『竹取物語』の原文・現代語訳9

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『竹取物語』は平安時代(9~10世紀頃)に成立したと推定されている日本最古の物語文学であり、子ども向けの童話である『かぐや姫』の原型となっている古典でもあります。『竹取物語』は、『竹取翁の物語』『かぐや姫の物語』と呼ばれることもあります。竹から生まれた月の世界の美しいお姫様である“かぐや姫”が人間の世界へとやって来て、次々と魅力的な青年からの求婚を退けるものの、遂には帝(みかど)の目にも留まるという想像力を駆使したファンタジックな作品になっています。

『竹取物語』は作者不詳であり成立年代も不明です。しかし、10世紀の『大和物語』『うつほ物語』『源氏物語』、11世紀の『栄花物語』『狭衣物語』などに『竹取物語』への言及が見られることから、10世紀頃までには既に物語が作られていたと考えられます。このウェブページでは、『この皮衣入れたる箱を見れば~』の部分の原文・現代語訳(意訳)を記しています。

参考文献
『竹取物語(全)』(角川ソフィア文庫・ビギナーズクラシック),室伏信助『新装・竹取物語』(角川ソフィア文庫),阪倉篤義 『竹取物語』(岩波文庫)

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[古文・原文]

この皮衣入れたる箱を見れば、種々(くさぐさ)のうるはしき瑠璃をいろへて作れり。皮衣を見れば紺青(こんじょう)の色なり。毛の末には金の光し輝きたり。宝と見へ、うるはしきこと、並ぶべき物なし。火に焼けぬことよりも、けうらなることかぎりなし。

『うべ、かぐや姫、好もしがり給ふにこそありけれ』とのたまひて、『あなかしこ』とて、箱に入れ給ひて、ものの枝に付けて、御身(おほんみ)の化粧いといたくして、『やがて泊まりなむものぞ』とおぼして、歌詠み加へて持ちていましたり。その歌は、

限りなき 思ひに焼けぬ 皮衣 袂乾きて 今日こそは着め

と言へり。

[現代語訳]

この火鼠の皮衣を入れた箱を見ると、様々な種類の美しい瑠璃(宝石)を使って作ってある。皮衣を見ると、紺青色をしている。毛の先端は、金色に光り輝いている。宝物のように見えて、その美しさには並ぶ物もない。火に焼けないという事よりも、その外見の美しさが際立っていた。

『なるほど、かぐや姫が欲しがるだけの物ではある。』とおっしゃって、『あぁ、ありがたいことだ。』と言って、箱の中に入れた。その箱を木の枝に結び付けて贈り物とし、自分自身も念入りに化粧をして、『そのまま姫の部屋に泊まれるだろう。』とも思って、歌を詠んでからその箱を持ってきた。その歌の内容は、

あなたへの限りない愛情でさえも燃やせない火鼠の皮衣、これを手に入れて恋の涙に濡れていた袂もようやく乾きました、今日こそは気持ちよく濡れていない衣服を着られます。

というものだった。

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[古文・原文]

家の門に持て至りて立てり。竹取出で来て、取り入れて、かぐや姫に見す。

かぐや姫の、皮衣を見て言はく、『うるはしき皮なめり。わきて真の皮ならむとも知らず』

竹取答へて言はく、『とまれかくまれ、先づ請(しょう)じ入れ奉らむ。世の中に見えぬ皮衣のさまなれば、これをと思ひ給ひね。人ないたくわびさせ奉り給ひそ』と言ひて、呼びすゑ奉れり。

かく呼びすゑて、『この度は必ずあはむ』と嫗(おうな)の心にも思ひをり。この翁は、かぐや姫の寡(やもめ)なるを嘆かしければ、『よき人にあはせむ』と思ひはかれど、切に、『否』と言ふことなれば、え強ひねばことわりなり。

[現代語訳]

大臣はかぐや姫の屋敷の門に、火鼠の皮衣を持ってきて立っていた。竹取の翁が出て来て、火鼠の皮衣を受け取って、かぐや姫に見せた。

かぐや姫は皮衣を見てから言った。『美しい皮衣ですね。しかしこれが他の物とは違う本物の皮衣だということが私には確かめられません。』

竹取の翁が言った。『何はともあれ、まず大臣をここに呼び寄せましょう。世の中で見たこともない皮衣の様子を見ると、これは本物だという風にも思えますが。大臣にあまり悲しい思いをさせないようにしなさい。』と言って、大臣を呼び寄せた。

こうして大臣を呼び寄せて、『今度こそはきっと結婚するだろう。』とおばあさんも思っていた。翁もかぐや姫がいつまでも独り身でいることを嘆いていたから、『素晴らしい人と結婚させよう。』と思って話を進めてきたが、かぐや姫が必死に、『いやだ』と拒んでいたので、それ以上の強制もできずにいた。だから、姫の結婚が決まりそうなのを喜ぶのも道理である。

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