日本国憲法 第四章 国会 第57条〜第64条

アメリカ合衆国や中国と戦った『アジア太平洋戦争』に敗れた日本は、1945年(昭和20年)8月15日に『日本軍の無条件降伏・日本の民主主義的政体(国民主権)の強化・基本的人権の尊重・戦争を起こさない平和主義』などを要求する『ポツダム宣言』を受諾した。明治期の1889年(明治22年)に公布された『大日本帝国憲法』は立憲君主制を規定する近代的な欽定憲法(君主・元首が作成する憲法)であったが、『天皇主権(天皇の大権事項)・国民を臣民(家臣)とする天皇への従属義務・国家主義による人権の制限可能性・国体思想による言論出版の自由の弾圧』などがあり、アメリカが日本に要求する近代的な自由民主主義や個人の人権保護とは相容れない欽定憲法であった。

ポツダム宣言受諾の無条件降伏によって、日本政府はGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の助言と監督を受けながら、『憲法改正草案要綱』を作成して大日本帝国憲法73条の憲法改正手続の条文に従った上で、1946年(昭和21年)11月3日に現行の『日本国憲法』を公布し、翌1947年(昭和22年)5月3日に施行した。1946年(昭和21年)5月16日に開かれた『第90回帝国議会』で、日本国憲法は審議を受けているため、GHQが無理矢理に押し付けた憲法というよりは、日本が『敗戦の講和条件・厭戦(疲弊)と平和希求の民意』に従って正規の手続きを経て改正された憲法である。

日本国憲法は『個人の尊厳原理』に立脚することで、国家主義(全体主義)や専制権力の抑圧から国民を守る立憲主義の構成を持っており、『国民主権・基本的人権の尊重・平和主義(戦争放棄)』の基本的な三原則(三大要素)を掲げている。天皇は天皇大権(政治権力)を持たずに国民統合の象徴になるという『象徴天皇制+国民主権(民主主義)』が採用され、国民はすべて個人として尊重され各種の憲法上の権利(自由権)が保障されるという『基本的人権の尊重』が謳われた。過去の戦争の惨禍に学び、戦争の放棄と軍隊(戦力)の不保持を宣言する『平和主義』も掲げられた。

ここでは、『日本国憲法』の条文と解釈を示していく。

参考文献(ページ末尾のAmazonアソシエイトからご購入頂けます)
『日本国憲法』(小学館),『日本国憲法』(講談社学術文庫),伊藤真『日本国憲法』(ハルキ文庫),『英文対訳日本国憲法』(ちくま学芸文庫)

第四章 国会(続き)

第五七条

1.両議院の会議は、公開とする。但し、出席議員の三分の二以上の多数で議決したときは、秘密会を開くことができる。

2.両議院は、各々その会議の記録を保存し、秘密会の記録の中で特に秘密を要すると認められるもの以外は、これを公表し、且つ一般に頒布しなければならない。

3.出席議員の五分の一以上の要求があれば、各議員の表決は、これを会議録に記載しなければならない。

第五八条

1.両議院は、各々その議長その他の役員を選任する。

2.両議院は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め、又、院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。但し、議員を除名するには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。

第五九条

1.法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。

2.衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多数で再び可決したときは、法律となる。

3.前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない。

4.参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。

[解釈]

第57条は、両議院の議会の公開原則について述べた後に、『出席議員の3分の2以上の多数』の同意があれば、非公開の『秘密会』を開けるとしている。両議院はその会議の記録を保存しなければならず、秘密会であっても『特別な秘密を要する事項』以外は、原則としてその内容を公表して一般に頒布できるようにしなければならない。出席議員の5分の1以上の要求によって、会議録に『各議院の表決(記名の表決)』を記載しなければならないとする定めもある。

第58条は、両議院で議長とその他の役員を選任することを定め、両議院が保有する『懲罰権』についても明記されている。出席議員の3分の2以上の同意によって、問題のある議員を除名処分とする懲罰を科すことができる。

第59条は、提出された法案が有効な法律となるプロセスについて規定しており、『両議院における法案の可決(出席議員の過半数の賛成)』によって法律として成立する。衆議院で可決された法案が参議院で否決されたとしても、衆議院の3分の2以上の賛成を得ることができれば、その法案を強制的に『再可決』することができる。

これを『衆議院の優越』と呼んでおり、衆議院の多数派政党と参議院の多数派政党が異なる『ねじれ国会』において、この衆議院の優越が使われることが多い。衆議院は衆参で議事が紛糾した時に『両院協議会』を開催する権限を持ち、参議院が衆院で可決された法案を『60日以内』に議決しない時には、その法案を参議院が否決したものと見なして、衆院は参院の実際の議決を待たずに『再可決』に掛けることができる。

第四章 国会(続き)

第六○条

1.予算は、さきに衆議院に提出しなければならない。

2.予算について、参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。

第六一条

条約の締結に必要な国会の承認については、前条第二項の規定を準用する。

第六二条

両議院は、各々国政に関する調査を行ひ、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。

第六三条

内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。

第六四条

1.国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。

2.弾劾に関する事項は、法律でこれを定める。

[解釈]

第60条は、予算審議に関する『衆議院の先議権』について規定しており、これも衆議院の優越の一つである。更に衆議院は参議院が予算案を否決しても両院協議会を開いて協議することができ、参議院が国会休会中の期間を除いて30日以内に予算案を議決しない時には、衆議院の予算案が自動的に可決されることになる。第61条では、『予算案』と同じく『外国との条約締結』においても、衆議院の可決が優先されると定めている。

第62条は、両議院が持つ『国政調査権』に関する規定であり、両議院は『証人の出頭・証言・記録の提出』を要求することが可能である。第63条は、内閣総理大臣及び国務大臣は『国会議員としての議席』を持っていなくても議院に出席できるとしており、また答弁・説明のために議院から出席を求められた時には、それを拒否することはできず出席しなければならないと定めている。

第64条は、裁判官を罷免するための『弾劾裁判所』についての規定であり、弾劾裁判所は両議院の議員によって構成されるが、裁判官が罷免される事由については、『裁判官弾劾法の第2条』に規定されている。裁判官弾劾法の第2条には、『1.職務上の義務に著しく違反し、又は職務を甚だしく怠つたとき。2.その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があつたとき』に弾劾することが可能とある。

Copyright(C) 2013- Es Discovery All Rights Reserved