アメリカの憲法 第一条 合衆国議会 第6節〜第8節

アメリカ合衆国は、『北米植民地』としての従属的地位(英国を富ませるための通商・課税)を求めるイギリス本国に対抗して、『アメリカ独立戦争(アメリカ革命戦争,1775〜1781)』を戦った。イギリスとの独立戦争が続いていた1776年7月4日、トマス・ジェファーソンやベンジャミン・フランクリン、ジョン・アダムズらに代表される建国の父祖たちは『アメリカ独立宣言』を発表する。大英帝国の植民地政策の暴政・搾取から離脱して、生まれながらに自由で平等なアメリカ国民が主権を持つ新たな連邦国家(独立13州)が誕生したと高らかに宣言した。

1781年にヨークタウンで英軍が降伏して、独立戦争におけるアメリカの勝利が確定し、1783年の『パリ講和条約』によって国際的にアメリカ合衆国の連邦国家としての独立が認められた。1787年9月17日に、従前の13州連合規約に代わる中央集権的な『アメリカ合衆国憲法(1787年合衆国憲法)』が完成することになり1788年6月21日に発効した。実際の憲法の効力が合衆国の政治に及び始めたのは1789年3月4日だとされるが、1789年は初代大統領のジョージ・ワシントンが誕生した年でもある。

アメリカの『1787年合衆国憲法』は世界最古の成文憲法であり、トマス・ホッブズの社会契約論、ジョン・アダムズの自由主義、ジャン・ジャック・ルソーの民主主義の近代啓蒙思想の影響を受けた共和制・連邦制の先進的な憲法(国王の専制権力を排除した憲法)でもあった。アメリカは当時としては最先端の珍しい自由民主主義国家としてその歴史をスタートさせ、合衆国政府の存在意義は『アメリカ国民の人権の保障』に置かれた。その一方で、アフリカ大陸から強制的に連れてこられた黒人奴隷や北米大陸の原住民だったネイティブ・アメリカン(インディアン)の人権が長らく侵害され続けたという『合衆国憲法と矛盾する差別・人権侵害の歴史』も抱えている。

ここでは、『アメリカ合衆国憲法』の条文と解釈を示していく。

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初宿正典, 辻村 みよ子『新解説世界憲法集 第2版』(三省堂),高橋和之『世界憲法集』(岩波文庫),阿部照哉, 畑博行『世界の憲法集』(有信堂)

合衆国憲法第一条

第六節(議員の特権・議員の兼職禁止)

1.上院議員及び下院議員は、法律の定める所により、合衆国の国庫からその職務に対する報酬を受ける。両議院の議員は、反逆罪、重罪及び平穏を乱す罪による場合を除くほか、如何なる場合も会期中の議院に出席している時及びその往復の途上において逮捕されない特権を有する。また議院で行った発言または討論について、院外でその責任を問われない。

2.上院議員及び下院議員は、その任期中に創設され、またはその報酬が増額された合衆国の文官職に、当該任期中において任命されることはできない。合衆国の公職にある者は、何人もその在任中にいずれの議院の議員になることもできない。

[解釈]

アメリカ合衆国の両院議員には、会期中とその往復の行程における『不逮捕特権』が与えられており、『反逆罪・殺人罪などの重罪・外患誘致罪・内乱扇動罪』などの重大な罪を犯さない限りは議会の会期中に逮捕されることはない。議院内部で行ったいかなる発言も討論も、その内容によって罪に問われることもないと憲法が保障している。

両院議員はアメリカ合衆国の官僚(文官)と兼任することができず、反対に合衆国の公職に就いている人物は両院議員になることができないという『兼任禁止規程』が置かれている。

合衆国憲法第一条

第七節(合衆国議会の議事手続き)

1.歳入の徴収に関する法案は、すべて下院において先に審議されなければならない。ただし、上院はその他の法案の場合と同様に、これに対する修正を提案し、または修正を付して同意することができる。

2.下院及び上院で可決された法案は、法律として成立する前に、すべて合衆国大統領に送付されなければならない。大統領は、法案を承認する時は、これに署名する。承認しない時は、異議を付して、これを先に審議した議院に返付する。返付された議院は、異議のすべてを議事録に記載して、その法案を再議に付す。再議の結果、その議院の3分の2の多数により当該法案を可決した時は、大統領の異議を付して、これを他の議院に送付する。他の議院により、同様に再議されその3分の2の多数により可決された時は、その法案は法律として成立する。ただし、この場合にはすべて、両議院における表決は、点呼による賛否の表明によって行われ、法案に賛成した者及び反対した者の名前を、各議院の議事録に記載しなければならない。法案が大統領に送付されてから10日以内に(日曜日を除く)返付されない時は、大統領がこれに署名した時と同様に法律として成立する。ただし、合衆国議会が閉会のために返付できない場合には、法案は法律としては成立しない。

