愛着障害と発達障害:愛着障害における児童虐待・ネグレクト(養育放棄)の環境要因

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発達障害と愛着障害の区別(違い)とその特徴的要因

親子関係・養育環境の問題によって発症する愛着障害の症状・問題

発達障害と愛着障害の区別(違い)とその特徴的要因

現代の精神医学・発達臨床心理学では、発達障害(developmental disorder)『遺伝的・生物学的な原因』によって発症すると定義されており、特に『中枢神経系(脳)の成熟障害』が主な原因とされている。

一方で、自閉症スペクトラム(自閉症・アスペルガー障害)やADHDをはじめとする発達障害には、幼少期に安定した愛着を形成できずに人間関係のトラブルや情緒不安定・集中困難などの問題を起こしやすくなる『愛着障害(attachment disorder)』が混在していることも多い。そのため、現在では『親子関係・養育環境・愛情やトラウマなどの環境要因』も合わせて考えていくべきとする意見が増えている。

愛着障害とか環境要因の関与というと、自分の育て方やコミュニケーションの取り方が悪かったのかと思って自分を責めてしまう母親(父親)もいるかもしれないが、発達障害的な問題行動や不適応に『愛着障害の環境要因』が関係しているほうがむしろ改善しやすくなる。先天性の強い発達障害よりも愛着障害のほうが『親子関係・トラウマ・養育環境などの環境要因』が関係しているので、『療育・母親支援・心理療法・カウンセリング』などの事後的なアプローチによる改善効果が見込みやすいという良い面があるからである。

『早期発見・早期介入(早期療育)』のアプローチ手法の原則は、発達障害でも愛着障害でも同じように有効であるが、母親・父親の子供に対する接し方や愛情の示し方を変えることによって目立った効果が出やすいという意味では愛着障害のほうが対処しやすいところがある。

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先天性の発達障害の特徴としては、『女性・女の子』よりも『男性・男の子』に多いということがある。男性ホルモンの濃度の高さは、社会性やコミュニケーションの障害といった発達障害の特徴を引き起こしやすいと推測されており、男の子と女の子の発達障害者の比率は『4:1(男性は女性の約4倍)』くらいになっている。しかし、男性の発達障害の中にも、親子関係における愛着形成や情緒不安定の問題を抱えた『愛着障害』が混在している可能性があるので、その見極めは必要になってくる。

発達障害であるか愛着障害であるかの識別は、『胎児期・乳児期・幼児期・児童期・思春期』の発達プロセスにおける親子関係や養育環境のあり方を振り返ることによっても明らかになりやすい。遺伝的要因による発達障害のケースでは、早期発達過程における『首座り・ハイハイ・つかまり立ち・初歩・初語・二語文・三語文』などに問題が生じることが多いので、母子手帳の記録などを確認しながら発達早期の発達上のトラブルがなかったか見ていく。

生理的な発達障害発現のリスクとしては、周産期の合併症・異常、妊娠中の飲酒・喫煙、出産時の低体重・仮死状態、家族の遺伝的負因、小さな奇形、利き腕が決まる時期の遅さ(脳機能の左右両半球の分化の問題)、不器用さの運動障害、発音障害(音韻障害)、知的障害などがある。ただし、虐待・外傷の後遺症として二次的な発達障害の症状が出現することもある。親子間の愛着形成の不全としての『愛着障害』がある場合には『親の不在やネグレクト・物心ついてからの養育者の交代・夫婦間の不和や葛藤・子供の長期入院・子供のうつ状態や情緒障害・発達早期からの児童養護施設での育児』などの問題が見られやすい。

上記のリスク要因があるからといって、必ず発達障害や愛着障害になるわけではなく、リスク要因のある子供に対しては『早期発見・早期療育』を前提として、発達障害・愛着障害の発生と悪化を予防しようとする共感性のあるアプローチが大切になってくる。

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親子関係・養育環境の問題によって発症する愛着障害の症状・問題

愛着障害を直接的に引き起こす原因としては『虐待・ネグレクト(養育放棄)』がよく知られている。近年は社会全体に向けての虐待発見・虐待予防の教育的啓発活動の効果もあり、過去と比べて『児童虐待・ネグレクトの行政(児童相談所)への通報件数』は非常に多くなっていて、毎年のように過去最高の通報件数を記録している。一方で、今まで無関心で通報されてこなかった案件や虐待とは見なされてこなかった暴力的なしつけ(小さな親子間のトラブル含め)が、虐待として通報されるようになってきたことの現れでもあり、『現代の母親・父親』が特に子供を虐待しやすい、子供を大切にしていないというわけではないという意見もある。

