日本国憲法 第八章 地方自治 第92条〜第95条

アメリカ合衆国や中国と戦った『アジア太平洋戦争』に敗れた日本は、1945年(昭和20年)8月15日に『日本軍の無条件降伏・日本の民主主義的政体(国民主権)の強化・基本的人権の尊重・戦争を起こさない平和主義』などを要求する『ポツダム宣言』を受諾した。明治期の1889年(明治22年)に公布された『大日本帝国憲法』は立憲君主制を規定する近代的な欽定憲法(君主・元首が作成する憲法)であったが、『天皇主権(天皇の大権事項)・国民を臣民(家臣)とする天皇への従属義務・国家主義による人権の制限可能性・国体思想による言論出版の自由の弾圧』などがあり、アメリカが日本に要求する近代的な自由民主主義や個人の人権保護とは相容れない欽定憲法であった。

ポツダム宣言受諾の無条件降伏によって、日本政府はGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の助言と監督を受けながら、『憲法改正草案要綱』を作成して大日本帝国憲法73条の憲法改正手続の条文に従った上で、1946年(昭和21年)11月3日に現行の『日本国憲法』を公布し、翌1947年(昭和22年)5月3日に施行した。1946年(昭和21年)5月16日に開かれた『第90回帝国議会』で、日本国憲法は審議を受けているため、GHQが無理矢理に押し付けた憲法というよりは、日本が『敗戦の講和条件・厭戦(疲弊)と平和希求の民意』に従って正規の手続きを経て改正された憲法である。

日本国憲法は『個人の尊厳原理』に立脚することで、国家主義(全体主義)や専制権力の抑圧から国民を守る立憲主義の構成を持っており、『国民主権・基本的人権の尊重・平和主義(戦争放棄)』の基本的な三原則(三大要素)を掲げている。天皇は天皇大権(政治権力)を持たずに国民統合の象徴になるという『象徴天皇制+国民主権(民主主義)』が採用され、国民はすべて個人として尊重され各種の憲法上の権利(自由権)が保障されるという『基本的人権の尊重』が謳われた。過去の戦争の惨禍に学び、戦争の放棄と軍隊(戦力)の不保持を宣言する『平和主義』も掲げられた。

ここでは、『日本国憲法』の条文と解釈を示していく。

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『日本国憲法』(小学館),『日本国憲法』(講談社学術文庫),伊藤真『日本国憲法』(ハルキ文庫),『英文対訳日本国憲法』(ちくま学芸文庫)

第八章 地方自治

第九二条

地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。

第九三条

1.地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。

2.地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。

[解釈]

第92条は、地方自治の基本原則について定めた条文で、地方自治体(地方公共団体)の組織と運営は別の法律で定めるとされている。『地方自治』とは、地域に居住する住民の意思を反映した地方の民主主義政治を、国からある程度まで独立した権限・財源の元で行うということであり、日本国憲法では『中央集権体制』と『地方分権体制』のバランスが重視されている。

地方自治法(1条3項)では、地方公共団体は、『普通地方公共団体(都道府県,市町村 )』と『特別地方公共団体(特別区,地方公共団体の組合、財産区、地方開発事業団 )』に分類されているが、憲法上の地方公共団体が具体的にどこまでの地域団体を指すのかは条文上は必ずしも明らかではない。判例では、東京特別区(東京23区)は地方公共団体ではないとされているが、現実の地方政治では地方公共団体と同じように区長の公選(選挙)が行われており、一般的な区と同列の扱いにはなっていない。

第93条は、民主主義的な地方自治の原則である『直接選挙』に関する規定であり、地方公共団体の機関や地方公共団体の長、地方議会の議員の直接選挙の必要性を記している。地方公共団体は必ず議事機関である地方議会を開設していなければならない。

第八章 地方自治(続き)

第九四条

地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。

第九五条

一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。

[解釈]

第94条は、地方公共団体の独自の権能と財産(自主財源)、事務処理機関(役所機能)、執行能力(代執行などの強制力)について定めた条文であり、地方公共団体は『法律』に反しない範囲内ではあるがその地域だけに通用する『条例』を制定する権限(限定的な自主立法権)も有している。

第95条は、ある特定の地方公共団体にだけ適用される特別法を定めようとする時には、その地方公共団体で住民投票を行わなければならないという規定である。この住民投票によって、『有効投票の過半数の賛成』を得た時に初めて、法律として成立することになる。

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