『枕草子』の現代語訳:67

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清少納言(康保3年頃(966年頃)~万寿2年頃(1025年頃))が平安時代中期に書いた『枕草子(まくらのそうし)』の古文と現代語訳(意訳)を掲載していきます。『枕草子』は中宮定子に仕えていた女房・清少納言が書いたとされる日本最古の女流随筆文学(エッセイ文学)で、清少納言の自然や生活、人間関係、文化様式に対する繊細で鋭い観察眼・発想力が反映された作品になっています。

このウェブページでは、『枕草子』の『卯月のつごもり方に、初瀬に詣でて、淀の渡りといふものをせしかば~』の部分の原文・現代語訳を紹介します。

参考文献
石田穣二『枕草子 上・下巻』(角川ソフィア文庫),『枕草子』(角川ソフィア文庫・ビギナーズクラシック),上坂信男,神作光一など『枕草子 上・中・下巻』(講談社学術文庫)

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[古文・原文]

110段

卯月(うづき)のつごもり方に、初瀬に詣でて、淀の渡りといふものをせしかば、舟に車をかき据ゑて行くに、菖蒲(しょうぶ)、菰(こも)などの末短く見えしを取らせたれば、いと長かりけり。菰積みたる舟のありくこそ、いみじうをかしかりしか。「高瀬の淀に」とは、これを詠みけるなめりと、見えて。

三日、帰りしに、雨の少し降りしほど、菖蒲刈るとて、笠のいと小さきを着つつ、脛(はぎ)いと高き男の童などのあるも、屏風の絵に似て、いとをかし。

111段

常より異(こと)に聞ゆるもの

元三(がんざん)の車の音。また鶏の声。暁のしはぶき。ものの音(ね)はさらなり。

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[現代語訳]

110段

4月の終わり頃に、初瀬観音にお参りして、淀の渡りというところを初めて渡ったところ、舟に車を載せて渡っていくのに、菖蒲や菰などの先が少しだけ水面から出ていたのを取らせたら、実際はとても長いものであった。菰を積んだ舟が行き来する様子は、とても風情があるものだ。歌に「高瀬の淀に」とあるのは、この風景を詠んだのだろうという風に見えて。

五月三日、帰りに通ったところ、雨が少し降っていたのだが、5日の日のための菖蒲を刈り取るということで、とても小さい笠をかぶって、脛(ふくらはぎ)を高く出している男の子などの姿が見えるのも、屏風に描かれた絵に似ていて、非常に趣きがある。

111段

いつもより違ったものに聞こえるもの

正月元旦に通る車の音。また元旦に鳴き叫ぶ鶏の声。明け方に聞こえる咳払い。明け方に聞こえる楽器の音色は更に言うまでもない。

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[古文・原文]

112段

絵に描き劣りするもの

なでしこ。菖蒲(しょうぶ)。桜。物語にめでたしといひたる男、女の容貌(かたち)。

113段

描きまさりするもの

松の木。秋の野。山里。山道。

114段

冬は、いみじう寒き。夏は、世に知らず暑き。

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[現代語訳]

112段

絵に描くと見劣りするもの

なでしこの花。菖蒲(しょうぶ)の草木。桜の花。物語では素晴らしいと言われている男、女の想像上の容貌。

113段

絵に描くと見栄えがするもの

松の木。秋の野。山里。山道。

114段

冬は非常に寒いのが良い。夏は今までないほどに暑いのが良い。冬と夏の季節の大きな変化を『四季の情趣』として味わう清少納言のセンスや感受性が示されている。

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