中国憲法の『序言』では、中国が1840年以後の帝国主義列強による半植民地化の屈辱の歴史を、孫文の『辛亥革命(1911年)』と毛沢東・中国共産党の『共産主義革命(1949年)』によって乗り越え、中国人民が国家主権を取り戻したことが宣言されている。1949年の毛沢東の共産主義革命によって、中国人民が国家権力を掌握したとされる『中華人民共和国』が成立することになった。
社会主義によって運営される中華人民共和国では、資本家階級による労働者階級の搾取が消滅したと宣言され、人民を平等にするプロレタリアート独裁(労働者階級の独裁)が確立して生産手段が国有化された。共産主義革命は『帝国主義・封建主義・官僚主義の統治』を転覆させ、中国人民と人民解放軍は『帝国主義と覇権主義の侵略・破壊・挑発』に勝利するところとなった。
中国の全人民は社会主義と人民民主独裁制を堅持し、『マルクス・レーニン主義・毛沢東思想・トウ小平理論』を手引きとして、中国共産党の領導に従うものとする。台湾は中華人民共和国の神聖な領土の一部であり、祖国統一は中国人民の職責である。中国は全国の各民族人民が共同して創建された統一的な多民族国家である。本憲法は国家の根本法であり、最高の法的効力を有している。
ここでは、『中華人民共和国憲法(中国憲法)』の条文と解釈を示していく。
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初宿正典, 辻村 みよ子『新解説世界憲法集 第2版』(三省堂),高橋和之『世界憲法集』(岩波文庫),阿部照哉, 畑博行『世界の憲法集』(有信堂)
第一七条(集団経済組織自主権)
1.集団経済組織は、関連する法律を遵守するという前提の下において、経済活動を独立して行う自主権を有する。
2.集団経済組織は、民主的管理を実行し、法の定めに従って管理職者を選挙及び罷免し、経営管理の重大問題を決定する。
[解釈]
集団経済組織というのは実質の『企業』のことであるが、社会主義経済制度では通常は営利目的の企業の存在は許されていないという解釈が強い。しかし、中国は集団経済組織(企業)の存在とその独立的な自主権を、関連法規の遵守をするという前提で認めているのである。
集団経済組織は、民主的管理のシステムと管理者の選挙・罷免の仕組みを持っていなければならないとされる。
第一八条(外国からの投資)
1.中華人民共和国は、外国の企業及びその他の経済組織または個人が、中華人民共和国の法律の定めに従って中国において投資を行い、中国の企業またはその他の経済組織と各種形式の経済協同を行うことを許す。
2.中国の領域内の外国企業及びその他の外国経済組織並びに中国・外国間合弁経営の企業は、すべて中華人民共和国の法律を遵守しなければならない。これらの合法的な権利及び利益は、中華人民共和国の法律の保護を受ける。
[解釈]
中国は大規模な外国からの投資を受け付けていて、ここ20年ほどは『中国のバブル景気+工場投資による生産力増大』が世界経済の屋台骨を支えているが、最終的には『中華人民共和国の法律の定め』に従わなければならないという留保はついている。
外国の企業・経済組織、外国と中国の合弁経営企業は、中華人民共和国の法律の規制と保護を受けることになる。
第一九条(教育政策)
1.国家は、社会主義の教育事業を発展させ、全国人民の科学文化水準を向上させる。
2.国家は、各種の学校を興し、初等義務教育を普及させ、中等教育、職業教育及び高等教育を発展させ、かつ、就学前教育を発展させる。
3.国家は、各種教育施設を発展させ、非識字をなくし、労働者、農民、国家任務遂行要員及びその他の勤労者に対して、政治、文化、科学、技術、業務の教育を行い、自修を奨励する。
4.国家は、集団経済組織、国家企業・事業組織及びその他の社会的力量を奨励して、法律の規定に基づいて各種の教育事業を興させる。
5.国家は、全国で通用する標準語を押し広める。
[解釈]
中華人民共和国の公的な教育目標を宣言した条文であり、概ね先進国としての高度な教育文化水準を目指していく方向性と内容になっているのだが、中国の教育制度の特殊性は『社会主義のイデオロギーと価値観に基づく教育事業』がその根本に据えられているということだろう。
先進国として大卒相当の知性と専門性、技術力を持つ人材を育成するために、『初等・中等・高等の教育施設の発展』が掲げられているが、職業人としての技術や業務能力を身につけるための職業教育についても触れられている。識字率を高めること、標準語を押し広めることなど、国土が広くて人口が多く、人民の教育水準の格差が大きい中国ならではの教育課題も記されている。
第二○条(科学政策及び技術政策)
国家は、自然科学及び社会科学事業を発展させ、科学及び技術の知識を普及させ、科学研究の成果及び技術発明の創造を奨励する。
[解釈]
中国における科学政策と技術政策の進歩発展の方向性と目的意識が掲げられた条文である。先進国に追いつき追い越す課題を追い求めてきた中華人民共和国にとって、人民・国家の自然科学や社会科学の水準の向上は『不可避な国家的事業』として認識されているということだろう。
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