中国憲法の『序言』では、中国が1840年以後の帝国主義列強による半植民地化の屈辱の歴史を、孫文の『辛亥革命(1911年)』と毛沢東・中国共産党の『共産主義革命(1949年)』によって乗り越え、中国人民が国家主権を取り戻したことが宣言されている。1949年の毛沢東の共産主義革命によって、中国人民が国家権力を掌握したとされる『中華人民共和国』が成立することになった。
社会主義によって運営される中華人民共和国では、資本家階級による労働者階級の搾取が消滅したと宣言され、人民を平等にするプロレタリアート独裁(労働者階級の独裁)が確立して生産手段が国有化された。共産主義革命は『帝国主義・封建主義・官僚主義の統治』を転覆させ、中国人民と人民解放軍は『帝国主義と覇権主義の侵略・破壊・挑発』に勝利するところとなった。
中国の全人民は社会主義と人民民主独裁制を堅持し、『マルクス・レーニン主義・毛沢東思想・トウ小平理論』を手引きとして、中国共産党の領導に従うものとする。台湾は中華人民共和国の神聖な領土の一部であり、祖国統一は中国人民の職責である。中国は全国の各民族人民が共同して創建された統一的な多民族国家である。本憲法は国家の根本法であり、最高の法的効力を有している。
ここでは、『中華人民共和国憲法(中国憲法)』の条文と解釈を示していく。
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初宿正典, 辻村 みよ子『新解説世界憲法集 第2版』(三省堂),高橋和之『世界憲法集』(岩波文庫),阿部照哉, 畑博行『世界の憲法集』(有信堂)
第二五条(計画出産・人口計画)
国家は、計画出産を推し進め、人口の増加を経済及び社会発展計画と適応させる。
[解釈]
資源分配が追いつかない『人口爆発』による経済崩壊や社会混乱を恐れてきた中国共産党は、『一人っ子政策』を中国人民に強いてきたが、その根拠となる憲法条文がこの25条である。中国では経済社会の発展や政治統制の状態に合わせた『人口計画・計画出産』が国是として推進されてきた。
近年は、逆に現役労働者世代の減少予測と高齢化問題に悩まされるようになってきているので、いつか一人っ子政策の転換と人口増加策が講じられる可能性もあるのかもしれない。
第二六条(環境)
1.国家は、生活環境及び生態環境を保護し、及び、改善し、汚染及びその他の公害を防止し、修復する。
2.国家は、植樹造林を組織し、及び、奨励し、森林・樹木を保護する。
[解釈]
中国は急速な近代化・工業化の副作用としての『環境汚染(大気汚染・海洋汚染・土壌汚染)・二酸化炭素(温室効果ガス)の排出・森林資源の喪失(砂漠化)』が深刻になっているが、憲法では環境保護の義務が定められている。
近年は、中国の黄砂・PM2.5(微小粒子状物質)が九州地方にまで『越境汚染』してくることも問題になっているが、中国が本当に成熟した近代国家になるためには『環境保護・汚染物質の削減』が重要な課題になっている。
第二七条(国家任務遂行要員)
1.一切の国家機関は、簡素の原則を実行し、任務遂行責任制を実行し、任務遂行要員の養成・訓練及び考課制度を実行し、任務遂行の質及び任務遂行の効率を不断に向上させ、官僚主義に反対する。
2.一切の国家機関及び国家任務遂行要員は、人民の支持に依拠し、人民との密接な連絡を常に保持し、人民の意見及び建議に耳を傾け、人民の監督を受け、人民に奉仕することに努力しなければならない。
[解釈]
中国は実質的に『共産党独裁体制・権威的な官僚主義体制』であるとして、米国・国際社会から人権問題・民主主義の欠如を批判されることがあるが、中国憲法は公務員に対して『人民の利益に奉仕する任務遂行責任制』を導入することによって独裁的な官僚主義を抑制できるとしている。
中国憲法には『現実と理想の反転』が多く見られるのだが、この第27条も国家公務員に当たる国家任務遂行要員が、人民の支持と監督を受けて成り立つという『人民主権の民主主義の建前』を提唱している。人民への全面的奉仕に向かう努力が、中国共産党を中心とする国家機関にあるかどうかは現時点では懐疑的なところが多いといわざるを得ない。
第二八条(犯罪及び犯罪者への対応)
国家は、社会秩序を護り、祖国への背叛及びその他の国家安全危害犯罪活動を鎮圧し、社会治安危害や社会主義経済破壊やその他の犯罪活動に制裁を加え、犯罪者を処罰し、及び、改めさせる。
[解釈]
中華人民共和国における悪質な犯罪・犯罪者を『共産党一党体制への反乱・抵抗』と定義して、そういった共産党主導の社会主義体制や国家安全保障を脅かす個人や勢力(=いわゆる反乱分子)を国家は武力で鎮圧できると定めている。基本的に、中国の刑法は『教育刑』というよりも『応報刑・見せしめ』の要素が強く、多くの犯罪に対して死刑を含む『厳罰主義』で臨んでいる。
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