カール・コッホ(Karl Koch, 1906-1958)

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カール・コッホの生涯とバウムテスト

スイスの心理学者・産業カウンセラーのカール・コッホ(Karl Koch, 1906-1958)は、バウムテスト(樹木画テスト)の完成者として知られていますが、バウムテストは“1本の実のなる樹木”を書くだけという簡便性と迅速性に優れた代表的な投影法の一つです。カール・コッホは『機械工』として長く働いていた履歴を持つ、心理学者としては異色のキャリアを持った人物です。11才の時に父親を病気で亡くしたために、10代で早くも自分で家計を支えなければならなくなり、15歳で『機械工』の資格を取得して機関車の製造工場で働いていました。

夜間の工芸学校で勉強しながら機械工の仕事を続けていたのですが、K.コッホが心理学研究を始める転機となったのは、20歳の時(1926年)にチューリッヒの『精神技術研究所(後の応用心理学研究所)』に転職したことでした。K.コッホには20歳も年齢が離れた姉がいて、『カールは機械工よりも心理学の研究に向いている』という姉の勧めもあって、心理学分野への転向を決めたといいます。

K.コッホが本格的に心理学の勉強をスタートさせたのは、パリに出向いた22歳の頃であり、フランスの名門ソルボンヌ大学で心理学・筆跡学などの分野を学びました。ソルボンヌ大学に通学したK.コッホは、同時にパリのシトロエン工場(自動車工場)で機械工としても働いており、いわゆる勤労学生として心理学の学問を修めたのでした。コッホは産業カウンセラー(職業カウンセラー)として認識されていますが、ソルボンヌ大学に通っている時に当時の『職業相談の資格』を取得しています。

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10代から働いていることもあって自主独立の気概が強かったK.コッホは、リトアニアのカウナス大学に応用心理学研究所を開設したり、リトアニア新聞の編集者としての仕事にも携わっていました。1933年に27歳の若さで故郷のスイスに帰国したK.コッホは、ルツェルンの地に応用心理学研究所を開設して、市から委託された『職業相談の仕事』に従事することになりました。

かつての職業相談事業は、現在のカウンセリング心理学では『キャリアカウンセリング』と呼ばれることが多いのですが、K.コッホはこの職業相談とソーシャルワーク(社会福祉)の仕事を約10年間にわたって続けました。K.コッホは社会福祉や労働者福祉、障害者福祉の職業自立支援の分野にも関心を持っており、スイスで初めて身体障害者の職業的自立を支援する『作業所(授産施設)』の設置を提案しています。

1933年からのコッホは、クライアントの職業適性(進路適性)を診断したり、職業選択(転職)についてのアドバイスをしたり、職業・職場に適応できない人の問題(悩み)を改善したりする『職業相談の仕事』に熱意を持って取り組んでいました。本業である職業相談(キャリアカウンセリング)をしている傍らで、福祉関係のソーシャルワークをしたり昔から興味を持っていた『筆跡学(Graphology)の研究』を行ったりしていました。

筆跡学は現代では『文字の書き手』を特定する手段として用いられることがありますが、科学的な性格検査の投影法とまでは考えられていません。しかし、当時は『筆跡心理学』や『筆跡心理学』などの分野が隆盛しており、筆跡からその人の性格特性や心理状態を分析しようとする研究が進められていました。K.コッホは筆跡学の延長線上で、同じ職業相談家をしていたエミール・ジャッカー(Emil Jucker)の『線描画樹木画テスト』と出会ったのではないかと推測されていますが、コッホはこの樹木画テストに改良・変更を加えて独自の『バウムテスト(樹木画テスト)』を1949年に完成させたのでした。

カール・コッホのバウムテストの説明

カール・コッホは1949年に43歳で、独自の“発想・改良・解釈”を加えた投影法の性格検査である『バウムテスト(樹木画テスト)』を発表しました。バウムテストはA4版の画用紙に『1本の実のなる木』をクライアント(被検者)の好きなように描いてもらうという簡単な性格テストですが、『所要時間・用紙の向き・消しゴムの使用』などに制限はありません。

バウムテストの診断者は『樹木の全体の形態、木の大きさ(葉の茂りの豊かさ)、全体のバランス、枝の方向性、根の形状、筆圧の強さ、木の絵の勢い』などを丁寧に見ていきます。バウムテストでは、以下の3つの観点から総合的かつ効率的に『クライアントの性格傾向』を分析することができます。

描かれた樹木の『空間図式の象徴性』を解釈する場合には、マックス・パルバー(M.Pulver)グルンウォルド(Grunwald)の空間図式の仮説理論などを参照しています。被検者の精神内界が樹木画に投影されるとしたマックス・パルバーは『空間象徴の解釈』について、『上部に描かれたもの:未来・外部・客体・願望・目標の象徴』『下部に描かれたもの:物質的なもの・無意識的なもの・自我・基本的な源泉』という大雑把な分類をしています。

グルンウォルドのほうはもっと的確で細かな空間象徴の解釈を行っており、『左上:受動性の領域,右上:生への能動性の領域,左下:幼児期のトラウマへの固着や退行,右下:本能や衝動・葛藤の領域』という分類をしています。バウムテストでは、線の描写や実・花・葉などの解釈も重要になってきますが、発達水準のテストでは樹木の形態が一般的に『象徴画→図式画→写実画』へと変化していきます。幹や枝の線描画も『一線の幹・枝』から『二線の幹・枝』へとより写実的な方向性での発達が見られ、運筆(筆跡学)の造形性や正確性も高度なものへと変化していく傾向があります。規則的な安定した運筆は『意志の優位・心理状態の安定』を象徴し、不規則的で不安定な運筆は『感情の優位・心理状態の混乱』を象徴します。

描画テストでは、用紙の左側は『母性・女性性・受動性・過去』、用紙の右側は『父性・男性性・能動性・未来』を象徴すると考えられていますが、検査者は『時間軸+被検者の言語的表出+現実の生活環境・家族関係』も合わせて多元的な解釈・評価を行っていきます。 自我の発達水準を測定するときには、樹木全体の左右のバランスを観察したり、『根→幹→枝→実への成長過程』と重ね合わせて解釈したりしますが、そこには『事物と精神・自己と他者・過去と未来・父性と母性・天と地』というような二元論(二項対立図式)のモデルが前提としてあります。

晩年のK.コッホは、発達検査としてのバウムテストの“信頼性・妥当性”を検証する統計学的研究にも力を注ぎましたが、コッホはバウムテストの解釈に『空間象徴理論』『筆跡学の知識』を応用したとしています。バウムテストで被検者の性格特性や心理状態を正しく解釈するためには、深層心理学の知見を習得してバウムテストの施行・解釈に熟練する必要性がありますが、コッホは特に被検者の立場に感情移入する『想像力の豊かさ』を重視しました。

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