中国(中華人民共和国)の憲法 第三三条~第三六条

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中国憲法の『序言』では、中国が1840年以後の帝国主義列強による半植民地化の屈辱の歴史を、孫文の『辛亥革命(1911年)』と毛沢東・中国共産党の『共産主義革命(1949年)』によって乗り越え、中国人民が国家主権を取り戻したことが宣言されている。1949年の毛沢東の共産主義革命によって、中国人民が国家権力を掌握したとされる『中華人民共和国』が成立することになった。

社会主義によって運営される中華人民共和国では、資本家階級による労働者階級の搾取が消滅したと宣言され、人民を平等にするプロレタリアート独裁(労働者階級の独裁)が確立して生産手段が国有化された。共産主義革命は『帝国主義・封建主義・官僚主義の統治』を転覆させ、中国人民と人民解放軍は『帝国主義と覇権主義の侵略・破壊・挑発』に勝利するところとなった。

中国の全人民は社会主義と人民民主独裁制を堅持し、『マルクス・レーニン主義・毛沢東思想・トウ小平理論』を手引きとして、中国共産党の領導に従うものとする。台湾は中華人民共和国の神聖な領土の一部であり、祖国統一は中国人民の職責である。中国は全国の各民族人民が共同して創建された統一的な多民族国家である。本憲法は国家の根本法であり、最高の法的効力を有している。

ここでは、『中華人民共和国憲法(中国憲法)』の条文と解釈を示していく。

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初宿正典, 辻村 みよ子『新解説世界憲法集 第2版』(三省堂),高橋和之『世界憲法集』(岩波文庫),阿部照哉, 畑博行『世界の憲法集』(有信堂)

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第二章 市民の基本的権利及び義務

第三三条(法律の前の平等、人権・権利及び義務)

1.およそ中華人民共和国国籍を有する人は、中華人民共和国市民である。

2.中華人民共和国市民は、法律の前において一律に平等である。

3.国家は、人権を尊重し、及び、保障する。

4.いかなる市民も、憲法及び法律が定める権利を享有し、同時に、憲法及び法律が定める義務を履行しなければならない。

[解釈]

中華人民共和国に対しては、欧米諸国から『人権侵害の問題』が指摘されて非難されることも多いが、中国憲法においては中国人は人権・権利・義務を有する『近代市民』として定義されている。

中国は国家として憲法及び法律が定めている『人権・権利』を尊重して保護するが、同時に共産党主導で立法した法律が定める『義務』を中国市民は履行しなければならないとされている。近代的な立憲主義の上では、『市民の人権・権利の保護』に重点が置かれるべきだが、中国の実情では『国家・共産党の法律による義務の強制』のほうに重点があるように感じられる。

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第三四条(選挙権・被選挙権)

中華人民共和国の満18歳以上の市民は、民族、人種、性別、職業、出身家庭所属階級、宗教信仰、教育水準、財産状況、居住期間を分かたず、すべて選挙権及び被選挙権を有する。但し、法律に従って、政治的権利を剥奪されている人を除く。

[解釈]

中華人民共和国では、満18歳以上のすべての市民(国民)に対して『選挙権+被選挙権』が付与されていて、形式的には近代的な『男女の普通選挙』が実現されていると言える。中国では選挙権・被選挙権の付与に際して、『民族・人種・性別・職業・身分・教育・宗教・財産などによる差別待遇』は禁止されている。

しかし、但し書きとして『法律に従って政治的権利を剥奪されている者を除く』とあり、中国の共産党一党体制を否定しようとする民主主義活動家や人権擁護の運動家などは選挙権を剥奪されてしまう恐れがある。

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第三五条(表現の自由)

中華人民共和国は、言論、出版、集会、結社、行進、示威の自由を有する。

[解釈]

中華人民共和国は現実には『反体制派の言論活動・宣伝広告・集会結社』などを厳しく規制したり取り締まって弾圧したりしているが、憲法条文では『ほぼ完全な言論・出版・思想・結社・市民運動(デモ活動)の自由』が保障されることにはなっている。

この『言論出版・表現・デモの自由』を定めた35条も、中国の抱える『理想と現実の矛盾』をそのまま象徴する条文になってしまっているところがある。

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第三六条(宗教信仰の自由)

1.中華人民共和国市民は、宗教信仰の自由を有する。

2.いかなる国家機関、社会団体及び個人も、市民に宗教を信仰すること、または宗教を信仰しないことを強制してはならず、宗教を信仰する市民及び宗教を信仰しない市民を差別してはならない。

3.国家は、正常な宗教活動を保護する。いかなる人も、宗教を利用して社会秩序を破壊し、市民の身体の健康を害し、国家教育制度を妨害する活動を行ってはならない。

4.宗教団体及び宗教事務は、外国勢力の支配を受けない。

[解釈]

社会主義・共産主義の社会や思想を研究したカール・マルクスは、『宗教はアヘンである』と定義して嫌っていたが、中華人民共和国では『宗教信仰の自由』が建前の上ではあるが保障されている。

中国共産党の政治思想や政策方針が、それに表立って反対することが許されない宗教的ドグマのようになっているという批判もあり得るが、中国国内では『社会主義体制の転覆・共産党体制への反抗・社会秩序の破壊』などを伴わない限りにおいて宗教信仰の自由が認められているのである。

中国では『法輪功(ほうりんこう,李洪志が創始した気功の修練・歴史の正しい認識を目的とする宗教団体)』の弾圧事件も起こっている。法輪功の修行者・信者の一部には、中国共産党が主導する独裁体制を否定する思想を持っている者や民主化を要求する者がいるとされ、中国政府は法輪功を『反体制勢力』になりかねない危険な宗教組織として警戒している。

中国政府は法輪功は日本におけるオウム真理教に近い『邪教のカルト宗教』であると厳しく非難している。法輪功の思想や教義は、社会秩序を混乱させたり家族の絆・人間的情緒を破壊させる恐れがあるとして、法輪功の宗教信仰の自由は認めないという姿勢を見せている。

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