『史記 商君列伝 第八』の現代語訳・抄訳:2

中国の前漢時代の歴史家である司馬遷(しばせん,紀元前145年・135年~紀元前87年・86年)が書き残した『史記』から、代表的な人物・国・故事成語のエピソードを選んで書き下し文と現代語訳、解説を書いていきます。『史記』は中国の正史である『二十四史』の一つとされ、計52万6千5百字という膨大な文字数によって書かれている。

『史記』は伝説上の五帝の一人である黄帝から、司馬遷が仕えて宮刑に処された前漢の武帝までの時代を取り扱った紀伝体の歴史書である。史記の構成は『本紀』12巻、『表』10巻、『書』8巻、『世家』30巻、『列伝』70巻となっており、出来事の年代順ではなく皇帝・王・家臣などの各人物やその逸話ごとにまとめた『紀伝体』の体裁を取っている。このページでは、『史記 商君列伝 第八』の2について現代語訳を紹介する。

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参考文献
司馬遷『史記 全8巻』(ちくま学芸文庫),大木康 『現代語訳 史記』(ちくま新書),小川環樹『史記列伝シリーズ』(岩波文庫)

[『史記 商君列伝 第八』のエピソードの現代語訳:2]

孝公が衛鞅(商鞅)を任用すると、鞅は国法を変えようとしたが、天下の人々が自分を否定することを恐れた。衛鞅は言った。「疑わしい行為には名声は無く、疑わしい事業には成功はない。更にまた、人より高い基準で行動する者は、世の中に受け容れられず、独りで思慮深くある者は、必ず民から(理解されずに)軽く扱われます。愚者は既になった事の道理さえ分かりませんが、賢者はまだ兆しさえないものについても見抜きます。民は、物事を始める時に共に考えるべき相手ではなく、物事が成った後に共に楽しむべき相手なのです。至徳を論ずる者は俗説には調和せず、大功を成し遂げる者は大衆と語り合ったりはしません。だから、聖人は国を強くする方法があれば、旧習に頼らずに導入し、民に利益をもたらす方法があれば、因循とした礼にも従わないのです」

孝公は言った。「素晴らしい」

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甘龍(かんりゅう)が反対して言った。「それは違います。聖人は民俗を変えずに教化し、賢者は法を変えずに統治するものです。民の習俗に従って教えれば、苦労なしに成功することができ、今までの法に従って治めれば、官吏はその法に習熟しているし民も安心するのです」

衛鞅は言った。「甘龍の言う言説は、世俗の説に過ぎません。常人は従来の習俗に安心し、学者は自分が学んできたことに溺れるものです。この両者に官吏として法を守らせるのは良いのですが、法の外にある法を越えた問題については論じることができません。三代(夏・殷・周)はそれぞれ礼制が異なっていましたがすべて王者となり、五伯(斉の桓公・宋の襄公・晋の文公・秦の穆公・楚の荘王の五覇)はそれぞれ法が異なっていましたがすべて覇者になりました。智者は法を作り、愚者は法に支配されます。賢者は礼を更新しますが、不肖者は礼に拘束されます」

杜摯(とし)が言った。「利益が百倍にならなければ法を変えず、効果が十倍にならなければ器を変えないものです。古法に従えば過ちはなく、従来の礼に従えば不正(邪悪)はありません」

衛鞅は言った。「世の中を統治する方法は一つだけではありません。国に便益をもたらすならば古法に依拠しなくても良いのです。だから殷の湯王・周の武王は古法に従わずに王者となり、夏の桀王・殷の紂王は礼を変えずに滅亡したのです。古法に反するからダメなのではなく、因循な礼に従うものの利益が多いわけではないのです」

孝公は言った。「よろしい」。衛鞅を左庶長(秦の爵位)に任命して、遂に変法の法令を定めた。

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十戸あるいは五戸を一組(隣組)にして民を編成し、お互いに監視させて罪を犯せば連坐とした。悪事を告発(密告)しない者は腰斬の刑罰に処し、悪事を告発した者には敵の首を斬った者と同じ報償を与え、悪事を隠匿した者には敵に投降した者と同じ罰を与える。

二人以上の男子を持つ民で家を分家しない者は、その税金を二倍とする。軍功がある者は、その功績に従って爵位を与える。私的な闘争をする者は、その軽重に応じて刑罰の大小を決める。民は力を合わせて、農耕・紡績を本業とし、米・粟や布帛(ぬの)を多く献上する者は労役を免除する。商工業で利益ばかり求める者、怠惰で貧しい者は、妻子を没収して奴婢とする。

公室(王室)の一員でも軍功がない者は、調べてその族籍を除く。家柄の尊卑、爵位・俸禄の等級を明らかにして、順序を秩序正しいものとする。私有の田畑・宅地の広さ、臣下・妻妾の数、衣服の種類は家柄に応じてその等級を定め、分際を越えないようにする。功労者は豪華な暮らしをしても良いが、功績のない者は富裕であっても華やかな暮らしは許されない。

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