大人のADHDに見られる“多動性・衝動性”の症状
大人のADHDに見られる“不注意(注意障害)”の症状と対人関係・職業活動の問題
ADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder:注意欠如多動性障害)は、子供だけではなく大人(成人)にも見られる発達上の問題であることが知られるようになってきている。厳密には、大人になってから初めてADHDが発症することはないのだが、幼児期から児童期にかけて発症していたADHDが発見されず診断されないまま大人(成人)になり、大人になってから『不注意・多動性・衝動性の症状』に悩まされたり社会適応が困難になったりするケースが増えている。
大人のADHDでは『ストレス耐性・ストレスコーピング(ストレス対処)』が低下しやすくなり、苦痛な状況や対立的な人間関係で強いストレスがかかると『内的な焦燥感・不安感・切迫感を伴うパニック』に陥りやすくなってしまう。子供のADHDに特有の多動性の症状は自然に収まってくるが、大人のADHDの人も一般に『じっとしていなければならない・手足を動かしてはならない状況』は苦手であり、『内的な緊張感の高まり・落ち着きのない動作(貧乏ゆすり等)』が見られることが多いのである。
子供のADHDの多動性は大人になると『職場で頻繁に同僚に話しかける・お茶やトイレなどのために必要以上に離席する・一方的にべらべら話す傾向がある・会議で特別に饒舌で不必要な長い質疑応答が多い』などになりやすく、アルコールや薬物などの『物質依存の傾向』に変質していくこともある。子供と比較した場合の大人(成人)のADHDの多動性および衝動性の症状の特徴は以下のようになる。
子供のADHDの多動症状
○基本的におしゃべりである。
○落ち着いて自分の席に座っていられない。
○静かに遊べず、課題に集中できない。
○無意味に走り回ったり、唐突に不適切な行動をする。
○身体をそわそわ動かして、あちこち動き回る。
大人(成人)のADHDの多動症状
○基本的におしゃべりである。
○外見的な行動は落ち着いていても、内的な落ち着きのなさがあり、気持ちがそわそわしている。貧乏ゆすりや手足を動かすなど無意味な動きが多い。
○感情が高ぶりやすく、興奮して切れやすい。
○じっとしている仕事が苦手なので、自発的によく動く型の多忙そうな仕事を選ぶ。
○薬物・アルコールなど物質依存(嗜癖)になりやすい。
子供のADHDの衝動性症状
○順番を待つことができない。
○うっかり言ってはいけないことを言ってしまう。
○他人に殊更に口出ししたり、他人のしようとすることを邪魔したりする。
大人(成人)のADHDの衝動性症状
○刺激に反応しやすく、短気で怒りやすい。
○車の運転でスピードを出しやすく、事故を起こしやすい。
○喫煙率が高く、コーヒーや紅茶などカフェイン飲料を好む。
○衝動的な買い物依存、リスクのある性的行動。
○頭に思い浮かんだことをすぐに口に出して言ってしまう。
大人のADHD(注意欠如多動性障害)の症状で、特に社会的・職業的・対人関係的な不利益に結びつきやすいのが『注意障害(不注意)』である。子供時代にADHDを発症していると、注意障害(不注意)が青年期・成人期以降の大人になっても持続して残りやすい。その結果、他人の話の内容をしっかり集中して聞くことができなかったり、部屋やデスクの片付け(整理整頓)が適切にできなかったり、段取りを立てて物事を処理していくことが苦手になりやすい。
会社員や職業人であればADHD的な特徴がむしろ『ミスは多いが饒舌でアグレッシブな性格』としてプラスに受け取ってもらえることもあるが、主婦(主夫)だと部屋の片付けを上手く行うことができず、段取りを立てて進めるべき料理・育児などもかなり苦手になってしまう。注意力が散漫になりやすいADHDの人は、片付けが苦手で何でも後回しにする傾向が強いので、部屋のあちこちに物が散乱していたり、デスクやテーブルの周りに物がうずたかく積み上げられて足の踏み場もなかったりするのである。
大人になってもADHDの注意障害(不注意)の症状が残っていると、注意を配分して自分のスケジュール管理をすることができなかったり、集中しながら段取りを立てて仕事を上手く処理できなかったり、ど忘れの多さで仕事の約束を守ることができなかったりしやすいので、職業上の不利益は大きくなりやすい。他人の話を集中して聞くことができず、約束をきちんと守れないことも多いので、仕事上の客観的な能力はあっても対人関係で躓きやすく、『約束を守れないいい加減な人・人の話を聞いていない失礼な人』といった不本意なマイナスの対人評価を受けやすくなる。
