『竹取物語』の原文・現代語訳16

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『竹取物語』は平安時代(9~10世紀頃)に成立したと推定されている日本最古の物語文学であり、子ども向けの童話である『かぐや姫』の原型となっている古典でもあります。『竹取物語』は、『竹取翁の物語』『かぐや姫の物語』と呼ばれることもあります。竹から生まれた月の世界の美しいお姫様である“かぐや姫”が人間の世界へとやって来て、次々と魅力的な青年からの求婚を退けるものの、遂には帝(みかど)の目にも留まるという想像力を駆使したファンタジックな作品になっています。

『竹取物語』は作者不詳であり成立年代も不明です。しかし、10世紀の『大和物語』『うつほ物語』『源氏物語』、11世紀の『栄花物語』『狭衣物語』などに『竹取物語』への言及が見られることから、10世紀頃までには既に物語が作られていたと考えられます。このウェブページでは、『さて、かぐや姫、かたちの世に似ずめでたきことを~』の部分の原文・現代語訳(意訳)を記しています。

参考文献
『竹取物語(全)』(角川ソフィア文庫・ビギナーズクラシック),室伏信助『新装・竹取物語』(角川ソフィア文庫),阪倉篤義 『竹取物語』(岩波文庫)

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[古文・原文]

さて、かぐや姫、かたちの世に似ずめでたきことを、帝聞こしめして、内侍(ないし)中臣房子(なかとみのふさこ)にのたまふ、『多くの人の身を徒ら(いたづら)になしてあはざなるかぐや姫は、いかばかりの女ぞと、まかりて見て参れ』とのたまふ。房子、承りてまかれり。

竹取の家に、かしこまりて請じ(しょうじ)入れて、会へり。嫗(おうな)に内侍のたまふ、『仰せ言に、かぐや姫のかたち優におはすなり。よく見て参るべき由のたまはせつるになむ参りつる』と言へば、『さらば、かく申し侍らむ』と言ひて入りぬ。

かぐや姫に、『はや、かの御使ひに対面し給へ』と言へば、かぐや姫、『よきかたちにもあらず、いかでか見ゆべき』と言へば、『うたてものたまふかな。帝の御使ひをばいかでかおろかにせむ』と言へば、かぐや姫答ふるやう、『帝の召してのたまはむこと、かしこしとも思はず』と言ひて、更に見ゆべくもあらず。産める子のやうにあれど、いと心恥づかしげに、おろそかなるやうに言ひければ、心のままにもえ責めず。嫗、内侍のもとに帰り出でて、『口惜しくこの幼き者はこはく侍るものにて、対面すまじき』と申す。

内侍、『かならず見奉りて参れと仰せ言ありつるものを、見奉らではいかでか帰り参らむ。国王の仰せ言を、まさに世に住み給はむ人の、承り給はでありなむや。言はれぬことなし給ひそ』と、詞(ことば)恥づかしく言ひければ、これを聞きて、ましてかぐや姫聞くべくもあらず。

『国王の仰せ言を背かば、はや殺し給ひてよかし』と言ふ。

[現代語訳]

さて、かぐや姫の容姿が極めて美しいことは、帝の耳にも入るようになり、帝は内侍(女性官僚)である中臣房子に、『多くの求婚者の男を破滅させてなお結婚を拒否しているかぐや姫とは、どれほど美しい女なのか。行って見てこい。』とおっしゃって命令した。中臣房子はその命令を承って退出した。

竹取の翁(おじいさん)の家に房子が出向くと、翁は畏まってお迎えした。内侍は嫗(おばあさん)に、『かぐや姫の美貌は他に並ぶものがない美しさだと世の中で評されているが、帝がその美しい姿をよく見て確認してこいとおっしゃるので、こちらに参上致しました。』と言うと、『それならば、姫にそうお伝えしましょう。』と答えて嫗は姫の部屋に入っていった。

嫗(おばあさん)がかぐや姫に、『早く帝の使者に対面しなさい。』と言うと、かぐや姫は『私はそれほどの美人ではありません。どうして帝の使者にお会いすることなどできるでしょうか。』と答えた。おばあさんが『困ったことを言いますね。帝の使者をどうして粗末に扱うことができるでしょうか。』と言うと、かぐや姫は『帝が私を召し出そうとおっしゃっていることなど、畏れ多いとは思いません。』と逆らって、内侍に会おうとはしない。

おばあさんはかぐや姫を自分の産んだ子のように思っていたが、今は打ち解けて話すこともできない感じで、帝の使者を疎かにするような物言いなので、思うように責めることもできない。おばあさんは内侍の元に帰って、『残念ですが私たちの未熟な娘は強情な性格でして、お会いできそうにはありません。』と申し上げた。

内侍は、『必ず会って見て来いという帝のご命令なのに、姫を見ないままでどうして帰れるでしょうか。国王のご命令なのに、この国に住む人間が、その命令を聞かなくても良いというのでしょうか。言われたことをきちんとしなさい。』と、厳しい口調の言葉で言ったが、かぐや姫はこれを聞いても、受け入れる様子はない。

『国王の命令に背いているというのであれば、早く殺して下さっても構いませんよ。』とかぐや姫は(開き直った感じ)で言うばかりである。

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[古文・原文]

