『徒然草』の117段~120段の現代語訳

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兼好法師(吉田兼好)が鎌倉時代末期(14世紀前半)に書いた『徒然草(つれづれぐさ)』の古文と現代語訳(意訳)を掲載して、簡単な解説を付け加えていきます。吉田兼好の生没年は定かではなく、概ね弘安6年(1283年)頃~文和元年/正平7年(1352年)頃ではないかと諸文献から推測されています。

『徒然草』は日本文学を代表する随筆集(エッセイ)であり、さまざまなテーマについて兼好法師の自由闊達な思索・述懐・感慨が加えられています。万物は留まることなく移りゆくという仏教的な無常観を前提とした『隠者文学・隠棲文学』の一つとされています。『徒然草』の117段~120段が、このページによって解説されています。

参考文献
西尾実・安良岡康作『新訂 徒然草』(岩波文庫),『徒然草』(角川ソフィア文庫・ビギナーズクラシック),三木紀人『徒然草 1~4』(講談社学術文庫)

[古文]

第117段:友とするに悪き者、七つあり。一つには、高く、やんごとなき人。二つには、若き人。三つには、病なく、身強き人。四つには、酒を好む人。五つには、たけく、勇める兵。六つには、虚言する人。七つには、欲深き人。

よき友、三つあり。一つには、物くるる友。二つには医師。三つには、知恵ある友。

[現代語訳]

友とするのに悪い者には、七つの人がある。一つ目は、身分が高くて高貴過ぎる人。二つ目は、若い人。三つ目は、病気知らずで身体が強い人。四つ目は、酒を好む人。五つ目は、気が荒くて勇敢な兵士。六つ目は、嘘つきな人。七つ目は、欲深い人である。

良き友には、三つの人がある。一つ目は、物をくれる友。二つ目は、医師の友人。三つ目は、知恵のある友である。

[古文]

第118段:鯉の羹食ひたる日は、鬢そそけずとなん。膠にも作るものなれば、粘りたるものにこそ。

鯉ばかりこそ、御前にても切らるるものなれば、やんごとなき魚なり。鳥には雉、さうなきものなり。雉・松茸などは、御湯殿の上に懸りたるも苦しからず。その外は、心うき事なり。中宮の御方の御湯殿の上の黒み棚に雁の見えつるを、北山入道殿の御覧じて、帰らせ給ひて、やがて、御文にて、「かやうなもの、さながら、その姿にて御棚にゐて候ひし事、見慣はず、さまあしき事なり。はかばかしき人のさふらはぬ故にこそ」など申されたりけり。

[現代語訳]

鯉料理(鯉の吸い物)を食った日は、髪がばらけにくいと言う。ニカワの材料にもなるので、粘りがつくのだろうか。

鯉というのは、天皇の御前でもさばかれる尊い魚でもある。鳥なら雉で、他に並ぶべき物はない。雉や松茸などは、御湯殿へと続く棚の上に置かれていても見苦しくはない。その他の食材は、(天皇の目に触れさせるのは)悩ましいものばかりである。

中宮の御所で、御湯殿の黒御棚に雁が見えていた。それを北山入道様が御覧になられて、自邸に帰った後にやがてお手紙で、『雁のような鳥をそのままの姿で棚においていらっしゃるのは、見慣れないことで、体裁が悪い事でございます。しっかりとした見識のある人がお側に仕えていないからでしょうか』などと申されていたという。

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[古文]

第119段:鎌倉の海に、鰹と言ふ魚は、かの境ひには、さうなきものにて、この比もてなすものなり。それも、鎌倉の年寄の申し侍りしは、「この魚、己れら若かりし世までは、はかばかしき人の前へ出づる事侍らざりき。頭は、下部も食はず、切りて捨て侍りしものなり」と申しき。

かやうの物も、世の末になれば、上ざままでも入りたつわざにこそ候れ。

[現代語訳]

鎌倉の海で獲れるカツオという魚は、鎌倉辺りでは並ぶ物のない良いものだとして、もてはやされている魚だ。そのカツオは、鎌倉の老人が申し上げるには、『この魚は、わしらが若かった時分には、身分のある人が食べる物じゃありませんでした。カツオの頭など、手下どもでも食べずに切って捨てていたものです』という。

こんなものでも、世も末ならば、身分のある人の食卓にまで入り込んでくるようでございます。

[古文]

第120段:唐の物は、薬の外は、みななくとも事欠くまじ。書どもは、この国に多く広まりぬれば、書きも写してん。唐土船(もろこしぶね)の、たやすからぬ道に、無用の物どものみ取り積みて、所狭く渡しもて来る、いと愚かなり。

『遠き物を宝とせず』とも、また、『得難き貨を貴まず(とうとまず)』とも、文にも侍るとかや。

[現代語訳]

中国からの舶来品(輸入品)は、薬の他はなくても困らない物ばかりである。書物なども、もう充分にこの国に広まっており、もう書き写すだけで良くなっている。中国の貿易船が、たやすくはない遠い道のりを、無用の物ばかり所狭しと積み込んでやって来るのは、非常に愚かしいことである。

『遠い国の物を宝にするな』とも、『手に入りにくい宝物を貴ぶな』とも、中国の賢人の書物には書いてあるとか。

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