特に深夜にはできるだけ画面を見ないようにして早寝する)とか、長時間労働や過度の緊張の持続を避けるとか、定期的な運動をして特にストレッチやヨガで身体各部を柔らかく保つとか、リラクセーションや瞑想をできる時間を見つけるとか、お腹が空いてから腹7~8分目の適量の食事を摂るとか、脂っこいものや刺激物を食べ過ぎないようにするとか、コーヒーやお茶のカフェインの摂取を控えるとか、不規則な間食をせず甘いものを食べ過ぎないとかいう、『当たり前と思えて実際にはできていない健康的な生活習慣の積み重ね』こそが、自律神経失調症を本質的に改善していくためのきっかけになりやすいのです。
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