この内侍帰り参りて、この由(よし)を奏す。帝聞こしめして、『多くの人殺してける心ぞかし』とのたまひて、止みにけれど、なほおぼしおはしまして、『この女のたばかりにや負けむ』とおぼして、仰せ給ふ。

『なんぢが持ちて侍るかぐや姫奉れ。顔かたちよしと聞こしめして、御使ひ賜び(たび)しかど、かひなく見えずなりにけり。かくたいだいしくやは習はすべき』と仰せらるる。翁かしこまりて御返事申すやう、『この女(め)の童(わらは)は、絶えて宮仕へ仕うまつるべくもあらず侍るを、もてわづらひ侍り。さりとも、まかりて仰せ給はむ』と奏す。

これを聞こしめして、仰せ給ふ、『などか、翁の生(お)ほし立てたらむものを、心に任せざらむ。この女もし奉りたるものならば、翁に冠を、などか賜はせざらむ』

翁、喜びて、家に帰りて、かぐや姫に語らふやう、『かくなむ帝の仰せ給へる。なほやは仕うまつり給はぬ』と言へば、かぐや姫答へて言はく、『もはら、さやうの宮仕へつかうまつらじと思ふを、強ひて仕うまつらせ給はば、消え失せなむず。御官(みつかさ)・冠(かうぶり)仕うまつりて、死ぬばかりなり』

翁いらふるやう、『なし給ひそ。冠も、我が子を見奉らでは、何にかはせむ。さはありとも、などか宮仕へをし給はざらむ。死に給ふべきやうやあるべき』と言ふ。

『なほそらごとかと、仕うまつらせて、死なずやあると見給へ。あまたの人の、志おろかならざりしを、空しくなしてこそあれ、昨日今日帝ののたまはむことにつかむ、人聞きやさし』と言へば、翁、答へて言はく、『天下のことは、とありとも、かかりとも、御命の危ふさこそ大きなる障りなれば、なほ仕うまつるまじきことを、参りて申さむ』とて、参りて申すやう、『仰せの事のかしこさに、かの童を参らせむとて仕うまつれば、「宮仕へに出だし立てば死ぬべし」と申す。造麻呂(みやっこまろ)が手に産ませたる子にてもあらず。昔、山にて見つけたる。かかれば心ばせも世の人に似ず侍る』と奏せさす。

[現代語訳]

この内侍中臣房子が宮中に帰ってから、翁の家での経緯を申し上げた。帝はそれを聞かれて、『多くの男を殺したという強情な性格だけのことはあるな。』とおっしゃってその場を収めた。だが、やはりかぐや姫のことを忘れることができず、『この女の謀略に負けて諦めてたまるか。』と思って、竹取の翁(おじいさん)にこう命令した。

『お前が育てているかぐや姫を差し出せ。容姿が非常に美しいという噂を聞いて、召し出しの使者を遣わしたのだが、その甲斐もなく会うことが出来なかった。このような(帝の命令をおざなりにする)怠慢な状態は改めるべきである。』とおっしゃった。翁は恐縮して、『私たちの幼稚な娘は、まるで宮仕えをする気がありませんので、私たちも手こずっております。そんな状況ですが、帰って帝のご命令をかぐや姫に伝えて聞かせましょう。』と返事を申し上げた。

これを聞いた帝は、『お前が育ててきたのにどうして言う事を聞かせられないのか。もし私の元に差し出すことができれば、お前に(五位以上の冠位の貴族だけがかぶれる)冠とその地位を与えてやる。』とおっしゃった。

おじいさんは喜んで家に帰って、かぐや姫に『このように帝はおっしゃって下さっているのだ。それでもお前は宮仕えをしたくないというのかい。』と言うと、姫は『全くそのような宮仕えをしたいとは思わないのに、無理やりに宮仕えをさせるというのなら私は消え去ってしまいたいと思います。あなたに官位と冠が授けられるように宮中に仕えた後で死ぬだけのことです。』と答えた。

おじいさんは戸惑ってしまって、『そこまで言うならやめなさい。官位があっても、我が子を見ることができないというのであれば、一体何の役に立つだろうか。そうはいっても、どうしてそこまで宮仕えを嫌がるのだ。死ななければならないほどの理由があるようには思えないが。』と言った。

姫が『まだ私の言うことが嘘だと思うのなら、一度宮仕えをさせてみて、死ぬかどうかを見てみて下さい。私は多くの男性の熱心な求婚をことごとく断ってきたのです。それなのに、昨日今日で、帝がおっしゃっている事に従ってしまったら、世間から現金な女だと思われます。』と言うと、おじいさんは『世間の反応はどんなものであろうと構わないが、姫の命に危険があるということだけが、わしにとっての大きな気がかりである。やはり宮仕えはできないということを行って申しあげよう。』と言った。

おじいさんは宮中に参上して、『帝の畏れ多い言葉を頂き、娘を宮仕えさせようと何とか説得したのですが、「宮仕えをしたら死ぬ」と姫が申して聞きません。かぐや姫はこの造麻呂の本当の子ではなく、昔、山の中で見つけた子なのです。そのため、物事の考え方も世間一般の人とは全く違っているのでございます。』と申し上げた。

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