中国(中華人民共和国)の憲法 第四九条~第五二条

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中国憲法の『序言』では、中国が1840年以後の帝国主義列強による半植民地化の屈辱の歴史を、孫文の『辛亥革命(1911年)』と毛沢東・中国共産党の『共産主義革命(1949年)』によって乗り越え、中国人民が国家主権を取り戻したことが宣言されている。1949年の毛沢東の共産主義革命によって、中国人民が国家権力を掌握したとされる『中華人民共和国』が成立することになった。

社会主義によって運営される中華人民共和国では、資本家階級による労働者階級の搾取が消滅したと宣言され、人民を平等にするプロレタリアート独裁(労働者階級の独裁)が確立して生産手段が国有化された。共産主義革命は『帝国主義・封建主義・官僚主義の統治』を転覆させ、中国人民と人民解放軍は『帝国主義と覇権主義の侵略・破壊・挑発』に勝利するところとなった。

中国の全人民は社会主義と人民民主独裁制を堅持し、『マルクス・レーニン主義・毛沢東思想・トウ小平理論』を手引きとして、中国共産党の領導に従うものとする。台湾は中華人民共和国の神聖な領土の一部であり、祖国統一は中国人民の職責である。中国は全国の各民族人民が共同して創建された統一的な多民族国家である。本憲法は国家の根本法であり、最高の法的効力を有している。

ここでは、『中華人民共和国憲法(中国憲法)』の条文と解釈を示していく。

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初宿正典, 辻村 みよ子『新解説世界憲法集 第2版』(三省堂),高橋和之『世界憲法集』(岩波文庫),阿部照哉, 畑博行『世界の憲法集』(有信堂)

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第四九条(婚姻・家族・母親・児童)

1.婚姻、家庭、母親及び児童は、国家の保護を受ける。

2.夫妻双方は、計画出産を実行する義務を有する。

3.父母は、未成年子女を扶養し、教育する義務を有し、成年子女は、父母を扶養する義務を有する。

4.婚姻の自由を破壊することを禁止し、高齢者、女性及び児童を虐待することを禁止する。

[解釈]

中華人民共和国の婚姻と家庭について規定し、一般に社会的弱者とされる女性・児童・高齢者の保護(及び虐待の禁止)を掲げている。日本と同じく中国でも子女の扶養義務だけではなく、子供を教育する義務がある。儒教道徳の影響もあるのか、子供が父母を扶養しなければならないという家族間の相互扶助や長幼の序の倫理も示している。

中国らしい憲法の項目として『計画出産の義務』が明記されている。高齢化の進展で『一人っ子政策』こそ撤回されたものの、基本的には社会主義国家の中国では『国家の国策・人口政策の方針』によって産んでも良い子供の人数が制限される可能性がある。先進国では当たり前の女性の権利になっている『妊娠出産の自己決定権』が、計画出産を義務化する中国では未だ認められていないということになるだろう。

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第五○条(華僑の権利)

中華人民共和国市民は、華僑の正当な権利及び利益を保護し、帰国華僑及び華僑家族の合法的な権利及び利益を保護する。

[解釈]

『華僑(かきょう)』というのは、中国本土(中国の“一つの中国”の定義では台湾出身も含む)から海外に移住した中国人およびその子孫のことであり、華僑は移住しても本国に中国の国籍を保持しているとされる。この憲法の項目では、海外にいる華僑の権利・利益の保護と同時に、帰国してきた華僑の権利・利益も保護すると定められている。

世界に移住している華僑の人口は約2000万人とも言われるが、その約8割は東南アジアに集中しており、貿易業・金融業・飲食業などのビジネスをグローバルに展開している経済的な成功者(成功した華僑の一族)を多く輩出している特徴がある。

華僑の約3分の1は『客家(はっか)』と呼ばれる漢民族の系統の一つの民族であり、客家は『血縁関係のある相互扶助ネットワーク』を非常に大切にすると言われている。華僑はユダヤ人・アルメニア人・印僑と並ぶ『四大移民集団』の一つであり、東南アジアを中心に独自のチャイナタウンや華僑のコミュニティを形成している。

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第五一条(自由及び権利の行使の制限)

中華人民共和国市民は、自由及び権利を行使する時には、国家、社会、集団の利益及びその他の市民の合法的自由及び権利を害してはならない。

[解釈]

中華人民共和国を統治する中国共産党政権は『普通選挙を介さない独裁政権』としての特徴を持っているため、国家の統治・秩序・規範を乱すような『個人の自由・権利』は大幅に制限されることがあるが、そういった自由規制を合法化できる規定としてこの項目が制定されている。

個人の自由や権利の主張によって、国家・社会・集団の利益や秩序を侵害することは許されないというのは、究極的には『中国共産党の社会主義的要素のある一党独裁政治』の保守に役立つような規定である。一方で、自由民主主義の先進国と同じように、『個人の自由・権利によって他者の自由や権利を侵害してはならない』というジョン・スチュアート・ミル的な“他者危害原則”も掲げられている。

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第五二条(国家統一及び全国各民族団結の義務)

中華人民共和国市民は、国家の統一及び全国各民族の団結を保護する義務を有する。

[解釈]

中華人民共和国が漢民族以外の多くの異民族を抱えて成立している『多民族国家・統一国家』であり、中国共産党は『中国領土内の異民族・少数民族の分離独立』は許さないという姿勢を明確にしている。この憲法の項目は、多民族国家としての中国の統一性・団結性を義務として強調する内容になっており、巨大国家である中国を強権(軍事力)を行使してでも分裂させないという意志の表明になっている。

国家の統一や異民族との団結を義務として強制する可能性が強いこの規定は、チベット民族やウイグル族(イスラム教徒の民族)をはじめとして『少数民族の弾圧や同化・自治区に対する強権支配』を生み出す危険性を孕むものになってしまっている面がある。

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