2007年2月の時点で、トヨタやメガバンクなど大企業を中心に日本の景気は回復基調を持続しており、高校・大学の新卒者の雇用環境も大幅に改善して、学生が企業を選ぶ『売り手市場』の様相を呈してきています。バブルにも似た好景気に湧く中国市場の需要拡大を受けて、高度成長期の日本を支えた鉄鋼・造船・機械といった旧産業も暫時的な復興の兆しを見せ、第二次産業分野で働く人たちにも景気回復の余波が訪れています。
その一方で、就職氷河期に新卒採用期を迎えた人や就職した会社をすぐに辞めてしまった人、フリーターを続けている人、35歳以上になり年齢が高くなった人などの場合には、正社員として働きたくても雇用の需要がないという厳しい現実があります。正規雇用と非正規雇用、大企業と中小零細企業、民間と公務員、専門職と非専門職、有資格者と無資格者など様々な属性や要因によって、所得格差(生涯賃金格差)や社会保障の格差が大きく開いてきており格差問題も注目を集めています。
今の日本が、戦後最長の『いざなぎ景気(1965-70年)』を越える記録的な好景気にあるといっても、好景気を牽引しているのは東証一部に上場している一部の高収益体質の大企業だけであり、多くの中小零細企業は自由市場における競争力を失って業績も低迷を続けています。端的には、今の景気拡大局面を支えているのは円安と輸出関連産業であり、国内需要(国内消費)は依然として大幅な回復を見せておらず、多数派の中堅サラリーマンやフリーター・パートの給与は増大していない状況にあります。
企業部門では史上最高益を出した優良企業も多くあるのですが、それらの企業は、海外に付加価値の高い商品を輸出して外貨によって莫大な利益を上げたり、正規雇用を削って非正規雇用を増やすことで人件費の大幅なコスト削減をしたりしています。つまり、高収益体質を誇る優良企業で、株価の上昇を持続している企業であっても、日本国内の個人消費の拡大によって利益を得ているわけではなく、景気が良いからといって雇用情勢の回復に大きく貢献しているわけではないのです。経済が成長する好景気が継続すれば、全ての国民の家計部門が潤うという『一億総中流社会』は過去のものとなりつつあり、好景気を生活実感として深く感じられる層と景気に関わらず家計が苦しいという層が分化している傾向があります。
史上最長と言われる好景気の恩恵を『給与・賞与の昇給』で実感しているのは、大企業(大銀行)に勤める一部のサラリーマンや銀行マンだけであり、株式・証券市場の好況によって大きな利益を上げているのは、目端の利くファンドや資金力のある機関投資家、情報収集力に優れた投資家だけとも言われます。また、現在進行中の景気回復局面は、『史上最長』ではあっても『史上最大』ではないという点にも注意が必要です。いざなぎ景気の時には経済成長率が年に11.3%、バブル景気の時には年に5.1%あったのですが、現在の平成景気は年に2.0%前後の成長率しかなく、経済が成長している期間は長くても、経済のパイ(GDP:国内総生産)はそれほど大きく増えていないのです。
景気回復と経済成長が持続しても、自分自身の所得や貯蓄が増えないという悩みを抱えている人も増えており、それが老後の将来不安を醸成して国内需要につながるはずの消費マインドを冷え込ませています。かつて日本型経営の雇用慣行であった終身雇用制や年功序列賃金が公務員を除いて崩壊しつつあり、一つの会社で真面目に35年間勤め上げれば老後も安泰という保障も失われつつあります。
昨年、北海道の夕張市が財政破綻して、財政再建団体に指定される運びとなっていますが、国家と地方自治体を合わせて総計1,000兆円近い累積赤字(累積債務)を抱え込んでおり、これから先数十年後に国民の老後の生活をしっかり守ってくれるのか分からない危機的状況にあります。若年層の経済格差とも関係した非婚化・晩婚化が進み、少子高齢化が急速に進展する社会状況の中で、現役世代が老齢世代を支える『賦課方式の公的年金制度』が維持できるかどうかは不透明な状況です。
高齢化社会では医療・介護負担も増大し、医療財源の確保も重要な課題となってきますが、一部では混合診療の導入を求める議論が起こっており、近い将来には公的健康保険ではカバーできない自己負担の治療法・薬剤が増えてくるかもしれません。国民健康保険は長きに渡って日本の皆保険制度を維持して『全ての人が安価な医療を受ける権利』を保障してきましたが、自己負担の医療が増えてくると『民間の医療保険』に加入して自己責任で自分の医療機会を確保する必要が出てくるでしょう。民間の医療保険に加入したり、全額自己負担の費用を賄ったりする経済力がない人は、病気を治療するために必要な医療を受けるのが困難な時代が来ないことを願いますが、その為には、増大し続ける医療財源が枯渇しないような政治と行政、民間の智慧が必要になると思います。
生きがいを感じることができ他人を優しく思いやれる“心豊かな人生”を歩む為には、『精神的な成熟と健康』だけではなくて、未来を肯定的に認知できる『経済的な安定と成長』が必要になってきます。具体的には、自分の価値判断や将来予測に見合ったライフプラン(人生計画)を立てて、そのライフプランの実現に必要なお金を『所得・貯蓄・投資』によって準備していかなければなりません。漠然としたライフプランは『高卒で就職するのか?大学に進学してから就職するのか?』を考える高校生くらいから始まりますが、真剣に自分の人生をどのように生きていこうかと考え、自分の所得水準に合わせたライフプランと資産形成を計画し始めるのは社会人になってから(会社に就職してから)という人が多いでしょう。
人生を意欲的に生き抜く為に一番大切なものは『生きる目的・生きる欲求・生きる楽しみ』であり、人生を生きる意味を肯定的に考えることのできる『自分なりの目的(楽しみ)』を見つけることでライフプラン(life plan)の骨格を構築することが出来ます。自分にとっての生きる目的の中心が、仕事の成功であってもいいし、家族の幸福であってもいいし、趣味の充実であってもいいのですが、『幸福を実感する為のライフプラン』を実現する為には『心身の健康』と『お金の管理』の両立が欠かせません。
自分の所得水準・ライフプラン・ライフスタイルに合わせた資産運用(お金の管理計画)のことをファイナンシャルプランといいますが、ここでは堅実なファイナンシャルプランに役立つ『お金の基礎知識(金融商品と投資・貯蓄・税金・金融)』についてまとめたいと思います。堅実で効率的なファイナンシャルプランの原則はシンプルなものであり、『必要な時期に必要なだけのお金を準備できること』と『家計の収支で収入を支出よりも絶えず多くすること』です。
この二点を人生の大部分にわたって守り抜くことができれば、公的年金や個人年金と合わせて『老後の生活資金』を賄う程度の資産形成に成功する可能性が高くなり、老齢期に至るまでの経済生活もそれなりに楽しく送ることができるのではないかと思います。個人のファイナンシャルプランの目標は、人生の各ライフステージを十分に楽しむだけの余剰資金を準備することであり、老後に困らない程度の貯蓄や保障(資産)を形成することだといえます。