日本国憲法 第七章 財政 第83条〜第87条

アメリカ合衆国や中国と戦った『アジア太平洋戦争』に敗れた日本は、1945年(昭和20年)8月15日に『日本軍の無条件降伏・日本の民主主義的政体(国民主権)の強化・基本的人権の尊重・戦争を起こさない平和主義』などを要求する『ポツダム宣言』を受諾した。明治期の1889年(明治22年)に公布された『大日本帝国憲法』は立憲君主制を規定する近代的な欽定憲法(君主・元首が作成する憲法)であったが、『天皇主権(天皇の大権事項)・国民を臣民(家臣)とする天皇への従属義務・国家主義による人権の制限可能性・国体思想による言論出版の自由の弾圧』などがあり、アメリカが日本に要求する近代的な自由民主主義や個人の人権保護とは相容れない欽定憲法であった。

ポツダム宣言受諾の無条件降伏によって、日本政府はGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の助言と監督を受けながら、『憲法改正草案要綱』を作成して大日本帝国憲法73条の憲法改正手続の条文に従った上で、1946年(昭和21年)11月3日に現行の『日本国憲法』を公布し、翌1947年(昭和22年)5月3日に施行した。1946年(昭和21年)5月16日に開かれた『第90回帝国議会』で、日本国憲法は審議を受けているため、GHQが無理矢理に押し付けた憲法というよりは、日本が『敗戦の講和条件・厭戦(疲弊)と平和希求の民意』に従って正規の手続きを経て改正された憲法である。

日本国憲法は『個人の尊厳原理』に立脚することで、国家主義(全体主義)や専制権力の抑圧から国民を守る立憲主義の構成を持っており、『国民主権・基本的人権の尊重・平和主義(戦争放棄)』の基本的な三原則(三大要素)を掲げている。天皇は天皇大権(政治権力)を持たずに国民統合の象徴になるという『象徴天皇制+国民主権(民主主義)』が採用され、国民はすべて個人として尊重され各種の憲法上の権利(自由権)が保障されるという『基本的人権の尊重』が謳われた。過去の戦争の惨禍に学び、戦争の放棄と軍隊(戦力)の不保持を宣言する『平和主義』も掲げられた。

ここでは、『日本国憲法』の条文と解釈を示していく。

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『日本国憲法』(小学館),『日本国憲法』(講談社学術文庫),伊藤真『日本国憲法』(ハルキ文庫),『英文対訳日本国憲法』(ちくま学芸文庫)

第七章 財政

第八三条

国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。

第八四条

あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。

第八五条

国費を支出し、又は国が債務を負担するには、国会の議決に基くことを必要とする。

[解釈]

第83条は、国政運営のための財政は、主権者である国民を代表する国会の議決に基いて行われなければならないという原則を示した条文である。『財政』とは、国家が国政を継続して運営するために必要な財力を徴税・運用(投資)などで調達し、その歳入を予算案に基いて管理し処分(歳出)する一切の政治活動のことを指している。

第84条は、『租税・徴税』に関する憲法の規定であり、『租税法律主義の原則』を定めたものである。税制における課税対象・税率・納税方法・手続きについては、法律で明確に規定して厳格かつ公正に運用されなければならない。租税の賦課徴収には、国民の代表である議員が集まる国会が議決した法律が必要である。ただし、『官庁の行政通達による課税』の場合にも、通達が法律の正しい解釈に基づくものであれば合憲とされ、抽象的な租税に関する法律の解釈を行政官庁は部分的に行うことができるとされている。

第85条は、国の歳出(支出)や国債の発行(債務)には国会の議決が必要であることを明確に示している。日本の財政処理は、国民の代表である国会議員が議決する『国会』が中心になっており、ここでいう『国の債務』には国費支出のための損失補償・国公債の発行も含まれている。

第七章 財政(続き)

第八六条

内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。

第八七条

1.予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基いて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。

2.すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない。

[解釈]

第86条は、内閣が作成した国家予算案は、国会に提出して審議・議決を受けなければならないと定められている。予算案は内閣が作成するが、その決定権は国民の代表機関である国会が有しており、日本の財政・予算は『国会中心主義』で運営されている。内閣の国家予算案は、国会の議決があればその金額を増減させることが可能と解釈されている。

第87条は、『予備費』に関する規定である。国会財政の会計年度中に、予算外の国費の支出が生じた場合には、予備費を支出することができるが、この予備費は国会の議決に基づくもので、『内閣の責任』において支出されることになる。予備費の支出に対しては、事後的な『国会の承認』が必要であるが、その承認が得られなくても予備費そのものが削減されるわけではなく、ただ『内閣の責任問題』が発生するだけの影響に留まるとされる。

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