『枕草子』の現代語訳:12

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清少納言(康保3年頃(966年頃)~万寿2年頃(1025年頃))が平安時代中期に書いた『枕草子(まくらのそうし)』の古文と現代語訳(意訳)を掲載していきます。『枕草子』は中宮定子に仕えていた女房・清少納言が書いたとされる日本最古の女流随筆文学(エッセイ文学)で、清少納言の自然や生活、人間関係、文化様式に対する繊細で鋭い観察眼・発想力が反映された作品になっています。

『枕草子』は池田亀鑑(いけだきかん)の書いた『全講枕草子(1957年)』の解説書では、多種多様な物事の定義について記した“ものづくし”の『類聚章段(るいじゅうしょうだん)』、四季の自然や日常生活の事柄を観察して感想を記した『随想章段』、中宮定子と関係する宮廷社会の出来事を思い出して書いた『回想章段(日記章段)』の3つの部分に大きく分けられています。紫式部が『源氏物語』で書いた情緒的な深みのある『もののあはれ』の世界観に対し、清少納言は『枕草子』の中で明るい知性を活かして、『をかし』の美しい世界観を表現したと言われます。

参考文献
石田穣二『枕草子 上・下巻』(角川ソフィア文庫),『枕草子』(角川ソフィア文庫・ビギナーズクラシック),上坂信男,神作光一など『枕草子 上・中・下巻』(講談社学術文庫)

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[古文・原文]

21段

生ひ先なく、まめやかに、えせざいはひなど見てゐたらむ人は、いぶせく、あなづらはしく思ひやられて、猶、さりぬべからむ人の女(むすめ)などは、さしまじらはせ、世の有様も見せならはさまほしう、内侍(ないし)のすけなどにて暫時(しばし)もあらせばや、とこそ覚ゆれ。

宮仕へする人をば、あはあはしう、わろきことに言ひ思ひたる男などこそ、いとにくけれ。げに、そも、またさる事ぞかし。かけまくも畏き御前をはじめ奉りて、上達部(かんだちめ)、殿上人、五位、四位は更にもいはず、見ぬ人は少なくこそあらめ。

[現代語訳]

21段

前途に大した望みがなくて、ただ一途に夫を愛するなどして、偽物の小さな幸福に浸っていたいというような人は、その心持ちが我慢ができないし軽蔑すべき人のように思われてしまうが、やはり然るべき身分のある人物の娘などは、宮中に出仕させて、この世の中の現実(宮中や権力の仕組み)を広く見させてそれに馴れさせたいと思うし、暫くの間であっても、典侍(ないしのすけ)のような地位に就かせたいと思うものだ。

宮仕えしている女を、非難すべき、悪いことであるかのように言ったり思ったりする男などは、本当に憎たらしい。だが、そういった考え方にも最もだと思えるところはある。申し上げるのも畏れ多い帝をはじめとされて、上達部、殿上人、五位、四位などの人は改めて申し上げるまでもないが、高位の貴族たちに仕えている女房を見ないということはまずないのである。

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[古文・原文]

女房の従者、その里より来る者、長女(をさめ)、御厠人(みかはやうど)の従者、たびしかはらといふまで、いつかはそれを恥ぢ隠れたりし。殿ばらなどは、いとさしもやあらざらむ。それも、ある限りは、しか、さぞあらむ。

上などいひて、かしづき据ゑたらむに、心にくからず覚えむ、理(ことわり)なれど、また内裏(うち)のすけなどいひて、をりをり内裏へ参り、祭の使などに出でたるも、面立たし(おもだたし)からずやはある。さて、籠りゐぬる人は、まいてめでたし。受領(ずりょう)の五節(ごせち)出だすをりなど、いとひなび、言ひ知らぬことなど、人に問ひ聞きなどは、せじかし。心にくきものなり。

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[現代語訳]

女房の従者、その里から付いてくる者、長女、御厠人といった付き人、たびしかわらといった卑しい者まで、いつ女房たちがそれらの者の目線を恥じてその姿を見せないことなどがあっただろうか。男の方たちであれば、それほど卑しい者の前に姿は見せないかもしれない。しかし、男性であっても宮仕えをする限りは、女房と同じようなもので下賤の者に見られることになる。

宮仕えした女房を上などと呼んで、かしずいて丁重にお仕えする場合には、その女房の前歴を悪いように思ってしまうのは、もっともなことでもある。だが、上の女性(北の方)は内裏の典侍などと呼ばれて、折に触れて内裏に参ったり、賀茂の祭りのお使いに出たりするのも、晴れがましくて名誉なことではないか。そして、そういった高い地位にありながら家庭に籠っているという人(一途に夫に仕えている人)は、非常に素晴らしいものだ。夫が受領として五節の舞姫を差し出す時など、(そういった宮中の内情に通じた北の方・上であれば)、田舎臭い物言いをしたり、常識的なことを知らずに人に質問したりなどの恥ずかしいことはせずに済むだろう。立派な尊敬される女性である。

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