親子間の虐待とネグレクトのリスクを高める要因としては、『母親のうつ病(マタニティーブルー)やパーソナリティー障害・人格未成熟につながる母親の低年齢・性格の反社会性・薬物依存性・アルコール依存症・夫婦の喧嘩や不仲・母親へのサポートや情報提供の少なさ・完全主義志向の性格』などがある。児童虐待の多くは『露見してはならない犯罪』や『家族の中だけの秘密』として隠蔽される傾向があるが、母親の子育ての悩み相談や共感的・支持的な母子カウンセリングの中で母親が自ら『どうしても手を挙げてしまう・無視して放置してしまう』といって虐待リスクについて告白してくること(聞いてもらいたがって虐待回避のための支援を求めること)も多い。

児童虐待やネグレクトを受けている子供が見せる典型的な徴候としては、『親の顔色を伺ってびくびくしている・親のちょっとした動作に過敏に怯えるような仕草をする・身だしなみが乱れていたり衣服が不潔である・近しい人でもスキンシップを嫌がる怯える・情緒不安定である・傷跡や痣が見られる・夜尿症や情緒反応的な失禁が多く見られるようになった・暴力的で弱い者いじめをする・自律神経失調症で腹痛や頭痛などの訴えが多い・過度に従順で良い子であり親に一切逆らわない』などを指摘することができる。

先天的な脳機能障害を前提とする発達障害の自閉症スペクトラム(広汎性発達障害)では、『こだわり行動(行動パターンの固執性)・常同行動』『音・光・色・匂いなどに対する極端な知覚過敏性』が見られることが多いが、親子間の養育要因を原因とする愛着障害ではこだわり行動・常同行動・知覚過敏性はそれほど見られないことが多い。発達障害の人の行動パターンの固執性では、『毎日が予定通りに進まないとパニックになる』という問題が起こりやすく、『いつもと違うスケジュール・日常生活の些細な変化』などに非常に敏感に反応する。

音・光・色・匂いなどの変化に過敏に反応する『知覚過敏性』は強い恐怖感・不安感・不快感を感じることでパニックになりやすいが、先天性の発達障害ではない愛着障害でも『虐待環境と関連のある場所・暗闇・狭い所・大声』などに過敏な反応を示しやすくなったりはする。

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愛着障害は先天性の発達障害と比較して『環境要因(親子関係・養育環境)の影響』が大きいという特徴があるので、その子供にとって情緒的に安心できて楽しさを感じられる『望ましい環境』に置かれれば、それまで見られていた発達障害的なコミュニケーションや行動パターンの固執性などの症状が急速に改善することもある。先天性の発達障害では環境が変わっても、『コミュニケーション・社会性・こだわり行動(固執性)』などの基本症状が急速に改善することは少なく、相手が変わって人間関係から受けるストレスや緊張感が減っても症状が変わりにくい。

親子関係(児童虐待・トラウマも含め)を基本とする人間関係の影響を強く受けている愛着障害では、『人間関係の相手(相手が自分にとってどういった存在か)』によってコミュニケーションの障害や社会性の障害といった症状が大きく変わってくるのである。遺伝性・器質性の発達障害では相手が誰であっても、コミュニケーション能力や心の理論(相手の気持ちの推測能力)の障害が大きく改善することがない。だが愛着障害の場合では『心を許せてリラックスできる相手・緊張感や不安感、拒絶感を感じず安心や親しみを感じられる相手』であれば、相手に興味関心を示しながら共感的で双方向的なコミュニケーションができるようになったりもする。

愛着障害では生活環境や人間関係を安心感を感じられるものに変えていくことで、『認知機能・集中力や思考力・知能指数・学習能力』も改善するケースがあることが知られており、愛着障害を原因とする学習障害・集中力の低下であれば落ち着いて勉強できる場所(安心して過ごせる人間関係)を作ってあげる環境調整による効果がかなり期待できるのである。

愛着障害の顕著な特徴としては、親や家族(近親者)が『精神的な安全基地』として機能していないということがあり、『親と一緒にいると安心感や親しみを感じられる・つらい時や悲しい時に親や家族が慰めて助けてくれるという信頼がある・親には何でも気軽に話すことができる』というような子供の場合には愛着障害を発症している可能性は極めて低くなる。

遺伝性の発達障害だけを持っている子供の場合でも、愛着障害がなければ『親に対する特別な愛着・安心・リラックス感』を持っていることが普通であり、極度の人見知りや他者への無関心といった自閉症的症状がある場合でも、日常的に世話をしてくれて話しかけてくれる親に対しては『他人とは異なるレベルの親しみ・居心地の良さ』を感じているものなのである。当然ながら、『精神的な安全基地』として機能する親や家族(近親者)がいる発達障害の人のほうが情緒的な安定度が高いため、そうでない発達障害の人よりも治療・療育・カウンセリングの効果が高くなりやすい。