財布や鞄など物の置き忘れが多く、鍵・スマホなど小さなものを紛失しやすいといった特徴もあり、注意散漫なのでネクタイが歪んでいたり靴下の左右がちぐはぐだったりといった身だしなみの乱れが出やすいこともある。
ADHDにおける子供と大人の不注意(注意障害)の症状の特徴を上げると以下のようになる。
子供のADHDの不注意(注意障害)の症状
○勉強・読書・遊びなどで、注意力を持続するのが困難である。特に興味がないことにはほとんど集中できない。
○注意散漫になりやすく、忘れっぽい。
○ケアレスミスが多い。
○人の話をしっかり聞くことができない。
○段取りをしたり順序立てて課題に取り組むことができない。
○机や部屋の整理整頓ができない。
○物を無くしたり置き忘れたりする。
大人(成人)のADHDの不注意(注意障害)の症状
○仕事・読書・会議などで、注意力を持続するのが困難である。
○やらなければいけないことを、先延ばしにしたり後回しにしたりする。
○物事に集中しづらいために、何をすべきか迷って混乱しやすい。
○物の片付けが苦手である。
○時間管理・段取り(スケジュール調整)が下手である。
○仕事が遅くて非効率的である。
○人との約束を守ることができない。
○物を無くしたり置き忘れたりする。
自閉症スペクトラムのアスペルガー障害などに多い『人間関係の問題』は、大人のADHDでは『人の話を聞くことができない・約束を守れない・仕事の効率が悪い・仕事で信用されなくなる』などの不注意症状によって引き起こされる『二次的・副次的な問題』であって、ADHDの人みんなが人間関係の問題を持つというADHD固有の問題ではない。ADHDの人は元来はおしゃべりで他人と関わることをむしろ好む傾向があり、社会不安障害(対人恐怖症)や人の気持ちがわからないアスペルガー障害(心の理論の障害)とは基本的に異なっている。
大人のADHDの社会的・職業的な悩みとして多いもので、『注意障害(不注意)を前提とする仕事の遅さ・極端な非効率性』を上げることができる。ADHDの人はなぜ仕事が遅くなりやすいのかというと、仕事以外の周辺にある事物や出来事に注意(意識)が逸れやすいからであり、仕事以外の興味を惹く出来事に対して注意散漫になることで本題の業務が疎かになったり遅れやすいのである。大人のADHDの不注意は仕事や対人関係のミスが多くなることで、情緒不安定や気分の浮き沈みなどに発展しやすく、子供時代から続くADHDを見過ごされて『うつ病・双極性障害(躁うつ病)・不安障害』などの診断を受けやすくなってしまう。
子供時代から成人期にかけてのADHDに付随する問題としては、『学校の中退・停学・留年の多さ(学校・授業及び友人関係への不適応)』『車の暴走やスピード違反など危険運転の多さ』『アルコールや薬物に対する依存性の多さ』などがあるが、大人のADHDになると『直接的なADHDの多動・衝動・不注意の症状』は少なくなってくる特徴がある。
大人のADHDでは『直接的なADHDの症状』よりも『間接的な対人関係のトラブル・仕事のミスや非効率・家事育児や片付けができない・職業的な不利益』のほうが多くなってくる傾向がある。大人のADHDは以下のように『職場・学校・家庭・対人関係』などの領域においてさまざまなトラブルや不適応をもたらすという厄介なところがある。
大人(青年期・成人期)のADHDが各領域で起こす恐れがある問題の特徴
職場・学校で起こる問題
○そわそわして落ち着かない
○思ったことをすぐに言動に移してしまい、不適切な発言をしやすい。
○ケアレスミスが多くて集中できない。
○貧乏ゆすりや指で机を叩いたりする行動を繰り返しする。
○物忘れが多くて、物を良く無くす。
○段取りができずに仕事が遅れたり、約束を守れない。
家庭で起こる問題
○家事が非効率的で遅く、家事以外のことに注意が逸れて集中できない。
○部屋が片付けられず、物が散乱している。
○段取りが悪くて外出するのに時間がかかりすぎる。
対人関係で起こる問題
○一方的に自分のことばかり話す、過剰におしゃべりばかりをする。
○約束を忘れたり、約束を守れなかったりする。
○人の話を集中して聞くことができず上の空である。
○思いついたことをすぐに衝動的に言動にしてしまう、不適切な発言をする。
○飲食店や図書館などでじっとして落ち着いて過ごすのがとても苦手である。
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