『竹取物語』の原文・現代語訳21

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『竹取物語』は平安時代(9~10世紀頃)に成立したと推定されている日本最古の物語文学であり、子ども向けの童話である『かぐや姫』の原型となっている古典でもあります。『竹取物語』は、『竹取翁の物語』『かぐや姫の物語』と呼ばれることもあります。竹から生まれた月の世界の美しいお姫様である“かぐや姫”が人間の世界へとやって来て、次々と魅力的な青年からの求婚を退けるものの、遂には帝(みかど)の目にも留まるという想像力を駆使したファンタジックな作品になっています。

『竹取物語』は作者不詳であり成立年代も不明です。しかし、10世紀の『大和物語』『うつほ物語』『源氏物語』、11世紀の『栄花物語』『狭衣物語』などに『竹取物語』への言及が見られることから、10世紀頃までには既に物語が作られていたと考えられます。このウェブページでは、『かかるほどに、宵うち過ぎて~』の部分の原文・現代語訳(意訳)を記しています。

参考文献
『竹取物語(全)』(角川ソフィア文庫・ビギナーズクラシック),室伏信助『新装・竹取物語』(角川ソフィア文庫),阪倉篤義 『竹取物語』(岩波文庫)

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[古文・原文]

かかるほどに、宵うち過ぎて、子(ね)の時ばかりに、家のあたり昼の明かさにも過ぎて光りたり、望月の明かさを十合せ(とをあわせ)たるばかりにて、ある人の毛の穴さへ見ゆるほどなり。大空より、人、雲に乗りて下り来て、地(つち)より五尺ばかり上がりたるほどに立ち連ねたり。

内外(うちと)なる人の心ども、物に襲はるるやうにて、相戦はむ心もなかりけり。からうして思ひ起こして、弓矢を取りたてむとすれども、手に力もなくなりて、なえかかりたる中に、心さかしき者、念じて射むとすれども、外(ほか)ざまへ行きければ、あれも戦はで、心地ただ痴れ(しれ)に痴れて、まもりあへり。

[現代語訳]

そうこうしていると、宵の頃も過ぎて、午前0時頃になると、屋敷の周りが真昼よりも明るくなって光り、満月の明るさの十倍ほどの明るさで、そこにいる人の毛穴まで見えるほどだった。大空から、天人が雲に乗って降りてきて、地面から1.5メートルほどの位置に立って並んでいる。

屋敷の内と外にいた人たちの心は、何か不思議な物に襲われるような気分になり、相手と戦おうとする意志が無くなってしまった。何とかして思い直して、弓矢を取って戦おうとするのだが、手に力が入らなくなって萎えた気持ちになってしまう。その中でも、勇猛心の強い兵士は、集中して弓矢を射ようとするのだが、的外れな方向に矢が飛んでいき、結局戦いにはならない。兵士たちは呆けたようにぼおっとした気持ちになり、ただ天人たちを見守るばかりである。

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[古文・原文]

立てる人どもは、装束の清らなること、物にも似ず。飛ぶ車一つ具したり。羅蓋(らがい)さしたり。

その中に王とおぼしき人、家に、『造麻呂、まうで来(こ)』と言ふに、猛く思ひつる造麻呂も、物に酔ひたる心地して、うつぶしに伏せり。

言はく、『なんぢ、幼き人、いささかなる功徳を翁つくりけるによりて、なんぢが助けにとて、片時のほどとて降しし(くだしし)を、そこらの年頃、そこらの金(こがね)賜ひて、身を変へたるがごとなりにたり。かぐや姫は、罪をつくり給へりければ、かくいやしきおのれがもとに、しばしおはしつるなり。罪のかぎり果てぬれば、かく迎ふるを、翁は泣き嘆く、能はぬ(あたわぬ)ことなり。はや返し奉れ』と言ふ。

翁答へて申す、『かぐや姫を養ひ奉ること二十余年になりぬ。片時とのたまふにあやしくなり侍りぬ。また、異所(ことどころ)にかぐや姫と申す人ぞ、おはしますらむ』と言ふ。『ここにおはするかぐや姫は、重き病をし給へば、え出でおはしますまじ』と申せば、その返事はなくて、屋の上に飛ぶ車を寄せて、『いざ、かぐや姫、きたなき所にいかでか久しくおはせむ』と言ふ。

立てこめたる所の戸、すなはち、ただ開きに開きぬ。格子どもも、人はなくして開きぬ。嫗抱きてゐたるかぐや姫外に出でぬ。えとどむまじければ、たださし仰ぎて泣き居り。

[現代語訳]

立っている天人たちは、その装束の美しさはこの世のものとも思えない。飛ぶ車を一台持ってきていた。その車には薄絹を張った羅蓋(傘)をさしている。

車の中に王と思われる人がいて、屋敷に向かって、『造麻呂よ、出てこい。』と言い、戦う気迫に満ちていた翁(おじいさん)も、何かに酔ったような気分になり、うつ伏せになって控えている。

王が、『お前、未熟な人間よ、わずかな功徳の善行を積んでいたので、お前を援助してやろうと思い、わずかの間だけかぐや姫を下したのだが、そのお陰でお前は長い期間、沢山の黄金を授けられて別人のように金持ちになった。かぐや姫は月の国で罪を犯したので、このような卑しい身分のお前の元へ、暫くの間、滞在することになったのだ。その罪を償う期間が終わったので、このように迎えに来たのだが、翁が嘆き悲しんだとしても、どうしようもならない事なのだ。早くかぐや姫を返しなさい。』と言った。

翁(おじいさん)は答えて、『私がかぐや姫を養い育ててもう二十年余りになります。あなたはほんの僅かな期間といいますが、それはおかしな意見です。また別の場所に、同じかぐや姫という女性がいらっしゃるのではありませんか。』と言った。『ここにいるかぐや姫は、重い病気に罹っているので、外に出ることはできませんよ。』とも申し上げたが、それに対する返事はなくて、王は屋根の上を飛ぶ車を近づけて、『さあ、かぐや姫、出てきなさい。どうしてそんな汚い所に長くいるのですか。』と言った。

閉じ込めていた物置の戸が、すぐに開いてしまった。格子の戸も人が手を触れていないのに、勝手に開いていってしまう。おばあさんが抱きしめていたかぐや姫は、部屋の外に出ていってしまった。姫を止めることもできず、ただその姿を仰ぎ見ながら泣いていた。

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