日本国憲法 第五章 内閣 第65条〜第70条

アメリカ合衆国や中国と戦った『アジア太平洋戦争』に敗れた日本は、1945年(昭和20年)8月15日に『日本軍の無条件降伏・日本の民主主義的政体(国民主権)の強化・基本的人権の尊重・戦争を起こさない平和主義』などを要求する『ポツダム宣言』を受諾した。明治期の1889年(明治22年)に公布された『大日本帝国憲法』は立憲君主制を規定する近代的な欽定憲法(君主・元首が作成する憲法)であったが、『天皇主権(天皇の大権事項)・国民を臣民(家臣)とする天皇への従属義務・国家主義による人権の制限可能性・国体思想による言論出版の自由の弾圧』などがあり、アメリカが日本に要求する近代的な自由民主主義や個人の人権保護とは相容れない欽定憲法であった。

ポツダム宣言受諾の無条件降伏によって、日本政府はGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の助言と監督を受けながら、『憲法改正草案要綱』を作成して大日本帝国憲法73条の憲法改正手続の条文に従った上で、1946年(昭和21年)11月3日に現行の『日本国憲法』を公布し、翌1947年(昭和22年)5月3日に施行した。1946年(昭和21年)5月16日に開かれた『第90回帝国議会』で、日本国憲法は審議を受けているため、GHQが無理矢理に押し付けた憲法というよりは、日本が『敗戦の講和条件・厭戦(疲弊)と平和希求の民意』に従って正規の手続きを経て改正された憲法である。

日本国憲法は『個人の尊厳原理』に立脚することで、国家主義(全体主義)や専制権力の抑圧から国民を守る立憲主義の構成を持っており、『国民主権・基本的人権の尊重・平和主義(戦争放棄)』の基本的な三原則(三大要素)を掲げている。天皇は天皇大権(政治権力)を持たずに国民統合の象徴になるという『象徴天皇制+国民主権(民主主義)』が採用され、国民はすべて個人として尊重され各種の憲法上の権利(自由権)が保障されるという『基本的人権の尊重』が謳われた。過去の戦争の惨禍に学び、戦争の放棄と軍隊(戦力)の不保持を宣言する『平和主義』も掲げられた。

ここでは、『日本国憲法』の条文と解釈を示していく。

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『日本国憲法』(小学館),『日本国憲法』(講談社学術文庫),伊藤真『日本国憲法』(ハルキ文庫),『英文対訳日本国憲法』(ちくま学芸文庫)

第五章 内閣

第六五条

行政権は、内閣に属する。

第六六条

1.内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。

2.内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。

3.内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。

第六七条

1.内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先だつて、これを行ふ。

2.衆議院と参議院とが異なつた指名の議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は衆議院が指名の議決をした後、国会休会中の期間を除いて十日以内に、参議院が、指名の議決をしないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。

[解釈]

第65条は、内閣が行政機関を統括する『行政権の最高機関』であることを規定した条文であるが、内閣は『行政権を独占する機関』ではない。公正取引委員会などの独立行政委員会は内閣から独立しているが違憲な存在ではなく、『内閣による行政の独裁・役割分担における不正』を防ぐ意図から独立的な行政機関を設置することもできる。

第66条は、『議院内閣制』の基本的な枠組みを定めたものである。内閣は内閣総理大臣と国務大臣(閣僚)によって構成されており、『文民統制(シビリアンコントロール)』を徹底するため、内閣の構成員は『武官』ではなく『文民』でなければならない。内閣は議会の支持を受けて組閣され、国会に対して連帯責任を負う存在である。

第67条は、国会が内閣総理大臣(首相)の指名権を有すること、国会の多数派政党から首相が選出されることになる議院内閣制を規定している。国家(政治)のリーダーである内閣総理大臣の指名は迅速に行われなければならないので、他の案件に先立って行われる。 内閣総理大臣は現職の国会議員の中から選出される。参議院が衆議院とは異なる人物を総理大臣として指名しても、『衆議院の優越』の規定があるので、参議院が反対しても(10日以内に議決しない戦術を取っても)衆議院の指名が国会の最終的な議決と見なされる。内閣総理大臣は国会が『指名権』を持っているが、『任命権』については天皇が行使する国事行為となっている。

第五章 内閣(続き)

第六八条

1.内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。但し、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。

2.内閣総理大臣は、任意に国務大臣を罷免することができる。

第六九条

内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。

第七○条

内閣総理大臣が欠けたとき、又は衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があつたときは、内閣は、総辞職をしなければならない。

[解釈]

第68条は、内閣の長である内閣総理大臣に、『閣僚(大臣)の人事権・任免権』があることを規定しているが、国務大臣の過半数は国会議員の中から選ばなければならない。内閣総理大臣は自由に国務大臣(閣僚)を罷免することが可能である。

第69条は、『内閣不信任案』に関する規定であり、衆議院において内閣不信任案が可決された場合には、『10日以内の解散総選挙』か『内閣の総辞職』かのいずれかをしなければならない。参議院の内閣不信任案に関しては、憲法に規定される解散の法的な強制権はないとされる。

第70条は、現職の内閣総理大臣が死去したり職務不能な状態に陥った場合、そして、衆議院議員総選挙(解散総選挙)の後に初めて国会が召集された場合には、内閣は総辞職をしなければならないと定めている。

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