中国憲法の『序言』では、中国が1840年以後の帝国主義列強による半植民地化の屈辱の歴史を、孫文の『辛亥革命(1911年)』と毛沢東・中国共産党の『共産主義革命(1949年)』によって乗り越え、中国人民が国家主権を取り戻したことが宣言されている。1949年の毛沢東の共産主義革命によって、中国人民が国家権力を掌握したとされる『中華人民共和国』が成立することになった。
社会主義によって運営される中華人民共和国では、資本家階級による労働者階級の搾取が消滅したと宣言され、人民を平等にするプロレタリアート独裁(労働者階級の独裁)が確立して生産手段が国有化された。共産主義革命は『帝国主義・封建主義・官僚主義の統治』を転覆させ、中国人民と人民解放軍は『帝国主義と覇権主義の侵略・破壊・挑発』に勝利するところとなった。
中国の全人民は社会主義と人民民主独裁制を堅持し、『マルクス・レーニン主義・毛沢東思想・トウ小平理論』を手引きとして、中国共産党の領導に従うものとする。台湾は中華人民共和国の神聖な領土の一部であり、祖国統一は中国人民の職責である。中国は全国の各民族人民が共同して創建された統一的な多民族国家である。本憲法は国家の根本法であり、最高の法的効力を有している。
ここでは、『中華人民共和国憲法(中国憲法)』の条文と解釈を示していく。
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初宿正典, 辻村 みよ子『新解説世界憲法集 第2版』(三省堂),高橋和之『世界憲法集』(岩波文庫),阿部照哉, 畑博行『世界の憲法集』(有信堂)
第六一条(全人代の開催)
1.全国人民代表大会の会議は毎年一回行い、全国人民代表大会常務委員会が召集する。全国人民代表大会常務委員会が必要であると考え、または、五分の一以上の全国人民代表大会代議員の提議がある場合には、全国人民代表大会会議を臨時に召集できる。
2.全国人民代表大会が会議を行う時には、主席団を選挙し、会議を主催させる。
[解釈]
中国の最高国権機関である『全国人民代表大会(全人代)』は、全国人民代表大会常務委員会によって召集され、毎年一回開催されることになっている。全国人民代表大会常務委員会は、必要性に応じて全人代を臨時召集する権限を持ち、更に全人代の代議員の五分の一以上の提議があれば臨時召集することができる。
全人代における会議の主催は、事前に選挙された『主席団』が行うことになっている。
第六二条(全人代の職権)
1.憲法を改正する。
2.憲法の施行を監督する。
3.刑事、民事、国家機構及びその他の基本的法律を制定及び改正する。
4.中華人民共和国主席、副主席を選挙する。
5.中華人民共和国主席の指名に基づいて、国務院総理の人選を決定する。国務院総理の指名に基づいて、国務院副総理、国務委員、各部部長、各委員会主任、監査長、秘書長の人選を決定する。
6.中央軍事委員会主席を選挙する。中央軍事委員会主席の指名に基づき、中央軍事委員会のその他の構成員の人選を決定する。
7.最高人民法院院長を選挙する。
8.最高人民検察院検察長を選挙する。
9.国民経済および社会発展計画、並びに計画執行情況の報告を審査し承認する。
10.国家の予算および予算執行情況の報告を審査し承認する。
11.全国人民代表大会常務委員会の不適切な決定を改めまたは取り消す。
12.省、自治区および直轄市の設置を承認する。
13.特別行政区の設立およびその制度を決定する。
14.戦争および平和の問題を決定する。
15.最高権力機関が行使すべきその他の職権。
[解釈]
中華人民共和国の最高の国権機関である『全国人民代表大会(全人代)の職権』を一覧表にしている憲法の条文であり、全人代が国家の最高権力機関として『立法・行政・司法・憲法・地方自治』などにわたり広範な権限を持っていることが分かる内容になっている。中国の全人代は、日本における国会(衆議院・参議院)に相当する。
中華人民共和国の主席、副主席を筆頭として、中国の高度な権力・権限を保有する中央軍事委員会主席、最高人民法院院長、最高人民検察院検察長などを選挙する権限も全人代が持っている。国民経済の成長や社会発展の計画を前提として、国会財政の予算や使途も全人代において議論され決定されることになる。
第六三条(全人代の要員罷免権)
全国人民代表大会は、以下の要員を罷免する権利を有する。
1.中華人民共和国主席、副主席。
2.国務院総理、副総理、国務委員、各部部長、各委員会主任、監査長、秘書長。
3.中央軍事委員会主席および中央軍事委員会のその他の構成員。
4.最高人民法院長。
5.最高人民検察院検察長。
[解釈]
中華人民共和国の最高の国権機関・立法機関である『全国人民代表大会(全人代)』は、中国の権力者の職権を奪って罷免する権利を持っており、中国の国家主席、国家副主席であっても全人代の過半数の罷免要求があれば罷免されることになっている(最大派閥を掌握する国家主席の『全人代による罷免』が現実にはほぼ有り得ないとしても)。
全人代は中国の最高権力機関であり、中国の政治・軍事・司法・検察の分野に当たる『国務院・中央軍事委員会・最高人民法院・最高人民検察院』に対しても、それぞれの権力機関の最高権力者を罷免することが可能である。
第六四条(憲法改正と議案の通過)
1.憲法の改正は、全国人民代表大会常務委員会または五分の一以上の全国人民代表大会代議員が提議し、かつ、全国人民代表大会が全代議員の三分の二以上の多数をもって通過する。
2.法律およびその他の議案は、全国人民代表大会が全代議員の過半数をもって通過する。
[解釈]
中国の立法機関である『全国人民代表大会(全人代)』は、この憲法を改正する権限を当然に持っていて、第64条では『憲法改正のための要件』が定められている。
中国憲法を改正する発議(提議)は、『全国人民代表大会常務委員会または五分の一以上の全国人民代表大会代議員』が行うことができ、更に全人代の『全代議員の三分の二以上の賛成』があれば憲法を改正することができる。日本のように憲法改正における『国民投票(直接民主主義)』の手続きはなく、中国人民の要請とは無関係に全人代と常務委員によって憲法を変えられるようになっている。
一般的な法律の決議は全人代における多数決で決められ、『全代議員の過半数の賛成』があれば全人代を通過して法律として成立することになる。
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