『竹取物語』の原文・現代語訳19

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『竹取物語』は平安時代(9~10世紀頃)に成立したと推定されている日本最古の物語文学であり、子ども向けの童話である『かぐや姫』の原型となっている古典でもあります。『竹取物語』は、『竹取翁の物語』『かぐや姫の物語』と呼ばれることもあります。竹から生まれた月の世界の美しいお姫様である“かぐや姫”が人間の世界へとやって来て、次々と魅力的な青年からの求婚を退けるものの、遂には帝(みかど)の目にも留まるという想像力を駆使したファンタジックな作品になっています。

『竹取物語』は作者不詳であり成立年代も不明です。しかし、10世紀の『大和物語』『うつほ物語』『源氏物語』、11世紀の『栄花物語』『狭衣物語』などに『竹取物語』への言及が見られることから、10世紀頃までには既に物語が作られていたと考えられます。このウェブページでは、『このことを帝聞こしめして、竹取が家に御使ひ~』の部分の原文・現代語訳(意訳)を記しています。

参考文献
『竹取物語(全)』(角川ソフィア文庫・ビギナーズクラシック),室伏信助『新装・竹取物語』(角川ソフィア文庫),阪倉篤義 『竹取物語』(岩波文庫)

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[古文・原文]

このことを帝聞こしめして、竹取が家に御使ひ、遣はさせ給ふ。御使ひに竹取出で会ひて、泣くこと限りなし。このことを嘆くに、ひげも白く、腰もかがまり、目もただれにけり。翁、今年は五十(いそぢ)ばかりなりけれども、もの思ひには、片時になむ老いになりにけると見ゆ。

御使ひ、仰せ言とて翁に言はく、『いと心苦しくもの思ふなるは、まことにか』と仰せ給ふ。竹取、泣く泣く申す、『この十五日(もち)になむ、月の都より、かぐや姫の迎へにまうで来(く)なる。尊く問はせ給ふ。この十五日は、人々賜はりて、月の都の人、まうで来(こ)ば、捕らへさせむ』と申す。

御使ひ帰り参りて、翁のありさま申して、奏しつる事ども申すを、聞こしめして、のたまふ、『一目見給ひし御心にだに忘れ給はぬに、明け暮れ見馴れたるかぐや姫をやりて、いかが思ふべき』

[現代語訳]

このこと(かぐや姫が月に帰るということ)を帝もお聞きになられて、竹取の翁の屋敷へと使者を遣わした。使者の前に出てきた翁(おじいさん)は、いつまでも泣いてばかりいる。このことを嘆き悲しみ過ぎて、ひげが白くなり、腰が曲がり、目も腫れて爛れている様子である。おじいさんは、今年で五十歳くらいの年齢だったが、娘を失うという物思いで、短期間の間にすっかり老いぼれてしまったように見えた。

帝の使者は、『非常に思い悩んでいるというのは本当なのか。』という帝のお言葉をおじいさんに伝えた。竹取のおじいさんは泣きながら、『八月の十五日に、月の都からかぐや姫のお迎えがやって参ります。そういったありがたい言葉を頂いたのは畏れ多い事です。この十五日は、大勢の人々を派遣して頂いて、月の都の人が迎えにやって来たら、捕縛させようかと思います。』と申し上げた。

使者は宮中に帰っておじいさんの様子を帝に伝え、おじいさんの言葉を報告すると、それを聞いた帝はおっしゃった。『私などは一目見ただけでかぐや姫のことを思う気持ちが忘れられないのに、ずっと一緒に生活して見慣れているかぐや姫を月の都の人々にやってしまうということは、どんなにつらい思いだろうか。』

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[古文・原文]

かの十五日(もち)の日、司々(つかさづかさ)に仰せて、勅使(ちょくし)、少将高野大国(たかののおほくに)といふ人をさして、六衛の司合はせて二千人の人を、竹取が家に遣はす。家にまかりて、築地(ついぢ)の上に千人、屋の上に千人、家の人々多かりけるに合はせて、あける隙(ひま)もなく守らす。この守る人々も弓矢を帯してをり、屋の内には、女ども番に居りて、守らす。

嫗(おうな)、塗籠(ぬりごめ)の内にかぐや姫を抱かへて居り。翁も塗籠の戸鎖(さ)して戸口に居り。翁の言はく、『かばかり守る所に、天の人にも負けむや』と言ひて、屋の上に居る人々に言はく、『つゆも物空に翔らば(かけらば)、ふと射殺し給へ』。守る人々の言はく、『かばかりして守る所に、かはほり一つだにあらば、まづ射殺して外にさらさむと思ひ侍る』と言ふ。翁これを聞きて、頼もしがりをり。

[現代語訳]

八月の十五日に、帝は諸官庁の役人に命じて、勅使として近衛少将の高野大国を任命し、六衛(近衛師団)の兵士を合わせて二千人の人々を、竹取の屋敷へと派遣した。竹取の屋敷に到着すると、土塀の上に千人、屋根の上に千人を配置し、大勢の屋敷の使用人たちを合わせて、わずかな隙もないように守りを固めた。この使用人たちも弓矢を持って武装し、家の中ではかぐや姫の近くに侍女たちが見張り番となって守っていた。

おばあさんは、物置部屋の中でかぐや姫を抱きかかえて座っていた。おじいさんも、その部屋の戸をしっかりと締めて戸口を守るように座っている。翁が、『これほど厳重に守っているのであれば、天の国の人々にも負けないだろう。』と言い、屋根の上にいる人々に対して、『少しでも夜空に何かが飛んだならば、すぐに弓矢で射殺してください。』と言った。屋根の上で守っている人たちは、『これほど厳重に守っている所に、コウモリ一匹でも飛んでくれば、ただちに弓矢で射殺して、見せしめに外に晒してやろうと思っています。』と答えた。翁はこの返事を聞いて、頼もしく思っていた。

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