漢方の食養生と『五味五性』についての説明
漢方の食養生の基本的な考え方と『舌診』
漢方薬・養生学についての解説では、心身の全体のバランスを調えるための『養生』をすることによって、『自然治癒力・自己免疫力』を高めることができると説明しました。漢方の養生学の中心にあるものが『食養生』であり、食養生とは『自分の体質・体調・症状に合わせた毎日の食事』を工夫することによって、心身のバランスを調整して、健康を維持しようと(病気を予防したり軽快させようと)するものです。食養生とは簡単に言えば、その人の体質・体調に合わせた健康的な食事を習慣的に行うことによって、『健康維持・病気予防のための体質改善』を図ろうとするものなのです。
漢方では食べ物の味覚とその性質(性格)について、『五味五性(ごみごせい)』という概念を用いて整理しています。『五味』というのは、以下の5つの食べ物の味覚(味)と働きのことを指しています。
『五性』というのは、食べ物が持つ以下の5つの特徴のことである。
漢方は西洋医学のように病気を『薬の成分・作用』だけで治すものではなく、『食生活を含む生活習慣』を改善していくことによって、病気を治癒したり予防したりできる『体質改善』を図ろうとするものです。漢方の基盤には『陰陽五行説』の自然哲学的な調和(バランス)があり、健康的な生活習慣・食習慣の積み重ねによって心身のバランスを維持・回復するという『養生学(ようじょうがく)』が治療原理になっているのです。
漢方における体質改善の治療原理は、『食事・睡眠・運動・精神状態・生活習慣』をまずバランスの良い状態に整えてから漢方薬の処方をしていくという『一に養生・二に漢方』の考えに根ざしています。食養生の基本的な考え方は、体質・体調・状態をしっかりと観察して『身体に足りないものを補う+身体に過剰なものを排出する』というものであり、『五味五性に基づく食材の分類』を参考にしながらその人の今の体調にとって最も望ましい食事のメニューを考えていきます。
『五味五性に基づく食材の分類』について、代表的な食材を示すと以下のようなものになります。
酸+温熱性……酢・桃・あんずなど
酸+涼性寒性……トマト・みかん・ゆず・キウイフルーツなど
酸+平性……イチゴ・ブドウ・梅・すももなど
苦+温熱性……陳皮など
苦+涼性寒性……緑茶・ゴーヤ・セロリなど
苦+平性……銀杏など
甘+温熱性……かぼちゃ・もち米・鮭・ナツメ・栗・クルミ・鶏肉・アルコール類など
甘+涼性寒性……大麦・小麦・ハト麦・豆腐・蕎麦(そば)・りんご・スイカ・きゅうり・ナス・バナナ・柿・ほうれん草など
甘+平性……玄米・大豆・黒豆・小豆・じゃがいも・ごま・人参・キャベツ・白菜・とうもろこし・椎茸・ウナギ・牛肉・豚肉・牛乳・クコの実・ハチミツなど
辛+温熱性……玉ねぎ・ニラ・ネギ・ラッキョウ・こしょう・にんにく・唐辛子など
辛+涼性寒性……大根など
辛+平性……春菊・里芋など
鹹+温熱性……ナマコ・クラゲ・味噌など
鹹+涼性寒性……ワカメ・海苔・昆布・アサリ・シジミ・ハマグリ・カニ・ひじき・醤油・塩など
鹹+平性……牡蠣(かき)・イカなど
漢方の『食養生』における基本的な考え方についてまとめると以下のような感じになるでしょう。
○少数の食材に偏らずに、色々な種類の食材を『一食』の中に取り入れる。
○白米より雑穀米が良く、白砂糖より黒砂糖が良いというように『未精製な食材』のほうが健康に良い。
○秋・冬の寒い時には身体が温まる『熱性・温性の食材』を意識的に食べるようにする。
○『添加物・化学調味料・原材料が不明な加工食品の類』はできるだけ避けるようにする。
○腹七分目を心がけ、良く何回も噛んでから食べるようにする。
○食事の時間・回数を決め『間食・夜食』はできるだけやめて、規則正しい食生活を送るようにする。
○油ものと甘いものを一緒に食べないようにする。
○『地産地消』でその土地で採れた食材を食べ、できるだけ『旬の食材』を食事の中に取り入れるようにする。
漢方ではその人の体質・体調を見て健康状態を判断するために、顔色・姿勢などを丁寧に観察していきますが、この目で見て診断する方法を『望診(ぼうしん)』といいます。漢方の望診の中でも特に重視されているものに舌を観察する『舌診(ぜっしん)』と呼ばれるものがあります。
舌診では、舌に白くて薄い舌苔(ぜったい)があり、赤くなりすぎていないピンクの舌質が見えている状態、更に舌の動きも滑らかであれば『健康な舌の状態』であると判断されます。漢方の舌診で患者の舌を見る時には、以下のようなポイントがあります。
○舌の色
薄い……貧血か疲れが蓄積していて胃腸の調子も悪い。
濃い……血行が悪くて熱がこもっている。
○舌の形
薄くて小さい……血液・水分が不足しがちでエネルギーが足りない感じがある。
大きめ……新陳代謝が悪くて疲れやすい、胃腸の調子もいまいちである。
歯型がついている……食欲不振で水分代謝が落ちており、胃腸の調子も悪い。
○舌苔の色
白色……冷え性の傾向があり、寒がりで手足が冷たくなりやすい。
黄色い……身体に熱がこもっていて暑がり、便秘・発疹・のぼせを伴いやすい。
○舌苔の厚さ
厚い……水分代謝がいまいちで、身体のだるさや億劫感が残っている。
ほとんど無い……身体に必要な水分・血液が不足しており、疲れが溜まっている。
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