『枕草子』の現代語訳:128

清少納言(康保3年頃(966年頃)~万寿2年頃(1025年頃))が平安時代中期に書いた『枕草子(まくらのそうし)』の古文と現代語訳(意訳)を掲載していきます。『枕草子』は中宮定子に仕えていた女房・清少納言が書いたとされる日本最古の女流随筆文学(エッセイ文学)で、清少納言の自然や生活、人間関係、文化様式に対する繊細で鋭い観察眼・発想力が反映された作品になっています。

このウェブページでは、『枕草子』の『ただ過ぎに過ぐるもの  帆かけたる舟。人の齢。春、夏、秋、冬~』の部分の原文・現代語訳を紹介します。

参考文献
石田穣二『枕草子 上・下巻』(角川ソフィア文庫),『枕草子』(角川ソフィア文庫・ビギナーズクラシック),上坂信男,神作光一など『枕草子 上・中・下巻』(講談社学術文庫)

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[古文・原文]

245段

ただ過ぎに過ぐるもの

帆かけたる舟。人の齢(よわい)。春、夏、秋、冬。

246段

ことに人に知られぬもの

凶会日(くゑにち)。人の女親の老いにたる。

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[現代語訳]

245段

あっという間に過ぎ去っていくもの

帆をかけた舟。人の年齢。春、夏、秋、冬の四季。

246段

特別に人に注意されないもの

凶会日。人の女親(母)が年老いていくこと。

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[古文・原文]

247段

文(ふみ)言葉なめき人こそ、いとにくけれ。世をなのめに書き流したる言葉のにくきこそ。さるまじき人のもとに、あまりかしこまりたるも、げにわろきことなり。されど、わが得たらむはことわり、人のもとなるさへ、にくくこそあれ。

おほかた、さし向ひてもなめきは、などかく言ふらむと、かたはらいたし。まいて、よき人などをさ申す者は、いみじうねたうさへあり。田舎びたる者などの、さあるは、烏滸(おこ)にていとよし。

男主(おとこしゅう)などなめく言ふ、いとわるし。わが使ふ者などの、「なにとおはする」「のたまふ」など言ふ、いとにくし。ここもとに「はべり」などいふ文字をあらせばやと聞くこそ、多かれ。さも言ひつべき者には、「あな似げな。愛敬(あいぎょう)な、などかう、この言葉はなめき」と言へば、聞く人も、言はるる人も笑ふ。かうおぼゆればにや、「あまり見そす」など言ふも、人わろきなるべし。

殿上人、宰相などを、ただ名のる名を、いささかつつましげならず言ふは、いとかたはなるを、きようさ言はず、女房の局なる人をさへ、「あのおもと」「君」など言へば、めづらかにうれしと思ひて、ほむることぞ、いみじき。

殿上人、君たちを、御前よりほかにては、官(つかさ)をのみ言ふ。また、御前にては、おのがどちものを言ふとも、きこしめすには、などてか「まろが」などは言はむ。さ言はむにかしこく、言はざらむにわろかるべきことかは。

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[現代語訳]

247段

手紙の言葉が失礼な人は、本当に憎たらしい。世の中をいい加減に考えて書き流した言葉の腹立たしいことよ。それほど身分の高くない人の所に、あまりに畏まった手紙を送るのも、本当に好ましくないことである。しかし、自分が無礼な手紙を受け取った時にはもちろん、人の所に来たそんな手紙さえ、憎たらしく思えるのだ。

大体、対面して話しても言葉が失礼な者は、どうしてこんな言い方をするのかと、不快な思いをする。まして、高貴な人についてそのように無礼なことを申す者は、強く恨みたくさえなる。田舎びた者などが、そんな無礼な感じなのは、はじめからバカに見えるのでまだ良いのだ。

男主人のことを軽んじて言うのは、とてもみっともない。自分が使っている者などが、「何とかでいらっしゃる」「おっしゃる」などと言うのは、とても憎たらしい。そこに「ございます」などという言葉を使わせたいなと思って聞くことが、多いのだ。そのように注意できる相手には、「あぁ、似つかわしくない。愛想のないことだ。どうしてこんなに、あなたの言葉使いは乱れているのでしょう。」と言うと、聞いている人も、言われている人も笑う。このように思うからだろうか、「あまりに世話を焼きすぎる」などと言うのも、人から見れば体裁が悪いのだろう。

殿上人や宰相などに対して、その人の実名を、まったく遠慮もせずに言うのは、とても好ましくないことなのだが、全くそんな言い方はせず、女房の局の下仕えの者にさえ、「あのお方」「君」などというと、珍しいので嬉しいと思って、その人を褒めることが甚だしくなる。

殿上人や若君たちを、御前以外の所では、官職の名だけを言う。また、御前では、自分たち同士で話をする時でも、それを帝がお聞きになっておられる場合には、どうして「まろが」などと言うだろうか。そう言うような人が偉くて、言わない人は悪いなどということがあるだろうか。

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