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親子関係に問題のある愛着障害を抱えた子供は、遺伝性・器質性の発達障害の子供よりも『情緒障害・攻撃性・衝動性』が見られやすく、『ひがみ・嫉妬・意地悪さ・いじけなどのネガティブな感情』を持ちやすくなるという特徴もある。脳機能障害に由来する発達障害がある子供でも、両親から愛情と関心を注がれながらゆったりと個性を尊重されて育てられた子供は、『無邪気さ・純粋さ・素朴さ』といった性格上の長所とも言える特徴が見られることが多い。

虐待やネグレクトを受けてきた愛着障害の子供には、そういった『純粋さ・素直さ・天真爛漫な無邪気さ』といった他者を信頼していることが分かる性格特性が見られないことが多く、今まで親や近親者に傷つけられてきたトラウマ(心的外傷)によって『他者に対する警戒心・不安感・攻撃性』などのネガティブな要素が強まりやすい。愛着障害では愛情や優しさ、思いやりに対する飢餓感が強くなるため、物事や人間の悪い面ばかりに意識が向きやすくなり、将来の人生や人間関係に対しても悲観的認知を持ちやすくなってしまう。

子供っぽい素直さや純粋さが見えにくくなり、『嫉妬・ひがみ・いじけ・不満・怒り・攻撃性・衝動性』などの情緒障害の問題やネガティブな感情が表現されやすくなるが、それは『もっと愛情を注いで欲しい・もっと構って自分を見て欲しい』というクライシスコールのSOSであることが多いのである。自分の本当の気持ちや思いを表現することができずに、それとは正反対の発言や行動をしてしまう『反動形成』の自我防衛機制が見られやすいのも愛着障害の特徴であり、相手を困らせたり怒らせたりすることで『自分に対する注意・関心』を得ようとするところもある。

自分の存在が拒否されたとか見捨てられたとか感じた時、愛着障害の子供は『問題・非行・トラブル』を起こして相手を心配させたり自分に注意を引きつけようとすることがあるが、その典型的な振り回し行動(試し行動)には『イタズラ・虚言・暴力・盗み・火遊び・いじめ・迷惑行為』などがある。相手を困らせたり振り回したり嫉妬したりすることで『失われたと感じている愛情・関心・承認』を取り戻そうとするのが、愛着障害の一つの特徴である。自分に優しくしてくれる児童相談所・児童養護施設の職員を独り占めするような行動が見られることもあり、そういったケースでは『自分以外の別の子供』にその職員が優しくすると癇癪を起こしたり迷惑行為をしたりすることもある。

先天性の発達障害にはあまり見られない愛着障害に特有の精神症状として、『PTSDのようなトラウマ体験のフラッシュバック・解離性障害のような意識の統合性の解体や意識水準の低下(外界のリアリティの低下)』もあるが、これらは愛着障害の原因と推測される虐待や育児放棄、見捨てられ体験といったトラウマの影響と考えられる。愛着障害は、機能不全家族で育てられた子供であるアダルトチルドレンやPTSD(心的外傷後ストレス障害)とも関係した問題なので、『人間関係・異性への依存症』をはじめとする各種の依存性(アルコール依存症・買い物・摂食障害・薬物依存症など)を発症しやすいリスクも指摘されている。

重症の自閉症スペクトラムでは、思い通りにならない苛立ちや自分のペースを乱されたパニックによって、自分で自分の頭を壁・床にぶつけたり、自分の顔・体を叩いたりひっかいたりする形の『自傷行為』が見られることがあるが、愛着障害と比較するとその自傷行為は『他者の目線・同情』を気にしていないという特徴がある。

愛着障害における自傷行為や自殺のほのめかしなどは、自分のイライラや不安感、衝動性を自分にぶつけている側面もあるが、それ以上に『他人にもっと構って欲しい・自分のことをもっと心配して愛情や関心を注いで欲しい』という愛情欲求・承認欲求の現れになっているのである。特にリストカットやアームカットなどの、自分の身体に傷跡を残してそれを他人に見せたりウェブに写真をアップしたりする自傷者は、無意識的にせよ『他者の目線・心配・同情』を求めて自傷行為をしてSOSを訴えていることが多いのである。

虐待・ネグレクトを受けてきた愛着障害の子供は『愛情・関心・承認に対する欠乏感・飢餓感』を持っているが、それを素直に表現することができない(他者に対する不信感も強い)ために、『反抗・暴力性(破壊性)・自己破滅性』といった特徴を見せることが多く、それが悪化しすぎると先天性の発達障害ではそれほど多く見られない『学校での非行・犯罪行為・いじめ(加害者)』に逸脱しやすくなってしまう。

器質性の発達障害があっても親子関係が安定していて日常生活の中で愛情・関心を注がれている子供であれば、愛着障害のリスクとして指摘される『反抗・暴力・破壊的行動(斜に構えた悲観的・冷笑的な態度,人生を真面目に生きることの価値の否定,他者不信と過度の暴力的な反骨精神)』が見られることは少ないのである。

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