3.上院及び下院の同意を要する命令、決議または表決(休会に関する案件を除く)は、すべて合衆国大統領に送付され、大統領の承認を得て、その効力を生じる。大統領が承認しない時は、法案の場合について定められた規律及び制限に従って、上院及び下院の3分の2の多数により再び可決されなければならない。

[解釈]

合衆国議会では、予算案の審議において『下院の優先審議権』が定められている。議会に提出された法案(法律案)が、実際に効力を発揮する法律として成立するまでの『議事手続きのプロセス+大統領の署名権限』をまとめた条文である。

大統領が法案に異議を差し挟んでその執行を止めようとしても、上院及び下院の両方の議院が3分の2以上の多数で再びその法案を可決すれば、法案は自動的に法律として成立する。究極的には大統領の『法案拒否権』よりも、上院と下院の議員の『3分の2以上の多数決』のほうが強い効力を持っている(大統領といえどもその法案を一人だけの判断で拒絶はできない)ということが記されている。

合衆国憲法第一条

第八節(合衆国議会の権限)

1.合衆国議会は、次の権限を有する。合衆国の債務を弁済し、その共同の防衛と一般的な福祉のために、租税・関税・輸入課徴金及び消費税を賦課し徴収すること。ただし、関税・輸入課徴金及び消費税は、すべて合衆国を通じて均一でなければならない。

2.合衆国の信用により金銭を借り入れること。

3.外国との通商、州際通商及びインディアン部族との通商を規制すること。

4.合衆国を通じて統一された帰化に関する規則、及び合衆国を通じて統一された破産に関する法律を定めること。

5.貨幣を鋳造し、その価値及び外国貨幣の価値を規定し、度量衡の標準を定めること。

6.合衆国の証券及び通貨の偽造に対する罰則を定めること。

7.郵便局を設置し、郵便道路を建設すること。

8.著作者及び発明者に、その著作物及び発明に対する独占的な権利を一定期間保障することにより、学術及び有益な技芸の進歩を促進すること。

9.最高裁判所の下に下級裁判所を組織すること。

10.公海上で犯される海賊行為及び重罪、並びに国際法に違反する犯罪を定めて処罰すること。

11.戦争を宣言し、敵国船舶捕獲の特許状を付与し、陸上及び海上における捕獲に関する規則を定めること。

12.陸軍を徴募し、これを維持すること。ただし、この目的のための支出の承認は、二年を超えることができない。

13.海軍を創設し、これを維持すること。

14.陸海軍の統制及び規律のための規則を定めること。

15.連邦の法律を執行し、反乱を鎮圧し、侵略を撃退するために、民兵の召集について定めること。

16.民兵の編制、装備及び規律、並びに民兵のうち合衆国の軍務に服するものに対する統制について定めること。ただし、民兵の将校の任命及び合衆国議会の定める規律に従って民兵を訓練する権限は、各州に留保される。

17.特定の州が割譲し、合衆国議会がそれを受けることにより合衆国政府の所在地となる地区(10マイル平方を超えてはならない)に対して、あらゆる事項に関する専属的な立法権を行使すること。要塞、武器庫、造兵廠(ぞうへいしょう)、造船所その他必要な建造物を建設するため、管轄する州の同意を得て購入した土地のすべてに対して、同様の権限を行使すること。

18.上記の権限、その他この憲法により合衆国の政府またはその部門もしくは公務員に付与された一切の権限を行使するために、必要かつ適切なすべての法律を制定すること。

[解釈]

アメリカ合衆国の議会が発動できる権限を一覧表のような形で明記した条文である。合衆国議会は『任意の徴税権』を保有しており、『通商・貿易の規制権限』を持っており、『通貨の独占的な鋳造権(偽造貨幣に対する処罰権)』も持っている。共同の防衛や一般的な福祉増加を目的として、合衆国は『徴兵した陸軍・創設した海軍』を用いた戦争行為(自衛・治安維持)を行う権限も有している。またアメリカの軍隊においては、一般の規律あるアメリカ市民が武装して結集する『民兵』が重要な位置づけを占めており、この『民兵の召集』は憲法修正二条が保障している『アメリカ市民の武装権(規律と良識ある一般国民が銃器を保有して自衛のために武装する権利)』とも本質的なつながりがある。

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